30.ミルバーンの衝撃、本当に大変な事が起きる!?
「先ずは温度からね。うん、温度は問題ないわ。ここまでは良い感じね。最近は安定してきているし、ミルクの温度はこのままいけば、抱っこよりも先に合格させられそうね」
「そうか……」
レイナさんに最初の合格を言ってもらえるかもしれないんだから、もっと喜べば良いのに。だってレイナさんから合格を貰うのは、かなり難しいと思うんだよな。
「さぁ、次よ。今日は気をつけてね、一昨日はいい感じだったのに、昨日は元に戻りそうになっていたから」
次はいよいよ俺がミルクを飲むんだけど。少しの間レイナさんが俺にミルクをくれていたが、最近は最初にミルバーンにやらせるようにしている。いい加減練習しないと、いつまで経ってもミルクを飲ませられないからって。
ミルクは俺のミルクだけども、俺が関わって作るわけじゃないから。ほら俺を抱っこしたり、あやさなくて良いだろう? だからミルバーンは、ミルクを作る事に関しては、これで積極的にやっている。
そして夜中の、本当は俺は見ているが、誰も見ていないと思っているミルバーンの、ぬいぐるみ抱っこの練習も。自分で自由に練習できるからなのか、ずっと続いているし。
ただ、ミルク飲ませだけは……。1度ミルバーンのミルク飲ましで死にかけた俺。2回目の時もやってくれた。
また俺が死にかけないように、いつでも動けるように、レイナさんが警戒する中。やっぱり俺の口からミルクは溢れ、鼻に入りそうになり。素早く助けてもらった俺。その後もう1度だけやってみたけれど、やっぱり同じ事に。だからレイナさんは俺にミルクを飲ませてくれて。
ミルバーンはその後、全ての練習が終わってから、補習みたいな感じで、マンツーマンでミルクも指導をさせられたんだよ。そのかいあってか、4日もすると、流石に鼻の方へはミルクを流さなくなって。そして一昨日は、口から溢す量も減ってさ。
だけど昨日、またミルバーンはやらかした。鼻の方にミルクがさ。レイナさんが警戒してくれてたから大丈夫だったけど。
「……」
無言でジッと俺を見てくるミルバーン。おい、なんか手が震えていないか? 深呼吸だ深呼吸。その震えじゃまた鼻の方に来るぞ。
なんて思った俺。ふとミルバーンの手が止まると、その手を引っ込めて、ミルバーンが静かに深呼吸をした。俺の気持ちが通じたか?
そうして深呼吸をやめて、再度スプーンを俺の方へ近づけてくるミルバーン。スプーンを持っている手は、もう震えていなかった。
「……」
「そっとよ、そっと」
俺の口にスプーンが触れる。少しずつミルクを飲む俺。うん、ミルクの温度と味はいい感じだな。レイナさんのよりもちょっと。ほんのちょっとだけ薄い気もするけど、たいした違いじゃない。
「ごくんっ! けぷっ」
うん、今日は1回目にしてはけっこう飲めたんじゃないかな? 口から出た分を引いても、かなり飲めたはず。いい感じだミルバーン!
「ばぶう!!」
まずまずだった事にお礼を言う。今日は鼻に入りそうになっての、ドタバタがなくて良いな。……ん? ドタバタがない? そういえば誰も何も言っていないような?
いつもだったら、少しでも俺の口からミルクを溢せば、シャイン達のあまりためにならないアドバイスが始まるのに。
『もっとこうだぜ、こう!! するっと!!』
『違うよ、もっと手をこうやるんだよう、こう!! シュッ!!』
『スプーンの角度は、三角の積み木と同じ角度だようぉ。』
シャインとフラフィーは、こうって言いながら、ほとんど音で伝えてくるから分からないし。ラピーはラピーで、物に例えてくるから分かりにくし。そんなみんなの、余計なアドバイスの声が聞こえてこない。
そしてそれはみんなだけじゃなかった。いつもはすぐに、どこが悪いってミルバーンに注意するレイナさん。もちろんシャイン達とは違う、的確で分かりやすいアドバイスをしてくれるんだけど。そのレイナさんの声も聞こえないんだ。
俺はみんなを見てみる。すると何故か、全員がぼけってとした顔で、俺のことを見ていた。ミルバーンまでもが同じ顔をしている。
「ばぁぶぅ?」
みんなどうしたんだ? って聞いてみる。だけど誰も俺の声に反応してくれなくて。仕方なくもう1度、もっと大きな声で話しかけてみた。
「ばあぶうぅぅぅ!!」
すると最初に話し始めたのはシャイン達で。話し始めたどころか、俺のお腹の上で慌て始めた。
『初めてだった!! 大変だ!!』
『本当の本当に大変だよ!! やっぱり明日何かが起こるんだ!! みんな危ないよ!!』
『大変だぁ、危ないのぉ。みんな隠れないとぉ!!』
何だ? どうしたんだ? みんな落ち着いて、ちゃんと詳しく話してくれ!! そう言ったけど慌てているみんなには聞こえなかったらしく。そのうちレイナさんの声が。
「溢していないわよね?」
って。溢していない? うん、今日は1回であれだけ飲めたんだから、溢した量は少ないはず。ミルバーンを褒めてやってくれ。
「本当に零していないわよね?」
だから溢れた量は少ないって……。ん? なんか言い方が。
「ばあぶう? ばぶう?」
みんな? 本当にどうしたんだ? 俺が思わずそう言うと、それはシャイン達に聞こえたようで、急いで俺の胸の所へ来て、慌てたまま話してきた。
『ティニー、顔、ミルクで汚れてないぞ!!』
『ぜんぜんミルクが溢れてない!! 鼻の方だけじゃなくて、口からもだよ!!』
『だから大変なのぉ。変な事が起こるかもなぉ!!』
ん? 鼻の方に溢れていないのは分かっているけど。口からも溢れていない?
「ミルバーン!! あなたついにできたじゃない!! 少しも溢さずに、ミルクを飲ませる事ができたわ!!」
レイナさんが大きな声でそう言った。な、何と!? 少しも溢さずに、ミルクを飲ませただって!? あれだけ口から溢れさせて、鼻にまで流してきて。俺はミルクで死にそうにまでなったのに。そして昨日もそれをやりそうになったのに。ぜんぜん溢してないだって!?
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