ドラゴナル

最強の糸束

プロローグ

むかしむかし、まだ島々が空に浮かぶ前の話。

人族と魔族の戦争は終わりを迎えた。

人々は文明を失い、愛するものを失い、その誇りも穢れた。

誰もが皆殺しにされると思ったその時、魔族を統べる龍族の長である龍王は人族に言った。

「我は龍王。天を支配し、大地に恵をもたらすもの。我は人族を絶滅させようとは思わない。」

人族は一筋の光を見た。同時に、龍王の寛大な御心に感謝した。しかし、それも数瞬後には消え失せた。

「しかし、先の大戦でこちらも大きな痛手を負った。その代償として、天照人を贄に捧げよ。」

天照人とは人族の希望であり、見目麗しい現人神である。産まれたときには言葉を話し、奇跡を起こす力があったという。

人族は与えられた猶予の中で話し合った。

人族の光を捧げるべきか?それとも、もう一度大戦を起こし、今度こそ絶滅してしまうか?

貴族同士が言い争う中、天照人は言った。

「私が生き延びて人族が絶えるのならば皆の後を追って死にましょう。私が死んで人族が生き残るのならば喜んで死にましょう。」

その言葉を聞いた貴族は皆、悲しみに暮れた。

自分たちはなんのために戦っていたのか、人族の希望のためではなかったのかと。

しかしもはや時間は残されていない。

人族の王は言った。

「確かに、我々の希望は天照人である。されど我々はかの御方を守ることが出来なかったのだ。もはや選択の余地はない。」



「さて、贄を貰おう。」

龍王は真っ黒な瞳の中に紅い虹彩を光らせて、鋭い眼光を放っていた。

その後ろには数多くの龍が、炎や氷様々の息吹を空に放ち、その先には螺旋を描いて吠える龍の群れが雄叫びを上げていた。

人族は皆恐れおののいたが、天照人だけは物怖じせず前に躍り出た。

「約束通り私はここに参りました。他の……」

刹那、天照人の首ははねられた。いや、それは正確では無い。頭を喰われたのだ。

龍王の口から真っ赤な血が流れる。

「余興は終わった。我ら龍族はこれから天空に国を作り、大地を離れる。もはや貴様らと会うことはないだろう。」

そう言うと龍王は大きな翼を羽ばたかせ、近くにいた人族をなぎ倒しながら、大空へと飛んで行った。

人族は天照人を失ったことに絶望したが、戦争が終結したことには安堵した。

これからは戦争をしなくていい。

これからは自分たちの好きなように獲物を狩り、街を拡大し、豊かになっていい。

確かに天照人が犠牲となったのは辛いことだったが、これからの生活は今までの暮らしよりもはるかに辛くないものとなるだろう。


そして、もう決して龍族とかかわり合いにはならないと誓った。



人々は復興作業を始め、新たな文明、新たな誇り、新たな街を作り、徐々にまた豊かになっていく。

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