8.双方の止まらない文句
え~と、今、何て言った? 俺の聞き間違いかな? ミルバーンって名前が聞こえたんだけど。まさかそんなわけはないはず。
だってそうだろう? 最初に俺達が会った時の、俺達に対する態度。それになんか自分は面倒だから、他の人に任せれば良かったとか何とか、色々文句を言っていなかったか?
しかもだ、最後もシャノンさんが言った事に対して、最後まで文句を言っていて、怒られてやっと納得したくらいだ。
そんなミルバーンが、俺達と家族になる? どう考えたっておかしいし。ミルバーンと俺達が楽しそうに、家族として暮らしている姿が、思い浮かばないんだが。
大体これって、ミルバーンが自分からやりたいって、絶対言ってないよな。今もすっごく嫌そうな顔してるし。
それにさっき、最後に聞いた偉い人の言葉。里の決まり通りって。たぶん、何かがあるはずなんだ。ミルバーンが選ばれた面倒な決まりごとが。それのせいでミルバーンが俺達の家族に。
いやさ、あんな場所へ転生させられて、危ないところをみんなが助けてくれて。何もできない、しかも突然現れた得体の知れない、エルフじゃない人間の赤ん坊を。このエルフの里で育ててくれるなんて。家族を作ってくれるなんて。本当に感謝しかないんだけど。
相性っていうのがあると思うんだ。家族として、毎日顔を合わせて、これから一緒に暮らしていくんだから。な、相性は大切だろう? 当分の間は離れる事もないだろうし。もし俺が動けるようになったとして、ある程度、自分のことは自分でできるようになるまではな。
家族ってさ、朝とか昼とか、まぁ、それぞれ大人は仕事とか、子供は勉強だったり遊んだりで。ずっと一緒に居るわけじゃないけれど。
それでもどこかの時間でみんなが一緒になって。その日に何があったか、楽しい事、失敗した事、面白くなかった事。色々な話しをして、みんなでその話しで盛り上がるんじゃないのか?
そんな盛り上がる家族は、仲良し家族じゃないといけないと思うんだよ。俺達みたいに出会いが険悪ムードで始まった関係のミルバーンより。ほらレイナさんやシャノンさんとか、他のエルフが良いと思うんだ。
だけど、そんな俺の考えとは裏腹に、偉い人は話しを進めていこうとする。
「これには皆が納得しているから、安心してこの里で暮らすと良い」
いや、うん。本当みんなが納得してくれているのは嬉しんだけど。俺もそうだけど、そちら、若干1名納得していないだろう。
「この子達が暮らす家だが、今のミルバーンの家では手狭で、しかも他の家々からのかなり離れた場所に建っているため、こちらで子育てに最適な家を用意した。しかし急な事だったのでな、準備が整ってはいない。だから準備が整うまでは……」
と、ここで、偉い人が話しているのを止めた子達が。そう、蝶達とスライムが、話しを止めたんだ。
俺には相変わらず言葉は分からないけど、この場にいるエルフ達はみんな、何を言っているか分かるみたいで。突然どうしたんだ? どういう事なんだ? みたいな事を、みんながコソコソ話し始めた。それは偉い人も同じで、みんなに聞き返している。
「どうしたのだ? 何か問題があるのか?」
「******!!」
「いやそれは先程言った通り。里の決まりによって決めたのだが」
「******!!」
「いや、確かのそれも大切かもしれないが、私達には私達の……」
「******!!」
「そうなのか? いや、それはすまなかった。だが、それは最初だけではなかったのか? 確かにこの者は、何事にも倒しても面倒だと、やる気を見せないが」
「ふふ、凄いわね」
みんなが何か話している時、レイナさんが少し笑って、俺に小さな声で話してきた。
「きっとまだ私達の話しを、貴方は理解できないでしょうけど。それでもこうして話しかける事が大切だものね。今、この子達は。何で勝手に決めちゃったの、僕達に一切相談なし? 里の決まりも大切かもしれないけれど、でも相性だって大切だよ。だってあのエルフ、僕達に色々文句を言ってきたんだよ。それに面倒だって、だらだらゴブリンを片付けていたんだから。ってお話ししているのよ」
おおお!! みんなも俺と同じ気持ちだったんだな。そうだよな、やっぱりそう思うよな。良かった、俺だけじゃなかった。
それからも色々と訴えてくれたみんな。ゴブリンを片付けた後も、僕達に何だその顔はとか、やっぱり最初は別のエルフが来た方が良かったって言った。シャノンさんが来てからも文句ばっかり。僕達の話しを聞いて文句ばっかり。
最後もここへ来るって決まったのに、最後の最後まで文句ばっかり。そんな文句ばっかりのダメダメエルフ、僕達初めてだよ。なんて、みんなの文句が止まらなかった。
そんなみんなの話しを、レイナさんが全て俺に伝えてくれて。僕はみんなの話に思わず、そうだそうだと、掛け声を入れてしまった。『だう!!』やら『ばう!!』だけどさ。でもレイナさんは俺のそんな様子に。
「まるで、そうだそうだって言っているみたいね」
って。うんうん、そうだよレイナさん。俺はそう言っているんだよ。と、ここまできて、ついにあいつが口を挟んだ。
「ほらみろ。こいつらだって、俺のことを嫌がってるじゃないか。だから言ったんだ。里の決まりだろうが何だろうが、絶対に俺じゃない方がいいって。それに俺だって、こんな文句ばっかりの奴らの面倒を見るなんてごめんだ」
「******!!」
「******!!」
「******、******!!」
今のは、最初から最後まで文句を言っているのはそっちでしょ!! 僕達は文句を言われたから、それから話しを聞いてくれなかったから、文句を言ったんだよ!! 文句を言われるような事、言ったのはそっちなんだから、僕達が悪いみたいに言わないでよ。
そう言ったらしい。まったくその通りだ。と、話しが一瞬途切れた時だった。
「アハハハハッ!」
ミルバーン達の後ろと、反対側の同じ位置に、女のエルフがそれぞれ立っていたんだけど。ミルバーンの方に立っていたエルフが、突然笑い始めた。
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