第40話 乱入する新救世主



『邪魔だ! そこをどけええええ!!』


 イクスが吠えつつ、魔法を切り裂く特性を持つ太刀『黒鉄』を振り下ろし、リリアンがそれを受け止める。

 コロシアム以前のままであれば規格外の性能を持つ『黒鉄』を持っていたとしても一瞬でカタがついたが、現在のイクスは見違えるように強くなっている上に黒い靄の邪魔が入るので状況はエンドコンテンツの主であるリリアンをしても拮抗していた。

 『黒鉄』で遠距離の魔法が断ち切られる上に、近距離攻撃をすれば触れるだけで相手を戦闘不能にする黒い靄の薙ぎ払いがかかるため非常に攻め尽く、イクスはほぼ無尽蔵と言ってもいい魔力から極大魔法を連発しており、攻撃は一撃必殺のものばかり。

 リリアンでなければなす術もなく落とされていたことは想像に難くない。


「ふざけるな! 敵前逃亡をしろなどと! 戦士の誇りを汚すつもりか!」


『誇りだと? 貴様等人族にそのようなものがあるものか! 無害な魔族を敵にしたて侵略し、あまつさえ戦わずして相手を滅ぼす兵器を生み出すお前等に! その女を殺させろ! そうすれば多くの命が失われることを避けることができる!』


「憎しみに歪んだ声で綺麗事をほざくな! まともに自分の本心も言えん軟弱者が!」


『グ!』


 受け止めた状態から太刀を弾くと、伸びてくる黒い靄をかい潜ってリリアンはイクスに向けて蹴りを放つ。

 見事にクリーンヒットして、イクスの鎧『紅蓮真紅』が軋みを上げて飛んでいき、家に激突すると瓦礫の中に沈んだ。


「お前はいつまで呆けている! 武器を手に取っているのならば戦え!」


『すいません。手が震えて動かなくて』


 ローゼリンデは前回、イクスを攻撃したことで悲劇を呼んだトラウマからイクスを攻撃しようとすると震えが起きていたのだが、リリアンは戦いを生業とするアマゾネスで精神病理のことなど専門外のことであり、厳しい闘争の世界に身を置いていたことで精神的不調を来した者は観測する前に命を散らしていたので、ローゼリンデに何が起きているのか理解できなかった。

 だが不調を訴えていると言うことは何かあるはずだと頭を回し、正常である自分と異常をきたしているローゼンリンデにある差を探して、ある結論に辿り着いた。

 ローゼリンデがアマゾネスの戦士でないことがダメだと。


「アマゾネスの戦士になれ。ローゼリンデ。お前もアマゾネスになれば震えなど消えるはずだ」


『え……』


「アマゾネスは敵から隠れない。私の横に並べ」


 リリアンは『飛行』でローゼリンデを移動させると瓦礫に沈んでいるイクスと向かい合わせる。

 普通守らねばならないものを襲撃者の矢面に立たせるなど正気の沙汰ではないが、アマゾネスの常識では守られる存在など存在せずそこに存在する以上なんであれ戦うことが当たり前。

 逆に彼女の世界では戦いを避けることの方が非常識、当事者や因縁を持つものならむしろ進んで戦うべきだと思っている。


「あいつはお前を恨んでいる。だからお前はあいつ叩きのめされなければいけない。わかるか?」


『いえ、確かに対処しなければいけないのはわかりますけど。私が悪くて責められているので。まず彼に謝らなければ』


「じゃあ尚更だ。あいつは人の言葉を聞かない。叩きのめして話を聞ける状態にして謝るしかない」


 そうローゼリンデに説くと黒い靄を黒炎に変えて、イクスが瓦礫の中から立ち上がった。


『そいつは俺を裏切り村を滅ぼした! 死を持って償うべきだ! 王都にいる教会の人間どもと共に!』


「くるぞ! 構えろ! 戦って勝たねば思いさえ伝えられん!」


 リリアンの言葉とイクスの殺気から反射でローゼリンデが剣を構えるとそこに黒炎を纏った太刀が振り下ろされた。

 流麗な太刀からは生み出されるとは思えないほどの暴力的な圧が襲いかかるかと思うと黒炎が燃え上がり、ローゼリンデの鎧『白雪蒼白』を包み込む。

 予想だにしてなかった攻撃にすでに切り掛かっていたリリアンは剣速を挙げて『紅蓮真紅』の両腕を切り落とすとそのままオリジナル魔法『獅子王殺』──継続的に広範囲に発生する斬撃を発生させる。

『紅蓮真紅』が『黒鉄』を両腕ごと手放したことで、斬撃に削られバラバラになっていくことを確認すると、リリアンはローゼリンデの状態を確認する。


「無事か?」


『ええ、大丈夫です……。私にあの黒い靄は効かないようです』


 コロシアムの時イクスが対峙した相手たちと同じように気絶しているかと思ったが無事な声を聞いて安堵する。


「お前のアマゾネスとしての闘志が邪気を吹き飛ばしたのだろう。敵と戦い打ち勝ったのだお前は。お前もこれでアマゾネスだ。ローゼリンデ」


 イクスを戦闘不能にしたので、ローゼリンデと話させるかと思うと四肢を失い倒れた『紅蓮真紅』から黒炎が立ち上り、四肢が急速に再生し始めた。


『ミリィの痛みを知れ! 外道!』


 再生途中で中のフレームがむき出しのまま、極大魔法『紅蓮紅炎陣』──爆発する炎弾の連なりを展開すると走り出してきた。

 どう対処するかと考えると突如光球と光の柱が周囲に展開され、リリアンの鎧『獅子王』の左腕とローゼリンデの鎧『白雪蒼白』の左足が飛ばされた。

 一瞬イクスの攻撃かと思うが、イクスは先ほどの光球と光の柱に襲われ、鎧の四肢とコクピットを破損しており、せっかく展開した炎弾も標準が定められずあらぬ方向に飛ばし爆発させていた。


 状況を掴めず周囲に目を向けるとイクスの鎧『紅蓮真紅』と同じ色合いの赤い鎧が近くに降りたち、倒れる『紅蓮真紅』に剣を構えて近づき始めた。

 行動からして魔族ではなく聖騎士だと確信し、攻撃の巻き添えを喰ったことに腹は立ちはしたもののそのまま見送ると赤い鎧は剣を振り上げ、ハッチが剥がれイクスが丸見えコクピットに向けて振り下ろし始めた。 

 

『やめて下さい!』


 リリアンがイカンと思うとローゼリンデの放った『風衝撃』で赤い鎧の動きは中断され、吹き飛んでいた。


『お前……』


 イクスの困惑した声が聞こえると赤い鎧がむくりと立ち上がりローゼリンデの方を向いた。


『対象の敵対行動──裏切りを確認。作戦行動Cへ移行』


 無感情な少女の声が響くかと思うと、四体の光の分身を発生させ、こちらに殺到させてきた。

 リリアンが迫る二体を捌こうと剣で一体を袈裟斬りに切ると、攻撃が反射して『獅子王』が斜めに断ち切られ行動不能に陥った。


「抜かったか……」


 リリアンが敗北をしたことを悟るともう一人の分身がこちらに剣を振り下ろす姿と『白雪蒼白』が二体の分身に切り刻まれるのが見えた。


「もはやこれまで」


 死を覚悟し、最後に一発だけ魔法を大元の赤い鎧に放とうとリリアンが決意すると分身たちが風の刃に貫かれて消えた。


『酷い有様だな』


 響く声の大元を見ると黄金の鎧が立っており、分身を消し去った主が誰かリリアンが察する。


「スラン……!」



  ────


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