ボスキャラ攻略☆~ギャルゲーでよく見る最初から俺に惚れてるハーレム隊員には目もくれず敵側の狂気に高笑いするラスボス幼女だけを一途に愛したい~

六月雨空

第1話 ギャルゲーでよく見る狂気闇病みつるペタ幼女降臨

 ちぎれた雲の流れる空、橙色に照りつける太陽の下、荒廃した街では砂漠化が進んでいた。


 むせかえるような黄色い砂塵の舞う土の上で観測者は何度目かのため息をつく。


「……子供たちは施設で預かる」


 観測者の後ろには幼い子供たちがいた。子供たちはみんな怯えた様子で美しい女性の足にしがみついて震えていた。


 美しい、あるいは可愛らしい少女たちはイリスレインと呼ばれる第二世代だ。


 六人のイリスレインはそれぞれ剣やナイフや銃や杖などで武装しており、魔法や魔法付与の武器、あるいは武力で戦う戦士だった。


 観測者と呼ばれる男と対峙しているのは国連の聖騎士団だ。団長格のいかつい男は観測者に向かって剣を抜いていた。


「戦争孤児は我々国連が保護する決まりだ。貴様らレジスタンスの集まりに未来ある子供たちを渡すわけにはいかん」


 観測者も国連が定めた法を知らないわけではない。だが、教会と熾烈な戦いを繰り広げてきた国連は劣勢となると御大層に掲げていた正義の御旗にすら汚れを付けたことも知っている。


 今のご時世、魔法で戦えるイリスレインたちがいなければ戦争で戦うことすらできない。


 戦車や戦闘機は既にロストテクノロジーとなった。そんなものを用意しても空から降る隕石が粉々に砕いてくれる。魔法付与の無いナイフや剣は生クリームをかき回すゴムベラと変わらない。

 同じく魔法付与の無い大砲やライフルも水鉄砲と変わらない玩具に過ぎなかった。


 だからこそ、イリスレインのみで構成された教会と対抗するために国連は人体実験にまで手を出した。


 イリスの遺伝子を引き継いで生まれたイリスレイン。世界に突如雨のように降り注いだ彼女たちを旧世代はイリスレインと呼んだ。


 国連や教会の行う人体実験とは生物であればイリスの遺伝子を、無機物であればイリスの因子を人工的に付与させることだ。


 実際、成果もあげていた。騎士団長が観測者に突きつけているロングソードはイリスの因子が組み込まれている。設定された固有魔法の付与が為された戦える武器ということだ。


 だが、戦争孤児を人体実験の道具に差し出すことはできない。


第二世代イリスレインを人工的に作り出した成功例は未だ一つも聞いたことがない」


 観測者の冷静な言葉を聞いて団長格は大げさに両手を広げた。


「おいおい、誤解してもらっちゃ困る。世の中にどんな噂があろうが噂は噂だ。我々を罪人と呼びたいなら確定的な証拠を持ってくるんだな。我々は子供たちの安全のために保護するだけだ」


 コートのフードを目深にかぶり、長い前髪で観測者の眼差しは見えない。口許にも黒と灰色のマスクをしており観測者の表情は誰にも窺うことはできなかった。


「俺の目は誤魔化せない。教会も国連も生み出しているのは失敗作の屍人─グールだけだ」


 そろそろ話し合いも意味を無くそうとしていた。数で言えば二十名を越える国連の聖騎士団の連中は目が血走り、今にも襲い掛かりそうに地面を踏み鳴らして陣形を整え始めていた。


 一方、観測者が引き連れている月のフクロウチームはまだまだ成長途中のイリスレインたちで構成された予備部隊。大それた戦闘などは経験したこともない。


「観測者、こいつらがグールを召喚する前にやっつけてしまおう」


 後ろから声をかけてきたのは金髪のロングヘアーを蝶々の髪飾りでハーフアップにしている剣士タイプのイリスレイン、涼城すずしろレイナだ。


 おっぱいの大きさはFカップ。くびれた腰に長身から生み出された白くてすらりと伸びた長い足。胸とミニスカートの部分だけ聖銀の甲冑を着ている月のフクロウでは最もバランスよく戦闘力の高い器用な聖剣士だった。


「子供たちを守りながらでは分が悪い」


 観測者が冷静な意見を出すと、後ろでパンっとフーセンガムが弾けて割れる音がした。


「あたいの炎で炎幕張っちゃえば楽勝だぜ」


 威勢のいい赤髪の癖ッ毛ショートヘアーはグローブを身に着けた拳士タイプのイリスレイン、赤浄せきじょうアカネ。


 タンクトップにBカップの胸が引き締まった腰によく似合う。ショートパンツに軍用ブーツという着こなしの武力タイプだが、広範囲の炎系魔法も得意としている。


 観測者は頭が痛そうに指先で額を抑えて、軽く頭を振った。


「大丈夫ですよ観測者さん! お子様たちは怪我をしてもアニマの治癒魔法で蘇りです!」


 ついに戦闘力などまるでない回復担当のイリスレイン、国見アニマまで戦いに名乗りを上げた。

 観測者たちが保護しようとしている五人の孤児たちも確かに五、六歳のお子様だが、アニマも観測者から見れば十分お子様だった。


 ぶかぶかのピンクのローブを着こんだピンクのツインテールのアニマは見た目十歳くらい。おっぱいのふくらみはない。片手にはうさぎのぬいぐるみを常に抱きしめている。


 可愛いで世界が救えるならアニマこそ正義かもしれない。


「どうやらそっちはやる気満々みたいだな。まぁオレタチとしては若いお嬢ちゃんの肌を眺めるのも悪くねぇな!」


 下卑た笑い声を上げる騎士団長につられて他の騎士団員も笑い出す。

 そして同時に騎士団員たちが陣形を組んだ地面には幾何学模様の魔方陣が稲妻が地面を走るように描かれていく。


「総員退避! すぐに後ろに飛べ!」


 観測者は素早く指示を出す。一瞬不満な表情を見せたアカネもいう通りに子供たちを抱えて大きく後ろに飛んだ。


 直後、地面から現れたのはとぐろを巻いた真っ赤なドラゴン。聖騎士団が生み出したグールの中でも最高クラスの召喚獣だ。


 自由意志を奪われたドラゴンは聖騎士団の命令だけを忠実に遂行する。


「観測者たちを駆逐しろ」


 冷酷な命令が下される。ドラゴンの緑の瞳が観測者たちの姿を捉えた。瞬間──


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」


 チュドン……! 突如、上空から流星のような光がドラゴンの頭上に落ちてきた。


 ドラゴンはエーテル魔力を極限まで高めて観測者たちを爆発させて灰にしようとしていた。 


 しかし今、その高まったエーテル魔力は空中で霧散して、ドラゴンの屈強な肉体は飴細工のようにひび割れてバラバラに砕け散った。


 突如、戦場に現れた幼女。誰もが呆気に取られていた。


「なによぉ、ちょうどいい足場にミミズがいたと思ったら砕けちゃったわ、ごめんねぇキャハハハハハ!」


 粉塵の舞い上がる地上から数十センチ浮かび上がって高笑いを響かせるのは戦場のフェアリーテイル。


 新世代のみの社会を作り出そうとするイリス教会の最終兵器。


 透過しそうなほど透き通った白い肌。粒子が雪の結晶のようにキラキラと輝く白髪のツインテール。

 神が作り上げた精巧なビスクドールのように愛らしい幼女の顔。

 桜色にほんのりと染まる柔らかそうなほっぺ、さくらんぼのようなプルプルと弾ける小さな唇。

 長いまつ毛は名画を生み出す芸術家の絵筆のように束になった毛先の一本一本まで上向きにカールされている。

 吊り目がちな大きな瞳はこの世のすべての金塊をつぎ込んでも足りないほど黄金に輝いていた。


 しかし、そこまで芸術的な美しさを持つ容姿すら一瞬見るのを忘れてしまいそうなほど、蠱惑的な衣装が目を惹く。


 服というより、これはランジェリーだろう。

 へそがまんま見える三角ビキニの下から真ん中がひらひらと蝶の羽のように開いた透明に近い薄い布を纏っている。

 大事なパンティーは黒のTバック。ガーターベルトに履いている意味も無さそうなシースルーで所々穴の開いた片方だけのストッキング。足先までは覆っていないので幼女は裸足だった。


 いつも空中に浮いているから靴というものはいらないのかもしれない。

 乳首には絆創膏しか貼っていなくても大丈夫。だってつるペタだから、というファッションかもしれない。


 でもどう見ても下着一枚だった。乳首には絆創膏だった。見た目の年齢は十歳に満たない。


 背後に小型の大砲を二十基浮かばせて、板が二枚張り付いたようなレールガンを二本肩の上から浮かばせて、一人で大型駆逐艦に匹敵する装備をしていても、見た目は下着一枚の幼女だった。


 だが、その姿、その戦闘力、今やこの世界で知らないものはいない。


「ば、ばかな!? 戦場のフェアリーテイル!? なぜここに!?」


 騎士団長は虎の子のドラゴンを瞬殺されて腰が引けていた。


「やぁねぇ、あたしは狂咲きょうさきミジュよ。コードネームじゃなくて本名を覚えておきなさい。そうじゃなきゃ冥途の土産が手ぶらになっちゃうじゃないキャハハハハハ!」


 殺意と狂気をにじませた金色の瞳が聖騎士団の連中を捉える。

 なぜかはわからないが、狂咲ミジュは現れた瞬間、怒り狂っていた。



☆☆☆

長編の連載を始めました。

毎朝9時に更新予定です。完結済みの作品ですので、よかったら最後まで楽しんでください(*´ω`*)


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