11.決まってしまった事

 俺達は今、さっきまで俺達の今後を話し合っていた、あの集会場を出て。これから暮らす家へと向かっている。向かっているのは勿論、俺と新しい家族の蝶達とスライム。

 そして俺を抱っこして歩いてくれているレイナさんと、レイナさんの旦那さんで、ミルバーンのお兄さんのシャノンさん。


 それからドライアドのアイラさんに、この里で1番偉い、真ん中に座っていたオーレリアスさん。オーレリアスさんの隣に座っていた側近の、マーロウさんとクランシーさん。他にはあの時馬鹿笑いをしていたエリノアさんが。


 そして最後、俺達と家族生活をするミルバーンが、新しい家に向かっている。結局、俺達と一緒に暮らすのが、ミルバーンと決まってしまったからだ。


「ねぇ、お願いだから、そんな顔しないで。これは一応決まりなのよ。慣れるまでは私とエレノアが手伝いをするから心配ないし。ね。貴方達の大切な家族をしっかりとみんなで育てるから」


 レイナさんが、蝶達とスライムにそう言った。新しい家に向かう前、俺達が契約した後すぐにまた、ミルバーンが俺達の家族になるのは問題だって。蝶達とスライムが抗議。勿論俺も抗議したけれど、その時はみんな自分の抗議で忙しくて、俺の気持ちを伝えてもらえなかった。


 実は契約したことによって、どうも蝶達とスライムが、より俺の言葉が分かるようになったらしい。アイラさん曰く、契約したからではないかって。

 アイラさんにみんなが伝えた事は、今までほとんど、ちょっとしか、俺の言っている事は分からず、俺の様子を見て判断していたって。


 でも今は、半分まではいかないけど、前よりも分かるようになったって。赤ちゃん言葉なのに凄いよな。そしてそれができるようになった契約も凄いよな。


 そこで俺は蝶達とスライム達に、できる限り、いや時々でも良いから。みんなに俺の考えを伝えてもらうことにした。

 いや、あんまりはっきりと俺の考えを伝えられたら、本当に赤ん坊か? と、疑われる可能性があると思ってさ。だからみんなには時々伝えてくれ、って言っておいたんだ。


 だけど講義の時はみんな興奮していて、俺の気持ちは伝えられず。そしてみんながかなり抗議してくれたんだけど。その結果、けっきょく俺達はミルバーンと生活することに決まってしまった。


 これはエルフの里の決まりが関係していて。このエルフの里には、いくつか決まり事があるらしいんだけど。その中に、何かを見つけたり、拾った場合は、最初にそれを見つけた者が、最後まで責任を持って、それに対応する。という物があり。


 今回の俺はそれに該当するらしい。これは、責任を持つといった、基本的な事を守らないエルフが、いつの時代にも数人いて。そいつらが自分の仕事をサボったり、最後まで責任を持たず、中途半端な対処をしたせいで、里の存続危機にまで発展したことがあったと。


 それで困った昔のエルフ達が、それなら最初に現場に着いた者、最初に発見した者が、最後まで責任を持って対処する。それを怠った場合は里から追放する、っていう決まりを作ったんだ。


 今回のこと、魔力の爆発を感じて、側近のマーロウさんがミルバーンとシャノンさんに、様子を見てくるように指示。シャインさんは部下がいるから、その人達を集めているうちに、ミルバーンに、先に現場に行けって言って。


 そういう流れがあって、最初に俺達の所に現れたのは? そうミルバーンだ。そして里の決まりの、最初の者が責任を持つ、っていうのに当てはめると。ミルバーンが俺達の事に責任を持つという事になって。


 これらの事から、みんなが抗議をしてくれたのに、決まりだからと。もし決まりを破れば、今はそんなエルフがいないと信じたいけど。自分も、俺も私もと、決まりを破るエルフが出てきて。昔のように里の存続の危機に関わる事件が、起こる可能性が捨てきれないって。


 そう言われたら、みんな渋々だけど納得するしかなくて。その渋々のまま、話し合いは終了。そのまま関係者みんなで、新しい俺達が暮らす家へ向かう事に。


 ただ長のオーレリアスさんも、ミルバーンが最初から、俺の面倒を見ることができるとは思っていなくて。だからミルバーンが俺の世話をできるようになるまで、レイナさんに手伝ってやってくれって。

 だってミルバーン。絶対に今の状態じゃ、俺にミルクなんて飲ませられないだろう? 


 だけど、やっぱりまだ、本当の納得ができていないみんなは、新しい家へ向かっている間、ずっとブスっとしたまんまなんだよ。だからレイナさんが、みんなに声をかけてくれていて。

 ちなみにミルバーンは、無表情のまま、何を考えているのか分からない表情をしていた。まぁ、無表情で何も話していないけど、心の中ではずっと文句を言っているんだろう。あれだけ文句を言っていたんだから。


 そうこうしているうちに、家がだんだん少なくなってきて、畑の方が多い場所まで歩いて来た。


「人間の子供は目立つからな。慣れれば問題はないが、それまではあまり混み合っていない場所にいる方が良いだろう。それと、これから成長して、歩き回れるようになったら、こうした広い場所で、自由に走り回れた方が良いと思ってな」


「それに木の上は、人の子には危ないでしょう? エルフの子は小さい頃から身体能力が違うから問題はないけれど。だからゆっくりのんびりと生活ができて、走り回っても危険が少ない場所を選んだのよ。それに今から行く家の隣は、私達の畑があるから。そっちでも遊べるわ」


 うん。俺の家は、俺がここで暮らすと、完璧に決定する前から、シャノンさんとレイナさんが決めていたらしい。

 おそらく弟が世話をする事になるから、それなら自分達の畑の隣に、ちょうど空きがあったから、そこに家を建てて、畑を耕せば良いって。


 なんか前に住んでいたエルフは、友人の獣人とともに旅に出て、たぶんもう戻ってこないと。戻って来てももし元の住んでいた場所に誰かが住んでいれば、別に場所に住むから良いと言い残し、出て行ったらしいんだ。家を取り壊して。


 だからそこに、俺が起きるまでの短時間で新しい家を建てて、俺達の新しい家にしたんだ。短時間って、どれだけ短時間なんだよ。魔法で建てたのか? 


「ほら、見えてきた。あの家だ」


 シャノンさんが指差した方に、俺の体を向けて、見やすくしてくれるレイナさん。向こうの方に、明るめの少しキラキラしている、薄黄緑色の屋根が見えた。

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