第21話 情報を求めて。救出作戦 後編

「ほら、乾いたぞ。次はツインテールに結んでやるな」


 長い話を語り尽くすころにはミジュの長い髪もすっかり乾いていた。


「……あんたって、ようはマザコンよねぇ」


「うん。でもハイゼルも好きだからファミリーコンかもしれないな」


 肯定しながら観葉植物を操ってミジュの髪にブラシをかけていく。


「あたしを好きになった理由を言ってみなさいよぉ」


「こんなに悲しそうに笑う子を初めて見た。俺は笑顔や笑い声には敏感なんだよ。だけど、無垢な表情で花を見つめるミジュは、きっと昔の俺と同じだと思った。自分のこと道具だと思ってる。だから幸せに笑う姿を見たくなったんだ」


 ふぅん、それだけぇ? と疑わしい目つきでミジュは観測者を仰ぎ見る。


「舌足らずな間延びした喋り方が最高。浴衣が似合いそう。俺と子作りしよう」


「マザコン! あたしっぽいとこ笑い方だけじゃないのよぉ!」


「そこが一番重要だろ」


 丁寧に髪の束を集めてツインテールに結っていった。


 髪を結び終わったミジュは勢い良く立ち上がり、後ろに振り返りながら光線を観測者に向けて放ってきた。


「あんた殺してやるから本体で会いに来なさいよ!!」


 観測者を通り過ぎた光線はミジュの部屋の壁を焦がした。


「さすがに教会の深部まで生身のまま忍び込めない。物凄く会いたいけど」


 タンタンと苛立つように片足を踏み鳴らすミジュは、いいわ、と答えた。


「もう一度、あたしから会いに行ってあげるわよ。あんたの施設から一番近い保護区域はレティアブル歓楽街よね。公園にある花時計の前で待ち合わせしましょう」


 大喜びで観測者は頷いた。時間も約束すると、また会おう、明日も会おうと約束して意識を本体に戻した。




 ふと目を開けると海底遺跡の中だった。そういえば任務中だったと思い直す。


 体がやけに重いと思ったら、月のフクロウのメンバーは全員観測者に圧し掛かるように積み重なって寝ていた。アニマなど、観測者の腹の上で寝ている。


 全員の体を浮遊させて、わずかに高い位置から落とした。


 すると、むにゃむにゃと全員起き上がって来る。


「休憩は終わりだ。任務を遂行するぞ」

「はぁあああい」


 それぞれ返事をして起き上がった。


「やはりこの道は正解だったようだな」

「ええ、グールも出ませんね」


 レイナとサオリは満足そうに話している。


「でもよ、ってことは連中、一番奥であたいたちを待ち伏せしてるんじゃねぇか?」

「……その可能性はある」


 アカネの予想にスズメも賛同して頷いた。


「うちらの目的に気付かれたのかね」

「うええええ! アニマは罠にかかるの嫌ですよおお!」

「ふん、それならこちらから罠を仕掛ければいいだろう」

「おお! シャロお姉ちゃん頼りになります!」


 シャロとアニマも通常運転。色々とツッコミたい要素はあるが、今回は昇級試験も兼ねているので観測者は黙って後ろからついていく。


 通路も最後の直線へと差し掛かり、最奥の広間が見えてきた。


 鍾乳洞の最奥は小さな湖が奥にできているようだ。


 一見するだけではイリスレインの姿もグールの姿も見えない。


「パッと飛び込むのは馬鹿のすることよね」


 今にも飛び込みそうだったアカネはレイナの言葉を聞いて体を引っこめた。


「毒霧を中へ噴射してみてはどうでしょうか?」


「サオリ、私たちはリリンのマナに侵されたイリスレインの救出と保護が目的なんだよ。殺しちまったら意味ないだろ」


「っは! そうでした!」


 シャロは目的を覚えていたようで観測者としては大変ありがたい。


「じゃあ、アカネの炎でどっかーんもダメなの?」

「……ダメでしょ」


 アニマの意見はスズメに却下される。


「んじゃあ、小細工無しだ。真正面から飛び込んでやろうぜ」

「それしかないわね」

「そうですわね」

「……異議なし」

「仕方ないね」

「アニマも行きますよー!」


 つまり、パッと飛び込むわけだ。最初の意見に戻った。口出しする権利は無かった。


 そして月のフクロウのメンバーは最奥の広場に全員でパッと飛び込んだ。

 突如、天井が崩落してくる。


「うわああああああああ!」

「きゃああああああああ!」


 サオリとアカネは叫んでいたが、他は冷静だった。


 シャロは防御魔法と結界魔法を二重に張った。


 スズメはいち早く奥に隠れていたグールを見つけ出してナイフを無数に浴びせかける。


 レイナは風の魔法で天井から降ってくる瓦礫を受け止めた。


 だが、目もうつろな教会のイリスレインはこちらの想像以上の抵抗を見せた。


 それは自爆だ。観測者の中であの日の夜が思い出された。人狩りをするわけでもなく、ただ脅威とみなしたものを排除するための破壊行為。道具として使われるイリスレインは使い捨ての扱いだ。


「いけません! こんなところで高圧力魔力爆発など起こしたら!」

「全員粉々に吹っ飛ぶぞ!」

「……それがマスターのご命令です」


 ギリギリまで観測者は月のフクロウのメンバーにやらせるつもりだった。


 教育は十分にしてきた。生徒たちを信じることも指導者の役目だ。


「やらせるかよおおおお!!」

 アカネが自爆覚悟で火炎炎舞魔法を放つ。


「大地に祈りよ!」

 サオリが祈りを捧げたことでレイナが的確な指示を出す。


「シャロ! あのイリスレインに防御と結界を!」

「あいよ!」


「うちらは!?」

「瓦礫に耐えろ!!」


 瞬間、敵のイリスレインが高圧力魔力爆発を起こした。


 しかし、アカネの炎に含まれた酸素のエネルギーが限界まで圧力を下げた。


 そのおかげで拡散爆発までは起こらず、レイナの浮力で浮いていた瓦礫を吹き飛ばし、新たなに天井を削って深部にあった硬い岩石が降り注ぐ。


 だが、レイナの判断は正しい。サオリの祈りで地面は湖の水を大量に含みぬかるんでいた。


 押し潰されても、ダメージは最小限に抑えられる。


 唯一、押し潰されてしまうと体が埋もれて窒息してしまうアニマだけは観測者が身を挺して庇っていた。


「観測者さん!!」


「……アニマ、自信を持て。今、月のフクロウのメンバーを救えるのは回復役のお前だけだ」


 ハッと顔を上げてアニマは辺りを見渡した。みんな岩石に押しつぶされて瀕死の状況だ。


「待っててみんな! アニマが助けてあげるからね!!」


 アニマの全力の回復魔法が月のフクロウのメンバーを包み込んだ。


 みんな気を失っていたが、怪我は見事に完治した。


「アニマ、中和剤を撃ち込め」

「はい!」


 ずだだだと瓦礫の山を駆け出すアニマは腰ポケットから中和剤の入った注射器を取り出して操られていたイリスレインの首筋にぶすりと刺して注入した。


 イリスレインのうつろな瞳に光が戻り、柔らかく微笑んだかと思うと安心したように気を失った。


「ミッションクリアだな」

「やりましたあああああ!」


 アニマ初の完全勝利で昇級試験は終了した。



☆☆☆

幼女だからアニマを贔屓にしているわけではない。回復役が必要だったんだ(観測者は語る)


真偽のほどが気になるなぁって方は♡や☆で応援していただけると嬉しいです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る