越えた先にあるもの
貫田 実世(ぬきた みよ)
第一章 橋を越える
第1話
大学の夏休みに入り、帰省をしなかった俺達5人はバイトくらいしかやることがなく、暇を持て余しており、バイトが無い奴等は毎晩、誰かの家に集まりダラダラと酒を飲みながら無為な時間を過ごしていた。最初の頃は気のおけない友達と、将来のこと、彼女のことなど語り合う楽しさがあったが、それも1週間ももすると飽きてきて、夏休みも20日を過ぎた今では惰性で集まっているだけだ。
いつもは誰かしらバイトに行っていて欠けているが、今日は珍しく5人全員バイトが休みで、揃って
時刻が深夜0時に差し掛かった頃、家主の樹が、
「なあ、お前らあの丘の遊歩道から横に逸れて行った先に廃神社があるの知ってる?」
と言い出した。
丘と言うのは、樹のアパートの裏手にある山と言うには低すぎる、小高い丘のようになっている場所で、遊歩道が整備されており近隣住民の憩いの場所になっている所だ。
「廃神社?丘ってこのアパートの裏手のだろ?そんな所に廃神社なんてあったか?」
「おー、噂には聞いたことあるぜ。でも、実際行ったことあるヤツって聞いたことないけど、ガセじゃねーの?」
裕太の疑問に優が興味なさそうに反応する。
「それがさ、俺、この前あまりにも暇すぎて昼間にブラッと行ってみたんだよ。そしたらさ、遊歩道の途中に一部なぜだかしっかりとチェーンの手すりが設置されて整理されている場所があるだろ?あそこ、よくよく見ると獣道みたいな道がチェーンの手すりみたいなやつの外に伸びてるんだよ。その獣道をしばらく歩くと鳥居が見えるんだよな」
「チェーンフェンス」
今まで俺たちの話を聞きながら静かに酒を飲んでいた真壁が言う。
「え?」
「チェーンの手すりみたいなやつ、あれ、チェーンフェンスって言う名前なんだ。ほら、俺ん家、土建屋でああいうのも取り扱うんだよ」
「ああ、そう言えばそうだったな。へー、あれってチェーンフェンスって言うのか。思ったよりそのまんまの名前だな」
優が感心したように応える。俺もその横で素直に感心し深く頷いた。一つ知識が増えたな。まあ、これから先使うことはなかなか無さそうだ。
「へー、そうなんだ。まあ、そんなことよりさ、そこに肝試しに行ってみねぇ?」
樹がニヤリと笑いながら続けて言う。
酒も入り、暇を持て余していた俺達に、断るという選択肢は無かった。
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