元カノがAV女優になっていた

@Tomoe_Yukio

本編

 

 ある日、部屋を掃除しているとポケットに入れてある携帯電話の通知音が鳴った。

中断して開いてみると、送り主は高校時代の同級生であった。トーク画面にはアダルトビデオのURLと、表示されているAV女優が元クラスメイトに似ているとのメッセージが送りつけられていた。私がセクハラだと訴えれば確実に勝てるが、それよりも送り主に呆れる方が先だった。既読だけつけると、見なかったことにしようとそのままポケットにしまい掃除を再開した。


その日の晩やはり忘れることができなかったことと、また真偽が知りたくなってしまい、送られてきたURLを開くとサンプル映像が表示された。 当然のことだが、AV女優の名前は私が知っているものと全く違っており、自分自身が馬鹿らしくもなったが、腹を括り再生ボタンをタップした。


始まった途端、彼女が元同級生であることは真っ先にわかった。


彼女とは高校時代付き合っていた。同性同士であるため周囲には全く知られていなかったが、手も繋げばキスもしたし、一度だけだが肌も重ねたこともある。互いに服と下着を脱ぎ捨てると、素肌を重ね合わせ、貪るように口づけを交わした。

彼女の体は柔らかく、抱きつけばいい匂いがした。普段見えないところにキスマークをつけては、文句を言いつつも嬉しそうに手を当てていた。

そんな彼女の体は、出てくるAV男優達によって上書きされている。

当時はコンプレックスと言っていたが、胸元にある大きなほくろは映像の中でも健在していた。

職業差別をする気もなければ、軽んじているつもりも全くないが、AV女優ならそこそこ稼いでてもおかしくないと思ってしまう。だからこそ手術して、除去することも可能ではないのかと疑問を持ちつつもそのまま観ていた。

サンプルなだけあって一部しか公開されていなかったが、終わる頃には彼女にすっかり魅力されていた。気が付いたらダウンロード形式で購入していたのがいい証拠である。



その後は、ただただ彼女に釘付けとなっていた。



細身の肉体に白い肌、それに不釣り合いな大きな乳房、引き締まった小さなお尻、顔は付き合っていた頃から可愛かったが、映像の彼女はさらに磨きがかかっているように見えた。

本編が終わる頃には職業に対し驚きもあったが、それよりも彼女の肉体に少し興奮していることの方が大きかった。


それから数日後、彼女から連絡が来た。

用件は仕事の都合上、こちらの方に来るから久しぶりに会いたいとのことだった。

突然の連絡に驚きつつも、私は二つ返事で承諾し、彼女の元へと向かって行った。

一秒でも早く彼女に会いたかったからだ。


待ち合わせ場所に着く頃には雨が降ってきて

おり、ひとまず私の自宅へと向かうことにした。彼女は顔バレ防止のためか大きなマスクをし、帽子を被るなどしていたが、スタイルが良いためか遠くから見ても一般人ではないのは確かだった。


着いた後は大忙しだった。

冷えた体をそのままにしては風邪をひきかねないため、急いでお湯を張ると彼女をお風呂場へ案内した。その後ポットでお湯を沸かしつつ、今は布団を敷いているところである。

ちらりとリビングにあげた彼女の荷物に視線を向けると、小さなトランクが一つだけであった。

高校卒業を記念して二人で旅行へ行った際には、大きなトランクケースを持ってきてしまい悲鳴をあげつつも、二人で笑って移動していたのに。

ぼんやりとあの頃を思い出してしまっていた。


数十分後、バスタオルを巻いた彼女が出てきた。やはり隠すところを隠していても、スタイルの良さと色気は隠せないものだ。

もしこの場に彼女のファンが居座っているのならば、驚きのあまり呆然としてしまうと思うが、今の私は高校時代の友人また元恋人として接しなければならなかった。


あれほど会いたかったはずなのに、いざ本人を目の前にするとうまく言葉が出てこない。

そんな私に対し彼女は、鞄から高校時代のフォトアルバムを取り出して話しかけてくれた。

この日の夜は二人で他愛のない話をした。

私が朧げに覚えていたことすらも、彼女は鮮明に覚えていて笑いながら教えてくれていた。楽しい時間ではあったが、私は彼女本人に「なぜAV女優をしているのか」どうかを聞くのに躊躇っていた。

悩んでいる私に対し、何かを察したのか彼女は顔を近付けてきた。不意に目を閉じると、唇に何か柔らかいものがあたる感触があった。



私は彼女とキスをしていた。



そのままふとんに倒れ込み、貪るように唇を重ね合わせた。着ている服も脱ぎ捨て、素肌を絡めて互いに求め合った。それは肌にべっとりとついた汗すら愛おしく思える程である。ろくに言葉を交わすことなく、ただただ夢中となって体を重ねていたが、彼女との行為は心地が良くただただ気持ち良かった。



だからこそ、ずっとこの時間が続けば良いのにと思ってしまった。



次の日、私が目覚めた時には彼女の姿は見当たらなかった。彼女がいない部屋をただ茫然と見つめた。

結局、彼女には聞けず仕舞いだった。

行為に夢中になったのも原因の一つだが、やはり人間知られたくないことの一つや二つはあるだろうし、元恋人だからってとやかく言う権利はないと思ったからだ。


ふと机の上を見てみると、二つ折りにされたメモが置かれており、広げて見ると「昨日のことは二人の秘密」とだけ書かれていた。


それから数日後、アダルトビデオのURLを送りつけてきた同級生から彼女が亡くなったことを知らされた。トーク画面には長々とリンクが貼られ、それらを読んでもみたが現実味がなく、ただただ呆然としていた。

だがあの日の夜、彼女と交わったのは男性ではなく、元恋人である私であることには紛れもない事実であった。

最期に彼女が何を考えていたかなんて知る由もない、だけど何故だか涙が止まらなかった。

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