第18話 隠し階段発見してワロタ
「聖騎士長。救世主様に何かあってはことです。学園に私の護衛を割くべきです」
「すまない。ローゼリンデ。君の提案に応えることはできない。救世主とは異なり、君の命を保証する預言はないんだ」
ローゼリンデがスランに危険が及んだことを案じて、救世主のことをダシにして学園に護衛を割くことを提案するとファラスは即座に断った。
「命が保障されていない」と言う言葉にローゼリンデは困惑する。
それが本当であれば場合によっては、自分によって世界が救われるという預言が果たされないことになり、預言が否定されてしまうことになる。
「どういうことですか?」
「預言は主語が抜けている記述が多くてね。実際のところ多くの文言は推測するしかないんだ。誰が何をしているのか、誰が生きてるのかはわからない。無論世界を救う者とされている聖女の君が道半ばで倒れることはないと我々も思っているが、もしものことがあった時に想定していなかったから世界を救えなくなったではお話にもならないからね」
普段のファラスは命令を下すだけであまり多くを語らないのだが、今回は様子が違うらしくローゼリンデの問いかけに対して真摯に答えた。
教会で大役を担う聖騎士長であり、教皇の息子が預言に対して破られることを想定──懐疑的な態度をとっているのは驚きだった。
「聖騎士長は預言が果たされる保証がないとお思いなんですか?」
「預言を果たすために君に負担を強いる私がこんなことを言うのは君を不快にさせてしまったようだね。だがあえて言おう。保証はない。預言を信じれば全てが全うされると保証されているのならば我々はここにはいない。逆に刻一刻と変わっていく状況に対応せねばならない、君も私たちも。君に見せたいものがある。私についてきてくれるかな」
意味深なことを言うとファラスは後に続くように言って、聖騎士長室から出ると騎士舎から出て併設された大聖堂に向けて歩を取り始めた。
おそらく話の流れからして預言のために能動的に動かなければならない証拠を見せるつもりなのだろうがローゼリンデには大聖堂にそれを証明するものがあるとは記憶にない。
大聖堂にあるのは大きな像と椅子だけだ。
ファラスとともに大聖堂に入り、「一体なんだろうか」と思うと、安置された救世主と聖女の像にファラスが手を添えると像が光だして後ろに下がり始めた。
「隠し階段!?」
像の下から階段が現れたことにローゼリンデが喫驚すると、そのまま階段を降りていくファラスに「来たまえ。君に見せたいものはこの先にある」と言って促され、何が隠されているのかという恐れ半分、興味半分で降りていく。
「これが我々の行くべき道──人族の希望を示した『預言』だ」
階段を降りた先には文字が彫られた光る石碑があり、未だ見たことのなかった『預言』の大元を見てローゼリンデは言葉を失う。
見ただけでもわかる神々しさがそこにはあった。
内容を見ずとも信じるべきものであることがわかった。
「『預言』のどこに介入する余地があるのですか?」
「ここだよ」
ローゼリンデの口から疑問が漏れ出すとファラスは『預言』の一文を指し示した。
「『魔族の手により村が滅び、憎悪の炎を胸に灯す』。……これはスラン様が救った村のこと……」
「そうだ」
平素であれば大衆に提示されている『預言』と異なることからローゼリンデも違和感を抱いたが、『預言』の纏う神々しさと聖騎士たちの信頼から勝手に混乱を避けるために隠したのだろうと結論づけ、ファラスの言葉に聞き入る。
「君は我々が介入せずに状況を静観したらどうなったと思う?」
「『預言』は果たされませんでした」
「その通り。人族は破滅に向かっただろう。わかるかね。我々は働きかけねば、人々を救うという確固たる意志を持たねば『預言』を果たすことはできない。できればその当事者たる君にもその自覚を持って欲しい」
声を荒らげてはいなかったが、熱を感じさせるような言葉だった。
ローゼリンデにも並々ならぬ思いを感じて、熱が移り始めるとスランの事が思い出された。
あの時に村の人々を救った英雄の姿を見た時の熱が再燃して、声だけの熱が打ち消された。
理屈ではなく感情があの村を救ったスランの行いはこの犠牲を払った果てに人々を救う『預言』とどちらが大事なのかを示した。
だからこそファラスの言葉に応えられなくなった。
「いきなり言われても自覚などできないか。すまない。私が段階を踏まずに急きすぎてしまったようだ。激務で疲弊した体を休めてくれ。私は少し『預言』を確認していく」
「申し訳ありません。失礼します」
ファラスが間接的に『スランが『預言』を果たす際の邪魔者であるので始末するべき』だと言っていたことを熱が冷めてローゼリンデは察すると一瞬でも頷きそうになったことが正しいことを為したスランに対する裏切りのように思えて、罪悪感から足早にその場から去る。
それを見送るとファラスは『預言』の記された光る石碑に触れた。
「失敗したな」
『魔族の手により村が滅び、憎悪の炎を胸に灯す』と言う一文と石碑の纏っていた神々しい光が消えた。
それは『預言』を利用して聖女にスランを害させようとする工作をした証に他にならなかった。
「中々上出来だと思ったんだが。この頃はスラン君に執心だからそれが影響を与えたのかもしれないな」
懐からスランの名前の書かれた賭け券を取り出すと吟味するように凝視する。
「やはり彼は侮れないかもしれんな。力だけではない何かを感じざるを得ない」
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