雨の神社

旋転星 当

第1話 雨の中で

「やばい…。傘が完全に壊れた。」

晴は鉄の塊となった持ち物に向かって言った。


遡ること1時間前

「じゃあ今日も神社の掃除とお供えに行ってくるね。」

家族にそう言って晴は小さな神社に向かった。神社がある場所は細い川を丸太で渡っていった先。いつも晴は掃除とお供えを欠かさない。伝統という家族の伝えもあるが、晴はこの静かな雰囲気が好きだ。静かな風、森林のサワサワという穏やかな音、上を向けば緑と青と白の空が晴れ渡る。この静かで、穏やかな空間に一人で浸っている時が晴にとって気持ちが落ち着く場所なのだ。

それなのに、今は木々をなぎ倒すかのような暴力的な風の音、それに付随して聞こえる木々の悲鳴、上を向けばむき出しになった茶色と薄暗い黒が見える何とも悲しい空間になっていた。途中で引き返そうと思って丸太の場所に帰ったが、細い川とはいえ急に降ってきた雨風に影響されて濁流と水位がました川に変化していた。丸太の橋は途切れ、歩いて渡ろうにも足ごと引っ張られそうで進勇気がでず仕方なく神社にむかった。小さな神社は人一人が何とか雨宿りできる大きさでこの暴風雨では下手したら壊れてしまうのではないかというほどの古い神社。そこに全身がビショビショになりながらなんとかたどりついた。やっとの思いでついた神社には驚くことにもう一人雨宿りをしている人がいた。

「おや、貴方も雨宿りですか?」

横からでてきたのは長身の男性だった。同じく全身びしょ濡れで半袖は中の肌が透けて見え、長ズボンや靴は泥の中を歩いていたのを容易に想像できるほどに汚れていた。つり目で茶髪の男性は優しい声で

「ちょうどタオルを用意したところなんです。一枚どうぞ。」

と私に向かって一枚のタオルを渡した。少し大きいハンカチくらいの大きさだが何も持っていない私にとっては十分すぎる大きさだった。

わしゃわしゃと雑に水を落としている私と対象的に彼は丁寧にみずをふき取っていた。さっきよりも不快な濡れ感は消え彼もブルブルと首を横に振り水を落としていた。

「あの、タオルのお礼におにぎりをどうぞ。」

これは本来神社のお供えとして持って行ったおにぎりだ。家族に神社にいくことをいうと必ずお供えとしておにぎりを持っていく。翌日には神や動物たちに食べられたのか米粒とお皿が残っている。

彼は目を輝かせて

「そんな!よろしいのですか!」

といった。遠慮の言葉を言っているのに声色が浮いている。ないはずの尻尾がふりふりと横に振っているように見える。そんなにお腹が空いていたのか。私より背が高いのにとても子供っぽい印象を持った。

二人で4つのおにぎりを食べていると、彼が私の方をじっと見つめていた。

「どうしたの?」

と声をかけると

「いえ、とてもおいしいので感謝しているんです。あんまりこういうのは慣れていないので。」

普通においしいと言ってくれればいいのに。それでも嬉しかった。こんな豪雨の中でこんな気持ちになるのは不思議な心地だ。傘は壊れるし川は濁流になって私に歯向かうように勢いが増してとても不運な日だというのに、降ってよかったと思ってしまっている私がいる。

「そっか、ありがとう。これを作っているのは親なんだけどね。」

「このおにぎりにはあなたの親の真心とここまで届けに来てくれる貴方の真心を感じます。だからこのおにぎりは特別な味がするのですね。」

そういって彼はモグモグと幸せそうにおにぎりを食べた。やっぱり無邪気でかわいいな、なんて。そんな彼とそのあとも他愛のない話を続けていた。いつやむのかわからない雨は晴れ、青空が見えていた。


先ほどの雨風はどこか消え、水の反射がさっきまで降っていたことを脳に刻み付けてくる。神社の中は狭く2人はいるには窮屈だったがそんなことを忘れさせるような思い出になった。

「雨風で壊れたところないかな…。」

そう言って私は小さい神社をぐるっと一周した。幸い破損部分はなく、水が滴るいい神社…になっていた。早速雨で中止していた掃除を始めようとしたとき

「一旦家に帰るルートをみてきてはいかがでしょうか。」

そういって彼は私を止めた。そういえば川の増水で丸太の橋が壊れたんだっけ。確かに晴れた今が帰れる道を見つけるチャンスだよね。私は早速橋の方を見に行った。

「晴!ごめんね突然こんな天気になると思ってなくて。今から母さんがそっちに行くから動いちゃだめだよ!」

母は私の方へ歩いてきた。私は150cmも成長したのにいつまでたっても子供を見る目のままだ。母はビシャビシャの私をみて一旦風呂に入ることを進めたがこの先にまだ人がいることを言うと

「じゃあ一緒に家に来なさい。風呂なら貸してあげるし服も家の旅館の服をあげるから。」

と言い一緒に神社の方へ歩いて行った。神社につくと風によって荒らされた葉っぱは持ってきた袋にまとめられており、男性の影はなかった。私はお礼も言えずに彼が消えていたことにショックを受けた。橋に行って戻ったとしてその間に掃除をして立ち去っていると考えるとあまり遠くへは帰っていないはずだ。そう考えた私は辺りをくまなく探したが足跡すら見つからなかった。一体どこに行ったんだろう。

「きっと彼も雨がやんだから帰ったのよ。あんまり晴に心配かけたくなかったんじゃない?」

母はそういうがどうしてももう一度会いたい。お礼を言ってもっとお話ししたかった。しかし、これ以上探すと今度は貴方が風邪をひいてしまうわと言われしぶしぶ家に帰った。風呂に入っている間、私はずっと彼のことを考えていた。果たして彼は家に帰ることができたのか。私みたいに探して風邪をひいていないか。悶々となやんでいたが何も解決できなかった。


不思議な出会いをして翌日。私はいつものように神社に訪れていた。橋は壊れたが、下に降りてまたげば、反対にたどりつく距離だ。あの時の経験から豪雨が予想されるときは行かないように忠告された。たどり着くと狐が神社の前ですやすやと寝ていた。

「狐が寝てるなんて珍しい。」

おにぎりを狙って目を輝かせている狐はたまにみたことがあったがこん

が完全に壊れた。」

晴は鉄の塊となった持ち物に向かって言った。


遡ること1時間前

「じゃあ今日も神社の掃除とお供えに行ってくるね。」

家族にそう言って晴は小さな神社に向かった。神社がある場所は細い川を丸太で渡っていった先。いつも晴は掃除とお供えを欠かさない。伝統という家族の伝えもあるが、晴はこの静かな雰囲気が好きだ。静かな風、森林のサワサワという穏やかな音、上を向けば緑と青と白の空が晴れ渡る。この静かで、穏やかな空間に一人で浸っている時が晴にとって気持ちが落ち着く場所なのだ。

それなのに、今は木々をなぎ倒すかのような暴力的な風の音、それに付随して聞こえる木々の悲鳴、上を向けばむき出しになった茶色と薄暗い黒が見える何とも悲しい空間になっていた。途中で引き返そうと思って丸太の場所に帰ったが、細い川とはいえ急に降ってきた雨風に影響されて濁流と水位がました川に変化していた。丸太の橋は途切れ、歩いて渡ろうにも足ごと引っ張られそうで進勇気がでず仕方なく神社にむかった。小さな神社は人一人が何とか雨宿りできる大きさでこの暴風雨では下手したら壊れてしまうのではないかというほどの古い神社。そこに全身がビショビショになりながらなんとかたどりついた。やっとの思いでついた神社には驚くことにもう一人雨宿りをしている人がいた。

「おや、貴方も雨宿りですか?」

横からでてきたのは長身の男性だった。同じく全身びしょ濡れで半袖は中の肌が透けて見え、長ズボンや靴は泥の中を歩いていたのを容易に想像できるほどに汚れていた。つり目で茶髪の男性は優しい声で

「ちょうどタオルを用意したところなんです。一枚どうぞ。」

と私に向かって一枚のタオルを渡した。少し大きいハンカチくらいの大きさだが何も持っていない私にとっては十分すぎる大きさだった。

わしゃわしゃと雑に水を落としている私と対象的に彼は丁寧にみずをふき取っていた。さっきよりも不快な濡れ感は消え彼もブルブルと首を横に振り水を落としていた。

「あの、タオルのお礼におにぎりをどうぞ。」

これは本来神社のお供えとして持って行ったおにぎりだ。家族に神社にいくことをいうと必ずお供えとしておにぎりを持っていく。翌日には神や動物たちに食べられたのか米粒とお皿が残っている。

彼は目を輝かせて

「そんな!よろしいのですか!」

といった。遠慮の言葉を言っているのに声色が浮いている。ないはずの尻尾がふりふりと横に振っているように見える。そんなにお腹が空いていたのか。私より背が高いのにとても子供っぽい印象を持った。

二人で4つのおにぎりを食べていると、彼が私の方をじっと見つめていた。

「どうしたの?」

と声をかけると

「いえ、とてもおいしいので感謝しているんです。あんまりこういうのは慣れていないので。」

普通においしいと言ってくれればいいのに。それでも嬉しかった。こんな豪雨の中でこんな気持ちになるのは不思議な心地だ。傘は壊れるし川は濁流になって私に歯向かうように勢いが増してとても不運な日だというのに、降ってよかったと思ってしまっている私がいる。

「そっか、ありがとう。これを作っているのは親なんだけどね。」

「このおにぎりにはあなたの親の真心とここまで届けに来てくれる貴方の真心を感じます。だからこのおにぎりは特別な味がするのですね。」

そういって彼はモグモグと幸せそうにおにぎりを食べた。やっぱり無邪気でかわいいな、なんて。そんな彼とそのあとも他愛のない話を続けていた。いつやむのかわからない雨は晴れ、青空が見えていた。


先ほどの雨風はどこか消え、水の反射がさっきまで降っていたことを脳に刻み付けてくる。神社の中は狭く2人はいるには窮屈だったがそんなことを忘れさせるような思い出になった。

「雨風で壊れたところないかな…。」

そう言って私は小さい神社をぐるっと一周した。幸い破損部分はなく、水が滴るいい神社…になっていた。早速雨で中止していた掃除を始めようとしたとき

「一旦家に帰るルートをみてきてはいかがでしょうか。」

そういって彼は私を止めた。そういえば川の増水で丸太の橋が壊れたんだっけ。確かに晴れた今が帰れる道を見つけるチャンスだよね。私は早速橋の方を見に行った。

「晴!ごめんね突然こんな天気になると思ってなくて。今から母さんがそっちに行くから動いちゃだめだよ!」

母は私の方へ歩いてきた。私は150cmも成長したのにいつまでたっても子供を見る目のままだ。母はビシャビシャの私をみて一旦風呂に入ることを進めたがこの先にまだ人がいることを言うと

「じゃあ一緒に家に来なさい。風呂なら貸してあげるし服も家の旅館の服をあげるから。」

と言い一緒に神社の方へ歩いて行った。神社につくと風によって荒らされた葉っぱは持ってきた袋にまとめられており、男性の影はなかった。私はお礼も言えずに彼が消えていたことにショックを受けた。橋に行って戻ったとしてその間に掃除をして立ち去っていると考えるとあまり遠くへは帰っていないはずだ。そう考えた私は辺りをくまなく探したが足跡すら見つからなかった。一体どこに行ったんだろう。

「きっと彼も雨がやんだから帰ったのよ。あんまり晴に心配かけたくなかったんじゃない?」

母はそういうがどうしてももう一度会いたい。お礼を言ってもっとお話ししたかった。しかし、これ以上探すと今度は貴方が風邪をひいてしまうわと言われしぶしぶ家に帰った。風呂に入っている間、私はずっと彼のことを考えていた。果たして彼は家に帰ることができたのか。私みたいに探して風邪をひいていないか。悶々となやんでいたが何も解決できなかった。


不思議な出会いをして翌日。私はいつものように神社に訪れていた。橋は壊れたが、下に降りてまたげば、反対にたどりつく距離だ。あの時の経験から豪雨が予想されるときは行かないように忠告された。たどり着くと狐が神社の前ですやすやと寝ていた。

「狐が寝てるなんて珍しい。」

おにぎりを狙って目を輝かせている狐はたまにみたことがあったがこんなに無防備に寝ていたのに出会ったのは初めてだった。起こすのも申し訳ないので静かに歩き、いつもの場所にお供えした後掃除をはじめた。裏側を掃除しているとカンッと皿が鳴る音が聞こえた。こっそり戻るとそこには幸せそうにモグモグと食べる狐がいた。

「無邪気でかわいいな。」

こぼれた言葉に狐はびっくりして縁側から落っこちながら慌てて逃げた。

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