夏だ!祭りだ!③〜波乱〜
それから。じゃがバターや串焼きなんかを堪能し、山車のパフォーマンスにも目を奪われ。あらかた店を見終わったか、というときだった。楓真が足を止めて、なにかの屋台をじっと見つめて。何かと思えば、そこは──おめんの屋台のようだった。
「お面買ってくる!! ごめん、ここでちょっとまってて!!」
「買うんだ……」
何を買うのだろう。昔から人気だったり、最近流行りのキャラクター、それにキツネのお面なんかがあるけれど。
「楓真が最近ハマってるキャラのあったからねー」
「ああ、家でたまに見てるあれですか」
「そうそう、あれ」
どれなんだ。
ツーカーで通じる彼らのやりとりに、首をかしげる。親友として楓真の近くにはいたものの、彼が好きなキャラクターがどれかわかりはしなかった。ちょっと、悔しいかもしれない。
勝ち目もない嫉妬を覚えていれば。楓真がいなくなって、三人だけになる。沈黙が落ちるけれど、前ほどの気まずさは感じない。それはひとえに、彼らがどんな形であれ苦手なはずの人間と何度も関わってくれるからであって。少しずつでも、彼らのことがわかっていったから。それは、素直に──嬉しいのだ。時には、というか結構な頻度で恐怖を感じたが、彼らの気持ちを考えればそういう態度になってしまうのも頷けるから。
今だって、"あれ"で通じるふたりの会話も、俺という異分子には理解できなかった。何が言いたいかというと、つまり──それでも俺なんかをこのグループに入れてくれている事実が、胸に染み入るのだ。そうでなかったら、俺なんかは入る余地も無くて、兄弟三人で祭りに来ていただろう。だってその方が、気を遣わなくて楽だろうから。
なんだか、どうしようもなく感情が昂ってしまう。祭りの非日常感がそうさせたのだろうか。俺はふたりに向き直って、気がつけば口を開いていた。
「ありがとうございます」
「……どうしたの、いきなり?」
優真さんが不思議そうに瞬く。当たり前だろう。脈絡もなく突然お礼を言われるだなんて、不審でしかない。
笑いを零してから、また口を開く。今は不思議と、なんでも言えるような気がした。
「感謝してるんです。俺と仲良くしてくれて」
「そんなの当たり前じゃない」
「……そ、そうですよ」
今更隠さなくてもいいのに。今ここには三人だけなのだから、楓真が聞くこともないのに。こういうところに、好感が持てる。きっと、彼らなりに普段の敵意は隠そうとしてくれていたのだろう。結果としてダダ漏れにはなってはいるが、そう思うとなんだか──意外と不器用なところもあるのか、と笑ってしまいそうになった。
陽真くんはほんの少し目を見開いているが、優真さんはいつも通り微笑んでいる。その目には、どんな意図があるのか、探るような色が浮かんでいたけれど。
「だってふたりとも、なんやかんや優しくしてくれるじゃないですか」
──俺のこと苦手なのに。
言葉を付け足した、その瞬間。空気が凍った、ように思えた。
「え?」
「は?」
ふたりの声が重なる。そこには──絶望に似た色が滲んでいて。
「……え?」
てっきり、まあ、なんて濁した反応が来るかと思い込んでいたから。
予想外の反応に──俺は、間抜けな声を発することしかできなかった。
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