第28話 謁見
多少の妨害にあったもののおおよその時間通りに王都キュートスクへと辿り着いたサブローは、王城へと向かいルードヴィッヒ14世と謁見する。
「遠路はるばるよく来たサブロー・ハインリッヒよ。先ずは、ルードヴィッヒ14世の名の元に貴殿をオダ郡の領主に任命する。励むが良い」
「有り難くお受けいたします。父が亡くなり気落ちした母を宥めたり、国境を襲われたりと対応に追われて、陛下への御挨拶が遅れましたことをここに謝罪致します」
サブローは、領主就任を正式に受け取るときちんとした言葉で起こったことを簡潔に話し、自分の落ち度を謝罪した。
「そうであったか。デイル・マルからも聞いている。何か行き違いがあったそうだな。アイランド公国を束ねるものとして、小競り合いを静観したこと申し訳なかった」
関わっていたと言わずに静観していたと謝るとはな。
だがこちらは数多くの証拠を持っている。
王とて、痛みは伴ってもらうぞ。
やれやれ、こちらから切り出さねばならんか。
「ヒヒッ。お待ちくだされ陛下。小競り合いなどではなくオダ郡からの一方的な虐殺ですぞ。ヒヒッ」
嫌味な笑みを浮かべながら語り出すデイル・マル。
「確かにマル卿の言葉を聞く限り、陛下の勅使に対して、戦を仕掛けたのは、サブロー・ハインリッヒと言わざる終えませんな」
力瘤を見せ付けながらデイルの話に信憑性を持たせようとするドレッド・ベア。
「確かにマル卿の話を聞く限りですと一方的に被害を被ったとみえます。寧ろ、街以外で防衛設備を築くことは禁止しています。それに違反したハインリッヒ卿にも落ち度があるかと」
長い髭を触りながら冷静な口調で話すこの男は、サブローの妨害をしたチャルチ郡の領主、アダムス・プリスト公爵、特定の宗教に傾倒することを禁止しているアイランド公国にて、あろうことか娘がセイントクロス教の熱心な信者で、そのことを知られたデイルに弱みを握られ、黙っている代わりに協力させられている。
セイントクロス教とは、弱きを助け強きを挫くを信条とする宗教で、どんな時も弱いものの立場に寄り添うことを第一としている。
元々は、別の大陸から流れてきた流民から広がった宗教であり、ヴァルシュラ大陸ではあまり知名度の高くない宗教の一つ。
「デイルだけでなくドレッドにアダムスと騒いでは、確かめなくてはならなくてな」
ルードヴィッヒ14世の隣で黙って聞いていた明らかに知恵者といったような博識そうな男性が口を開く。
「マル卿の話が真実ならハインリッヒ卿は、魔法を使ったことになります。先ずは、そちらの真偽をお聞かせいただけますか?」
「承知致しました。あれは風の悪戯なのです」
サブローの言葉に全員が目を丸くしているのを見て、サブローは話を続ける。
「説明不足で申し訳ありません。ハザマオカ周辺の地形は不安定で、時折神様の悪戯としか思えない程の恐ろしい風が吹くのです。それに巻き込まれ、千人にも及ぶ尊い命が失われてしまいましたことをここに謝罪致します」
サブローは説明を終えると深々と頭を下げるがデイルが納得できるはずもない。
「それならば、俺たちよりも前にいたキノッコ将軍にも被害が出なければ、おかしいのではありませんかな。ヒヒッ。咄嗟についた嘘にしては、説得力にかけましたな。陛下、サブロー・ハインリッヒが魔法を使ったのは明らか。マジカル王国と裏で繋がっているのです。すぐにお取り潰しを。ヒヒッ」
それに待ったをかけたのは、博識そうな男性である。
「陛下、お待ちください。確かに状況証拠的にはハインリッヒ卿が苦しい言い訳をしたと考えられなくもありません。しかし、この件に関して証拠が無いことも確か疑わしきを罰していては、他の郡を預かるものも次は自分の番だと怯えることとなりましょう」
博識そうな男性のもっともな言葉に頷く、デイル、ドレッド、アダムス以外の面々。
「ふむ。クレーバー宰相の言葉ももっともだ。それだけの理由で、サブローが魔法を使ったとは断定できん。今回は風の悪戯として諦めるのだデイルよ」
「陛下のお言葉なれば、致し方なく」
成程、痛み分けで終わらせて、陛下自身への飛び火を防ぐことで話は付いていたようだな。
だが、ワシは許さん。
こうまで、似合わぬ向こうのやり方に合わせて言葉も丁寧にしてやったのだ。
得るものが無ければな。
「お待ちください陛下。マル卿が我が領を攻める際、陛下の御言葉を読み上げられまして、最後の言葉がどうしても飲み込めないと反対したところ攻められたのです。その軍の中には、ナバル郡の兵もいましたが説明願えますかベア卿!」
サブローにいきなり話を振られたドレッドは、少し考えて話す。
「俺の軍が独断専行したようだ。その者たちは、ハインリッヒ卿の手にかかったそうだが不穏分子を取り除いてくれて、感謝する」
成程、あくまで関わっていないと言い切るか。
だが、これに関しては確実な証拠がない。
だから、今切り込むのは、こちらだ。
「そうでしたか。こちらも防衛のため仕方なく命を奪いました。とはいえ、彼らも家族がいるでしょう。その者たちに罪はありません。遺体は、ベア卿の方で、丁重に弔っていただきたい」
「御心遣いに感謝致す」
「話は終わったようだな。ではこれにて」
「まだ終わっていません。ここに陛下の言葉を偽った不届者がいるのですから」
早々に話を切り上げようとするルードヴィッヒ14世にサブローは、突きつけたのだった。
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