第42話 カンストする好感度
突如襲来した極光が消え去ると黄金の鎧の残骸だけが残された。
一瞬何が起きたのか、理解できなかった。
「この島の盾になり、あまつさえ奇跡を起こしたか。惜しい男を亡くした」
だがリリアンが沈んだ声でそう呟いたことでこの島にいる人々を救うためにスランが死んだことが理解できた。
ローゼリンデは膝から崩れ落ちる。
「なんで……教会から出た光が」
「教会が戦わずして魔族を滅ぼす兵器を完成させたと言ったはずだ」
「イクス……」
譫言のように呟いた言葉にイクスが殺意ではなく言葉を寄越してきたことは本来なら喜ばしい事実のはずだが訪れた悲しみがあまりにも大きすぎてローゼリンデが呻くことしかできない。
「なんだその様は。失った痛みを抱える人間しかいないこの場でお前だけ自分の殻に籠るつもりか」
イクスから喝をいれられたことで悲しみは晴れなかったが無理矢理足に力を入れて立った。
一人だけでなくその百倍以上の責苦を受けたイクス相手にこの姿を見せるのはあまりにも酷なことに気づいたからだ。
「すいません。私……」
「謝罪はいい。謝罪されたところで俺はお前を許せない。それよりも教会にある遠距離兵器を壊さなければならない」
「その前に二発目が来る可能性もあるのではないか?」
二発目が撃たれる可能性。
リリアンから指摘されてローゼリンデはハッとする。
目の前の悲しみで頭がいっぱいで自分達が依然危険のあることを考慮していなかった。
「それは低い。今連絡があって魔王城が遠距離兵器で消し飛ばされたことがわかった……。もうすでに二発撃たれている。魔王の解析によると遠距離兵器を撃つには救世主と聖女の全魔力ほどの膨大な魔力がいることを考えればいくら魔石をあらかじめ溜め込んでいたとしてもこれ以上は難しいだろう」
「お前ら二人分の魔力か。確かに一発撃つだけでも国にある魔石を全て消費することになりそうだ。改めてそんな規格外のものからこの島を守り切ったスランもまた規格外だったのだな。ただ同じ極大魔法で食い止めようとしても有に極大魔法百発分の魔力に抗えるわけもなくそのまま押しつぶされるだけだというのにあの一瞬で機転をきかして乗り切ったのだろうから」
「砲撃を乗り切ったとしても自分の命を散らせては元も子もない。奴ならば逃げれば自分だけ助かることもできただろうに。善良になったことが仇になるとはな。善良な人間ほど早く死ぬ」
「スラン様……」
強者たちがこぞってスランを認める様を見て本当に失ってならない人を失ってしまったことをローゼリンデは理解する。
強さも善性も並の人間では並ぶことのできない別格の人間だった。
だからこそ本来なら消え行く何万という命を救えたのだろう。
彼がいなければ自分は生きてはいない。
生きた自分はそんな彼に報いるべきではないのか。
そう自分がスランの身代わりに生き残った意味を見出すと、悲しみと喪失が力に、スランの残した人を救おうとする善なる意志に転じ始めた。
「あなたがくれた遺志を私が継ぎます。人を、生ける者を脅かす悪しき力と戦いましょう」
「スランを失ったことは取り返しの効かない大きな損失ですが。あなたたちが私と共に王国を救うことに協力してくれるのは喜ばしいことです」
ローゼリンデが決意するとシアが姿を現した。
言葉の割には喜ばしいと思ってる雰囲気はなく顔は険しかった。
あの極光を見て、もはや一刻も猶予もなく教会は打倒しなければならないと確信したからだ。
私欲によって教会の人間がいつ何時王国を遠距離兵器の矛先を向けるか解らないのだ。
ここでやらねばならない。
「私についてきなさい。あなたたちが教会に辿り着ける道筋はもう既に作ってあります」
シアがそう申し出るとローゼリンデたちはシアと目的が同じであることを悟り、彼女と共に行動を共にすると決め、うなづく。
「何が起きたの? 避難所からすごい魔法がくるのが見えて……」
「よく覚えておきなさい。あれは教会によって放たれた暴虐の光です。スランはあなた達を守るために命を散らせました」
すると志を一つにした一堂の前にエーデ達──ヒロイン達がやってきて尋ねた。
シアは改めて共に王道を歩むはずだったものの死を思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになりながら答える。
エーデ達はにわかに信じられない顔をしながらも砕けた金色の鎧の破片を見て、全てを悟ると膝から崩れ落ちる。
あんまりな最後だった。
心を入れ替えて、自分たちと仲直りをして、自分たちを含めたくさんの人を救って、これだけの善性を自分たちに人に還元した人間が悪意によって人生の幕を引くなど。
それがエーデ達にはただひたすらに悲しかった。
「まだ何も返せてないのに」
涙が一筋頬を伝うとそう言葉が口から溢れ、返す場所のなくなった恩が心に深い喪失感をもたらして涙がとめどなく流れ始めた。
もう会えないとわかってしまって、会いたいという気持ちが溢れてきてしまった。
「会いたい……」
そのつぶやきを聞くとシア達は彼女達の横を通り過ぎて行くべき場所に向かい始める。
これ以上は聞くべきではないと皆が判断したからだ。
これ以上ここに止まれば悲しみから足が動かなくなると。
「教会を打倒します」
抱いた悲しみは心の中に沈めずに目的を果たすための動力に変える。
ヒロイン達──スランを想う人たちの好感度がカンストした。
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