17.し、死ぬ!? ご飯で死ぬ!?

 こうして時々だけど、俺の食事を手伝う事になった面々。ミルバーンは当たり前だけど、ミルクが人肌になるまでの、ひと通りの流れを確認する事になった。


 と、そんなに難しい事はなかった準備のはずなのに。だってミルクを温めて、薬草を入れてひと煮立ち。それから人肌くらいまで冷まして終わり。だろ?


 レイナさんが、ミルクはなるべく出来立てをって。なるべく1回分ずつ作る事、なんて説明した後に。みんなに今までの手順で作ってみてくださいって。作ったミルクは、今回は夕飯用に回すって事で。


 これから俺のミルクに付き合うシャノンさん、オーレリアスさん、マーロウさん。そして絶対に練習しないといけないミルバーン。全員一緒で良いからってやらせたんだよ。そうしたら、まぁ、出来ない出来ない。


 ミルクを吹きこぼすは、薬草はその辺に散らばすは。薬草は細かい粉末状なんだけど、その散らばった薬草の粉末が俺の方にも飛んできて、俺はくしゃみが止まらなくなるは。何とか薬草を入れたと思ったら、ひと煮立ちのところで再度吹きこぼして。


 慌てたシャノンさん、オーレリアスさん、マーロウさんが、関係ないはずの料理道具をどこからか出してきて、それにミルクを入れ替えようとして溢し。台にも床にもミルクが飛び散り。新築の台所は大変な惨状になってしまった。


 ちなみにみんなが慌てて、台所がめちゃくちゃになっている間のミルバーンといえば、無の状態でみんなの後ろに立っていた。


 あまりの惨状の中、シャノンさんが最後に鍋の蓋を床に落として、その鍋の蓋のガシャン、ガシャ、ガシャ、と大きな音をたて。その大きな音が止まれば。部屋の中は静まり返った。


 そりゃあ、静まり返るだろう。簡単なミルク作りのはずが、新築の台所のはずが。何かが起こったのか、爆発でもあったのかというほどの、状況になっているんだから。


「あぶぅ」


 何だよこれ、そう言った俺の声に、みんながビクッとした。そして俺の胸の上に乗っている蝶達とスライムは、何だこいつら、くらいの表情でみんなを見ている。


「あ~、レイナ」


「はい」


「皆やった方が良いと言った手前、これは私の責任でもある。ここの台所は私が責任を持って、元の状態に戻そう。それともう1つ。きっと今、皆のことを、これはどうにもならないのでは、と思っているだろうが。こちらもすまないが、諦めずに指導して欲しい」


「はい、できる限りやってみます。ですが毎回台所がこんなになってしまうと」


「それについては、空き家が他にもある。その空き家を使って練習をしてくれ」


「分かりました。はぁ、今からは何も触らないでください。みなさん隣の部屋へ。ティニー、ビックリしてしまったわね。くしゃみもようやく止まったし。今度からこんな事がないように対策をとるわ。今はとりあえず、私が作ったミルクを飲みましょう」


 こうしてこの惨状を作った面々は、黙ったまま申し訳なさそうにリビングへ移動し。無だったミルバーンは、しっかりしなさいって、レイナさんに言われ。ミルクセットを持たされながらリビングへ移動。ミルクの入っているお椀とスプーンな。


 俺はクランシーさんからレイナさんに渡されて、レイナさんとリビングへ移動した。アイラさんは……、とても困った顔をしながら、誰も居なくなった台所で。


『こんなに酷いことになるなん。ほとんど何でもできるエルフがこうなのだから、練習前は他の種族はもっと酷い事になるのかしらね?』


 と言っていた。いや、それは違うと思います。あの4人が特別なんだと思います。俺もここまで酷い調理と、いや、調理と言えるかも分からないけど。あんなに酷い調理と台所は見た事がありません。


「さぁ、次はミルクの飲ませ方よ。赤ちゃんはミルクを飲むのも大変だから、この小さなスプーンで、ゆっくりゆっくり飲ませてあげるのよ。まずは私がやって見せるから、ミルバーン。さっきみたいに途中で固まらずに、しっかり見ているのよ。他の人達もです」


 何となくレイナさんの言葉がきつい感じが。けど、ミルクを飲ませてくれたレイナさんは仕草はとっても優しくて。俺はしっかりとミルクを飲む事ができた。

 ちなみにミルクの味は、やっぱりミルクだった。薬草が入っていても味が変わることはないらしい。目が覚めてすぐに飲んだミルクにも入っていたのかな?


「これくらい、ゆっくりあげて。そうしないと吐いてしまうわ。さぁ、ミルバーン、あなたの番よ」


「……俺がやるのか?」


「あなたがやらないで誰がやるの。最初は抱っこしてミルクなんて無理でしょうから、私が抱っこしているわ。あなたはミルクに集中を」


 有無を言わせぬレイナさんに、ミルバーンも従うしかなく。ゆっくりと俺に近づいてきて、これまたゆっくりとミルク入りお椀を持つ。そうしてスプーンを持ち、ミルクをすくうと。深呼吸なのかため息なのか大きく息を吐いて、それから恐る恐る俺にスプーンを近づけてきた。


 そして……。


「ごほっ!? げほっ!? おえぇ!?」


「ティニー!?」

 

 ま、待ってくれ、死ぬ!? ミルクで死ぬ!? 溺れ死ぬ!! まさかミルクで溺れかけるとは、死にかけるとは思わなかった。

 

 レイナさんはあれほど、ゆっくりと、そうしないと吐いてしまうと注意していたのに。ミルバーンは俺の口に一気にミルクを流し込んできて、俺は全部を飲み込めず咽せてしまい。

 口の中の入りきらなかったミルクは口の周りと鼻の方へ。そして鼻の中にもミルクが入るっていう。


 ミルクに溺れる事になってしまったんだ。レイナさんが慌てて顔周りのミルクを拭いてくれたけど。

 咽せているのも、鼻に入ったミルクのせいで鼻が痛いのも、すぐに治るはずもなく。赤ちゃんの体のせいで涙腺が緩いのか、俺は泣き出してしまった。そのせいでもっと咳が止まらなくなるし。


 まさかミルクで死を感じるなんて、そんな事あるかよ!!

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