Aquarium
@rui_takanashi
愛に溺れる
黒く長い髪の毛を指で救い上げながら、そっと耳にかける。
そんな些細な仕草さえ様になるってズルい。
「好き」
その言葉を今まで何人に吐き出してきたの?
胸にせりあがる言葉を必死で飲み込みながら、彼に手を伸ばす。
「泣いてるの?」
黙って首を横に振るわたしの頭を押さえつけて。
強い力とは裏腹な優しいキス。
ああ、もうダメ。この狭い部屋で、わたしは一人溺れていく。
もがくことはなく、静かに沈んでいく。
「また来るね」
朝が来る前に、夜と一緒にあなたは消えていく。
次の約束なんて、ない。
淡い色の毛布に染み付いた、匂いを抱きしめて眠る。
夜に置いていかれないように、しがみつきながら眠る。
窓から今にも落ちてきそうな月が覗いていた。
不安定で、脆くて、まるでわたしみたいだ。
掬い上げるように、ギターを奏でるあなたを好きになった。
その指は、わたしのことも救ってくれるんじゃないかと思った。
大丈夫だよ。生きてていいんだよ。
そう言ってくれる気がしてた。
わたしは今も一人だけれど、あなたもきっと一人だ。
みんなみんな、結局はひとり。
誰かといても、ひとりぼっちなのだから。
慰めでもよくて、気の迷いでもよくて。
少しでも傍にいてくれるだけでも良くて。
それだけでよかったのに。
今夜のあなたの痕跡を探してしまう。
赤裸々な掲示板には、嘘も本当も混沌としてる。
だけどわたしはやめられない。
同じ夜の下で、あなたの腕の中で、あなたのその優しい指で、
絡み取られているであろう誰かを探してしまう。
痛いのに。辛いのに。
心は泣いている。だけど涙は出てこない。
暗い部屋で、あなたの声を思い出す。
わたしの名前を呼ぶ、その声だけに、生かされている。
髪の色が、黒から金になったんだって?
そんなこと知らない。
わたしの知らないあなたなんて知らない。
さらさらと流れていく綺麗な絹のような髪をしたあなたにはもう会えないのか。
そんなことを思いながら煙草に火をつける。
吐き出す白い煙の中に、希望も溶けていく。
なんとなく、わかってた。
あなたは髪の毛一つ残さない。
妄想だったんだって言われたら、何にも言えないくらい。
いっそ妄想なら、どんなにいいだろう。
そしたらあなたはこの部屋のドアを閉めたりしないじゃない。
皺の寄ったシーツも。
匂いがしみついた毛布も。
何もかも残して。消えてしまいたい。
殺してくれたらよかったのに。
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