時の鏡
暁香夏
第1話 謎の便所
ぼくは、川口柳。小学校3年生の男の子だ。ねえ、きみの学校には、よくわからない不思議なものってある?ぼくの学校にはあるよ!みんな怪談話が大好きで、いつもみんな学校の屋上にユウレイが出るとか、第2音楽室のベートーベンのしょうぞう画の目がうごくとか、 ジャングルジムの下に白骨がうまっているとか、そういう話をしている。
でもそんなのは、ぼくはそんなのは、べつにどうだっていいんだ。 いくら見た人がいるっていったって、ぼくが見たわけじゃないからね。どうせウソだ。ぜんぜん「謎」じゃないよ。でもね、1コだけ、本当の 「謎」がある。
それは、「謎の便所」だ。
べつにユウレイの出るトイレがあるとか、そんなことじゃない。トイレかどうかもわからない。でも 便器にしか見えないから、そう呼んでいるだけなんだ。
それは校庭のはじっこの、一番はじっこの学校と外の道をへだてる金網にそって木が植えてあるあたりにある。その校庭のはじっこのあたりには、 ウサギとか、白鳥とか、ヒョウとか、カメとか、いろんな動物をコンクリートで作ったモノが置いてあって、よく低学年の子が乗って遊んだりしてるんだけど、 そのコンクリートの動物たちの列の一番はじっこ(ようするに、校庭のはじっこのはじっこの、一番はじっこってことだ)に、ヘンなのが 1コあるんだ。
白いコンクリートの丸い台の上に、白いコンクリートの丸い板をのせたテーブルみたいな形なんだけど、そのテーブルの真ん中は、 ボコッとくりぬかれて穴があいている。それからテーブルの上の板も、地面とすい平になってるわけじゃなくて、校庭の広いほうに向かって 少し低くなっているんだ。そして板の低くなっているほうの反対がわは、小さく丸く切りとられている。まるで、様式のトイレの便器のような形だ。
大きさはふつうのトイレの便器よりも少し大きいけど、すわるのにちょうどいい高さなんだ。 だけど、便器をデザインしたモノなんか校庭に置くなんて、ヘンじゃないか。
友達は「便所だ」っていってる。姉ちゃんにきいたら、「あれは日時計じゃない?」だって。たんにんの先生は、ぼくがきいたら 「ふふふ…」って笑って何も教えてくれなかった。
便所なんてぜったいにヘンだし、日時計はあんな校庭のはじっこの木のかげになっちゃうようなところには置かないもんだ。先生なんて、 どうせ知らないんだ。大人はいつだって知らないことはごまかそうとするんだから!
とにかくそういうわけで、この物体が何なのかはわからないんだ。だから「謎」だ。だからぼくは日曜日の今日、ひそかにこの謎を あばこうと校庭にせん入した。
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