ハーレム計画~振り返るとこの人しかなかったになるヤンヤン理論~

みねし

第1話 プロローグ

「別れよう」

「……え?」

俺、宇(う)別(べつ) 智(さとし)は恋人である椎名(しいな)理(り)恵(え)に別れ話を切り出している最中だ。

「大人気VTUBERなんだろ? 俺が近くにいると理恵の邪魔になるし……」

「付き合い立ての頃公表したでしょ!? そりゃ中には脅迫めいたコメント投げる人もいるけど……九割近くには応援してもらってるし個人勢だからいいって最初言ってたよね!?」

「……脅迫投げてくる人がなくはないだろ? 俺だってずっと悩んできたんだよ。 でもこれしか……」

「智のバカ! 勝手に悩まないで相談してよ。そりゃ、配信優先するところがなくはないし、VTUBERって仕事柄、智からしたら面白くないかもしれないけど……でも好きなのはあんただけだから」

「……とにかく理由になってない。よって却下! 別れてなんかやらない」

また平行線辿ってる。

どんな話題を出したところ、取り合ってくれるのはふりだけ。

表向き俺を気遣うふりをしつつ自分の思考優先になる。

「……やっぱ俺って変化球向いてないかもな」

「野球の話? ごめんもうすぐ配信あるから……」

「おめぇにノリ合わせるの疲れてるから別れるつってんだろ?」

「またその話? もう終わった話題いつまでも……」

「終わってんのは俺たちの関係なんだよバカ女が!」

「っ……!」

「ぶっちゃけ飽きた。室内デートオンリー、気が付くとお前の配信の動向チェックの毎日だ。恋愛って一方通行じゃないんだよ」

「醜い言い争いして時間にロス生じるのはごめんだ。今までお疲れさん、二度とその面合わせないことを祈るってるぜ」

言いたいことだけ吐き捨て、理恵の家の前から離れる。

遠くから大声でなんかほざいてるみたいだが、距離が開くことに小さいノイズになってゆき、やがて完全に聞こえなくなる。

まぁ、特に何事も起きないだろう。

家帰って遅めの昼飯にするかー。

と、駅前について改札を通るため携帯を取り出すと、そこで通知が届いてることに気づく。

「カフェ、か」

いっつもいつもタイミングが良すぎるな、あいつ。

予定変更だ。


・・・


「……で?また別れた?」

「まぁな」

「くずやろー」

「否定できなくてきくぅー」

「で? 今回はどういう言い分だったの?」

「傷心の男子に期待の眼差し向けんな!」

「傷ついてないからこう言ってるじゃない」

「……まあな」

図星だ。まったく傷なんてついてない。

「やり捨てぽいぽいさいこー?」

「これうっまー! 毎回こういう店どっから調べてくんだ?」

「とぼけない、とぼけないー。で? なんで別れたの?お姉ちゃんの胸でドーンと泣いてもいいよ?」

「ツッコミどころ多すぎだろ……。まずお前どちらかというと妹だろ」

「はぃい今のでさと君の兄ポイント五億点減少しました! 従ってやむなくこの私(わたくし)、九重(ここのえ)結愛(ゆあ)がせんえつながら一時的に姉役を務めさせていただきまーす」

「これが今どきの若いもんってやつか……! 時流じゃのぉ」

「それあなたの三番目の元カノレベルだからやめて?」

「言い過ぎやめれ」

目の前で年齢ひとつでジェットコースター並みのテンションを作り出してるこいつがさっき俺に連絡を入れてきた張本人、九重結愛。

深紅色に染めた肩までくる髪に、クリっとした大きな瞳。

今日は白をベースとしたワンピースを羽織っている。

かなり裕福な家出であり、文武両道の八方美人みたいだけど実際目にしたことがあんまりない。

俺の感覚だけの話では中学からの腐り縁の可愛い後輩だ。

「ほらさと君、早く説明してよ。私うずうずしてるの見えない?」

「ついにお前に一般感傷がわかる日が来たのか!?」

「ううん、くずやろー煽るの楽しいから早く聞きたいだけ」

「頭のネジ締めとこうぜ? 結婚できないぞ?」

「あなたの未来は予約済みだからいいって6年くらい前から言ってるでしょ。 早くきーかーせーて!」

「けっ」

「鼻で笑うな鼻でー! からかった分、私のあそこいじめていいからー!」

訂正、ただ生意気な後輩だ。

おまけにサイコ疑惑付きの。

「……まぁ、なんだ? そりが合わなくて別れたよ」

「前もそれだったてしょ? いやぁ前よりはマシか」

「むしろ最悪だ。Vtuberの中の人だったけどさ」

「うん」

「お家デートオンリー。気が付くと配信の手伝いしてるなんて小説の中だけだと思ってたけど9割、そのオチだった」

「それエロ同人だけの話じゃなかったんだ」

「おまけにイライラしてくる頃、見計らったかのように“でもあたしが好きなのはあんただけ“って言うんだぞ?」

「……そこからわからせで始まる何かはなかったのかしら?」

「残念ながらなあ。あ、でも……」

「?」

「身体は何回か重ねたかなー」

「っ!?」

「もちろん深い意味合いないぞ? 意味深に言っただけで今回の恋愛にはそういうの一切なかった」

「そ、そっかぁ……」

一瞬怖い表情となった彼女の顔面筋が、俺の一言で晴れていく。

まぁ数年も前から嫁の席、予約してますー公言して回っているし、結愛からしたら面白い話ではないのかも。

ヤった直後、たまたま顔合わせて洗いざらい吐いた時なんかすげー怖い顔で睨まれてたっけ。

「あと“かしら”って言うな。めっちゃお嬢様ぽくてドキドキしてしまう」

「むっ。私はお嬢様だぞ! なんなら清楚なまであるぞ!」

「事実だから言い返せなくてむかつく~」

「だから一回表にでろー! 具体的には近くにある高級ホテルの最上階で私にち……」

「一回だまろーねー結愛ちゃん!」

咄嗟に結愛の口元に両手をかざすと、ぬめり気のある感覚が指先に走った。

最初は手のひら、指の第一関節、第二関節……。

「舐めんな!」

「なへへあいよ?」

上目遣いでそれは無理あるやいーー!

ちろって音までなってるし……!

「っぷはぁ。ごちそうさま♡」

「私の匂いに上書きできたー! 今日この後予定あるんだっけ?」

「ないけど……。お前なぁ、周りに人がいるから……」

「ここ貸し切り中。今あるのは私のSPだけだよ?」

そういえばそうだった。

向かい合いで座ってる俺たちのテーブルから斜めで離れてる席からペコリとお辞儀してくるSPさん。

美晴さん……だっけ。

お辞儀を返すと微笑まれた。あと目の前の結愛に睨まれた、なんで。

「色魔やろー。移動しましょう? 傷心中の先輩を慰めてでろんでろんに……」

「メロメロ?」

「そそ、それ。とにかく今日は私の奢りだから遠慮しないの!」

「おい、ちょっとゆっくり歩け、転ぶ転ぶ!」

ガシッと恋人繋ぎで俺の左手を拘束した彼女に引っ張られる形で階段を下り、SPしかいないカフェから抜け出してあてどない旅が幕を開く。

下りてくる最中、「お嬢様をよろしくお願いします」と背中に投げられた声に気を遣うのはたぶん俺だけだろう……。


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