第45話 空に輝く豚野郎
『白々しい! 人でなしのクズが!』
「聖騎士長! お覚悟を!」
『はははははは!!』
イクスとローゼリンデが構えるとファラスが壊れたように笑い始め、見たことのない一面を見たことで僅かに二人が動揺すると構えることなくゆったりとファラスは前進してくる。
『何がおかしい!』
イクスが『黒鉄』で切り込むとファラスは剣で受け止める。
『いやすまない。君にしては的確だと思ってね。村のことはどうだったかね? 実は君の感想がずっと気になっていてね』
『安い挑発だな……。 殺してやるッ!!』
「イクス!?」
ファラスの挑発だと分かっていたが割り切れず激怒したイクスは『紅蓮真紅』の全身から黒炎を吹き出すとそのまま炎の勢いを強くしてファラスの『白影』を黒炎で包み込む。
『君は私に似ているからな! わかりやすくて助かるよ!』
『グアア!』
だがファラスには効果はなく、光球を至近距離で喰らいイクスが吹っ飛ばされる。
イクスにファラスが追撃をかけるかと思うとファラスは軌道を変えてローゼリンデに接近すると剣を振りかぶる。
ローゼリンデが迎撃のために極大魔法『氷絶』─前方に相手を凍結状態にする氷の波動を生じさせると範囲外にファラスは高速移動した。
『やはり量産鎧はいかんな。極大魔法が使えんから極大魔法を出されたら回避しか取れん。精霊鎧を改修するのが裏目に出るとはな』
「答えてください、聖騎士長! なぜスラン様を殺したのです? それも島の人たちも巻き込むあのような形で!」
まるで今までやってきた凶行に対して何も思っていないような呑気な態度にローゼリンデが苛立ちを覚え、真意を問うとファラスは心底可笑しそうに笑った。
『いや預言に『大切な人を失う』とあったものでね。これも全てに一重に人族を思ってのことだ』
『ふざけるな! それならば俺の村を燃やしただけで果たされているはずだ! お前からは一片たりとも人を慮る意思を感じない! その真逆だ!』
『人を慮る意思? 君も魔族や魔王から人族が『預言』を実現させるためだけに、国力の劣る隣国アルテイシアに住む人々を魔族に仕立て上げ侵攻したことは知らされているのだろう? なぜ自らの繁栄のためだけに善良な人々を苛む俗物を私が気にする必要があるのかね?』
『どの口がそれを言う! 全てお前が扇動して引き起こしたことだろうが!』
ダウンから復帰したイクスが極大魔法『紅蓮炎弾陣』をファラスに向けて放つと全て回避して剣を振りかぶってきたので、『黒鉄』で受ける。
『すまないが君たち──『救世主』と『聖女』がいなければ人も愚かにはならなかったし、こんなことは起こらなかったと思うのだがね。私は『預言』などというよりも君たち『救世主』や『聖女』の方が余程世を捻じ曲げている存在だと思っているよ』
『戯言を! 言い逃れに過ぎない!』
『それはどうかな? 君たちがいなければ村も燃えなかったし、スラン君も死ななかったのではないのかね』
『だから村はお前が……』
『私で指揮せずとも村は燃えたよ。君たち主役に置いた『預言』ではそうなっているのだから。君たちがいるからこの悲劇は引き起こされていると思わんかね』
『黙れ!』
イクスは感情を爆発させるようにファラスの剣を跳ね返して、斬撃を連続で繰り出していく。
ファラスがそれを受け、二人が密着したまま攻防を繰り返していく。
この中で実力が一番劣っていることもあり、ローゼリンデはついていけてなかった。
本当ならばファラスの背面に向けて挟撃をかけなければいけない局面だと言うのに、離れた瞬間を待ち魔法の照準を定めることしかできない。
そしてイクス本人は冷静なつもりだが完全にファラスの挑発に乗せられており、ローゼリンデとの連携が頭から抜け落ちていた。
格上の敵に対して人数的な優位を失っていたがイクスもローゼリンデもいっぱいいっぱいになり気付いていなかった。
その場で気付いているのは相手をしているファラスのみ。
ファラスは仮面の中でほくそ笑んでいた。
『君たちが役目を放棄したせいで君たちの身代わりが生み出され、命を散らした。君たちは存在自体が罪そのものだ。ただ存在するだけで悪と災いを齎す。この世に存在してはいけない。君たちと深く接してきた者たちの末路からよくわかっているだろうそれは?』
『黙れと──グアああああ!』
完全にイクスの頭に血が上ると横から光弾と光の柱が襲いかかり、四肢をもがれた『紅蓮真紅』が地に伏した。
「あ」
それからファラスは先ほど見せた高速移動──パワーセーフティー解除を行うとそのまま剣でローゼリンデの『白雪蒼白』の頭部を破壊する。
『反動で右腕が故障したか。思ったより制限が多いもののようだな。彼はやはり優秀だったようだ。まあもういないので評価が修正されようと意味はないが。……さてせっかくのお客人だ。私なりのもてなしをしよう。確か元救世主は魔族好きで、元聖女は人族好きだったな』
勝ったと確信したファラスは耳につけている通信魔導具のチャンネルを王に選択して通信を開始する。
『ファラスだ。新しい『預言』の碑文が発見された。新しい碑文には『魔族と人族とが総力戦を行う』と書いてあった。まだ『預言』の時が過ぎ去っていないのは幸いだが、もう猶予がない。君の方で今すぐ貴族に呼びかけて、魔族領に出撃してもらいたい』
『何のつもりだ!』
「何を……」
ファラスのあまりの無法ぶりにイクスとローゼリンデが絶句すると王都上空に現王の姿の巨大な幻影が生じた。
『我が国の臣民たちよ聞け! 魔族領に出撃せよ! これは『預言』に定められた聖戦である!』
『ほうこんなものがあるのか。中々便利なものだな。精霊鎧以外にも没収しておくべきだったな』
悪夢のような光景だった。
幻影を見た王都の各地から鎧持ちたちが出撃し始めていた。
魔族は確実に滅ぶことは間違いないし、人族もただではすまない。
『なぜこんなことをする? 俺たちがお前に何をした?』
『いや何も、君たちはただ怠惰だっただけだよ。私は預言の時が来たのに救世主と聖女が現れないことに焦った教会に君たちが今現在負っている『預言』の責苦を味わされただけだ。『預言』に沿って家族も恋人も全て葬り去られた。そして君たちが発見されて、責苦をさんざ味わわされた挙句に廃棄処分になっただけだ』
「あなたは何者なんですか?」
ファラスのイクスの問いに対する答えが余程聖騎士長とはかけ離れたものだったのに対して疑念を抱くと憎悪の籠った声が聞こえた。
『君たちの代わりに生み出された模造品だよ。過去に存在した英雄の肉体と精神を集めて錬成して最高の肉体と精神を持った人間を作れば、救世主と聖女の代わりになるのではないかという浅知恵で生み出された。人の紛い物だ』
「聖騎士長といつから成り変わっていたのです? 本物の聖騎士長へどこにやったのですか!」
今のファラスの凶行の理由が自分たちの憎し見であることは概ね分かったが、人族のために尽力していた本性を表す前のファラスと同じ存在だと思いたくない気持ち──別人だと思いたい気持ちがあり、耐えきれずにローゼリンデがそう尋ねるとファラスは再び笑い声を上げた。
『安心したまえ。君と接していたのは最初から私だ。前代の魔石病に苛まれ、人造救世主計画などと言う馬鹿げた企てを起こしたファラスと代変わりしたのはそれ以前──彼が私を廃棄処分にしようとした時だ。教皇が『預言』のことしか考えていない聖人で助かったよ。息子の死体を見せた私を息子にして教会の全権を私に委ねてくれたのだから。あの時の顔は傑作だったな』
身の毛のよだつ邪悪。
『預言』を信じるものたちの欲望が目の前にあるモンスターを作り出したのだと認識すると、ファラスが壊れたように笑っていたのが収まった。
『興が削がれたな。続きをしよう。景気付けに救世砲を打って君たちの仲間に知らせてあげようか。娘たち出てきなさい。紹介しよう。彼女たちは救聖砲を撃つ射手兼魔力タンクだ』
ファラスが呼びかけると大聖堂の頂上からロロナとそっくりな顔が二つ並んで顔を出した。
イクスとローゼリンデにとって不気味極まりない光景だった。
『ロロナ……』
「何ですかあれは……」
『いやあれはロロナじゃないよ。見た目はそっくりだが急造で錬成したものだから精神までしっかり作り込めなかったんだ。命令を出さないと碌に動けないが救聖砲を撃つには君たちより優秀でね。魔力量に関しては君らの二倍以上あるから救聖砲を一人一発打てるんだ』
救聖砲がまだ打てる事実に二人が絶望するとファラスは続けた。
『ふむ。この王都から一番見やすい位置はどこかな。国境のあそこがいいか。おい、二番王国のフォー』
「ブヒィィィぃぃぃ!!」
もう終わりだと思い二人が鎧の中で項垂れると豚の嘶きがファラスの声を遮るように響いた。
その瞬間絶望に沈んだ二人の球の中にスランのことが思い出された。
ローゼリンデには無手から村を救い出したあの時の光景が、イクスには島ごと滅びるところを身を挺して守り、島の人を無傷で救ったあの光景が。
スランは命が尽きるその時まで絶望を打ち壊してきていた。
二人には豚の嘶きが亡きスランが「まだ諦める時ではない」と告げているような気がした。
絶望に凍えた心に火が灯る。
黒炎が燃え上がり『紅蓮真紅』の四肢が再生し、ローゼリンデが『白雪蒼白』のハッチを開けて視界を確保した。
『お前の言うことを聞かねば動けないならお前の倒せば救世砲を撃つことはできない』
「あなたを倒して、救聖砲を壊し、人族と魔族の争いを止めに行けば今の状況は覆せます」
『いきなり調子付くじゃないか! 自分たちの模造品に負けるような不出来な負け犬が!』
ファラスもまるで自分の邪魔をするように響いた先ほどの豚の嘶きにスランの影を見て冷や汗を流す。
まるで死してなお自分の邪魔をしようとしているに感じざるを得なかった。
『俺に気にせず極大魔法を打ちまくれ!』
「はい!」
『何!?』
イクスが肉薄して『黒鉄』を振るってくるのをファラスが剣で受け止めると、ローゼリンデはイクスの言葉に躊躇いなく応え、極大魔法『流氷鋭刃』──斬りつけた相手を凍結させる氷刃の群れを連続で放つ。
モロに食らったイクスの『紅蓮真紅』の各部が凍結崩壊し、ファラスの『白影』も各部を凍結させ崩壊していく。
『君たちは余程死にたいらしい! お望み通りにしてあげよう!』
光の分身が四体現れると二体ずつイクスとローゼリンデに殺到する。
ファラスが分身で遮ってイクスから距離を離そうとすると、イクスは分身に対処せずに接近してファラスの『白影』を切りつけ、ローゼリンデも分身に対処することよりも『白影』に極大魔法をぶつけることを選び、切り裂かれた『白影』が凍結崩壊して爆発し、二人に襲いか掛かっていた分身も消えた。
『白影』を大破させたが、イクスの『紅蓮真紅』も大破し、中のイクスも半ば凍り、戦闘継続不可能になり、『白雪蒼白』も大破し、分身による猛攻による衝撃でローゼリンデは脳震盪を起こし身動きができなくなっていた。
「君たちの負けだ……」
相打ちかと思うと、仮面が完全に割れ、素顔──ロロナとそっくりな顔を露出させ額から血を流し、体のところどころ焼け爛れさせたファラスが宣言した。
『チクショウ!』
「っ!!」
「二番、王国のフォード領へ救聖砲を放って!」
ファラスが体を魔法で全快させ、二番と呼ばれた人造救世主が救聖砲に向かう。
もうここまでかとイクスとローゼリンデが思うと魔族領の一画から翼の生えた黄金の鎧が姿を表し、黄金の輝きで世界を染めた。
輝きに目が焼かれるとなぜかあれはスランだという確信がその場にいた全員の頭の中で生じた。
「ふざけるな! 二度までも私の邪魔をしようと言うのか! スラン・デストン!! 二番、フォード領から標的を変更! 黄金の鎧に向けて救聖砲を放って!」
一度目の豚はスランとは何の関係もないがスランに尽く妨害を受けたように感じたファラスは激怒すると救聖砲を黄金の鎧に向けて放った。
──
──時は遡り、教会の豚が豚野郎認定された時。
「ぶあくっしょん!!」
いきなりくしゃみが出ました。
誰かが俺の噂をしているようです。
「オーク大佐! 人族から大量の鎧が! 人族はここで総力戦を仕掛けてくるようです!」
なんかでかい国王のホログラムが人族領が出ているなと思ったのですが、やっぱり碌でもないことになっているようです。
もうここの安全も保証されていないみたいですし、そろそろ出向いた良さそうですね。
「もはやここでこうして腰を据えているわけにもいかんな。私も出撃する」
「は!」
鎧でゴーしますと言ったらご丁寧にモブ魔族が案内してくれます。
他人から上司としてヘイコラされるのも良かったですがこれもこれまでですね。
「精霊鎧『輝天聖輝』には亡き魔王様の指示により改修が施されており、DMシステムが搭載されています。精霊と搭乗者の精神的な壁を排すことで、初搭乗でも固有魔法が使用できる代わりに精霊の干渉が多いことに留意していただければ幸いです」
モブ魔族がなんかすごいシステムに説明してくれます。
とりま固有魔法が使えるということなので便利ですね。
ゲームではこんなシステムはなかったですが、ゲームとは色々と変わっているので謎の技術が確立されているようです。
魔王は技術者としても優秀だとかいう設定がありましたが、一週間二週間で新たな技術を確立するとは凄まじいですね。
まあロボットものあるあるではあるんですけど。
さてクセ強金ピカ鎧に乗ったので人族領に帰りましょうか。
『カタパルト発進準備OK! オーク大佐いつでもどうぞ!』
「トントロ・オーク。『輝天聖輝』出撃する」
『輝天聖輝』を起動すると、カタパルトから勢いよく外へ排出されました。
太陽燦々なのできっと前の『東雲』と同じくこの黄金ボディがえらい害悪になっていることでしょう。
さて外に出たんでゴーしようかと思うと周りからは人族の鎧がワラワラ包囲して接近してくるわ、正面から救聖砲がくるわいきなり絶体絶命です。
早速『輝天聖輝』の固有魔法『変幻自在』──敵の攻撃の形を自分好みに変える魔法を使いたいと思います。
救聖砲の極太ビームを俺の周り360°に展開する放射ビームに形を変形してブッパします。
周りの鎧が人族魔族関係なく全て落ち、俺が出撃した基地が大爆発しました。
見た目は大変なことになっておりますが、この『輝天聖輝』には内蔵している精霊が殺生を好まないと言う設定があり、敵を倒しても敵の魔力で強制的にバリアを展開して不殺処理がなされ、無力化するだけで終わると言う変な癖があるので多分大丈夫なはずです。
とりま、俺はクソ派手金ピカ鎧で教会に補足されたので救聖砲ぶっ壊して、出来たら教会ボンバーしたいと思います。
───
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