第39話
「……ようこそボクの軍へ、レックス君。歓迎するよ」
「けっ」
嫌みったらしく俺達に笑いかける、大将軍ミーノ。
執務室の大きなテーブルに腰掛けた彼女は両手を顔の前で組み、不敵な笑みを浮かべて俺達を待っていた。
「じゃあ、早速仕事の話をしようか」
王都に到着して、2日。俺達は、大将軍ミーノの指揮のもといよいよ出陣する手筈となっていた。
「レックス君はボクから指示があるまで出陣しないこと。勝手な行動はよしてくれよ。まぁどうしてもというなら独断専行しても構わないけど……、その場合は報酬を出さないし、君の行動も予想出来るから対策も練ってあると伝えておく。ま、ロクな事にはならないと思ってね」
「……本当に、嫌味な女だ」
執務室の中、ピリピリとした空気を纏い対峙する二人。
表情の硬いまま睨み付けるレックスと、含み笑いをして脅しをかけているミーノ。もう何と言うかビックリするほど、ミーノが悪い奴だ。
絵にかいたような、演劇に出てくるような、まさに悪役といった雰囲気。よくやるなぁ、ミーノ。
「それと、レックス君以外も来ちゃったんだね。君達は来なくて良かったのに」
「敵と戦うのに、少しでも戦力は多い方が良いんじゃねぇか? 何が不満なんだよ」
「王都を守るのは、あくまでもボク達。一握りの一流を除けば、殆どの冒険者は国軍に大きく劣る使い捨ての駒。まぁ、言っちゃえば邪魔なのさ」
「で? 俺様はパーティとして依頼を受けたつもりなんだが」
「パーティは必要ないよ。だって君に依頼したいのは一騎打ちだから。敵の大将が出張ってきたら、レックス君に迎え撃って欲しいの」
くるくる、と上目遣いに自身の短い髪の毛を弄るミーノ。だがその目は、冷徹にレックス以外のパーティーメンバーを見下していた。
「俺様が魔族ごときに負ける訳ねーだろ。で? 俺様の仕事はそれだけか?」
「うん、それだけで良いよ。他に余計なことはしないで。だから……レックス君の後ろの君達は不必要なの。帰ってくれるかい?」
「アホ抜かせ、アンタに大事なリーダーを預けられる訳あらへんわ。回復術師はいくらおっても邪魔にならんやろが」
「私だって、魔法で援護くらいは出来ます!」
「いやまぁ、そこまで言うなら別に止めはしないけど。ただ報酬は出さないし、余計な真似もしないでくれるかな。それに勝手についてきたんだから自分の身は自分で守ってよね」
ミーノは心底邪魔そうに俺達を眺めている。本当に効率主義だなコイツ、レックスさえ居れば俺達は要らないってか。
「随分と、俺様のパーティを軽んじてやがるな」
「必要ない物と必要な物を見極めれないと、大将軍なんかやってられないからねー」
嫌味ったらしい口調のまま、俺達をレックスの付属品のように見下す大将軍。悪モードとか言ってたけど、マジで腹立ってくる。
「……メロとかペニーのおっさんが、その辺見極めてると思ってんの?」
それな。ペニー将軍はともかくメロは何も考えてないだろ。
「ペニー将軍はエマちゃんが頭脳になってやってると思う。メロの分は、代わりにボクがやってるし」
「え? メロの分、お前がやってるってどう言うこと?」
「だってアイツ一切仕事しないんだもん……」
あ。ミーノの目がどす黒く濁った、多分演技じゃない感じだコレ。
……確かにアイツは仕事しねーだろうな。
「とにかく! カリンさんとメイさんの分の報酬は出さないし、護衛も人を割かないからそのつもりでいてね!」
「上等や! 元々金の為に受けた依頼とちゃうし!」
「俺様の傍にいる時点で元々護衛とか要らねーよ」
バチバチと火花を鳴らし、睨み合うレックスとミーノ。やはり、両者の溝は深い様子だ。
「後、軍事機密に関わるから君達は軍議に参加させない。基本的にレックス君の幕舎から出ることを禁止だから。レックス君の顔を立てて君達の滞在は許すけど、自由に軍内を移動できるとは思わないことだね」
「……協力し合おうとか、そういうつもりは一切ねぇんだなお前」
「君とボクとは依頼人と冒険者の関係に他ならないよ。冒険者は依頼人に協力する義務があるけど、逆はその限りじゃない」
「性格悪ぅ……」
え、俺って1日中幕舎に閉じ込められんの? 狭くてロクに剣を振れないじゃん! それは困るんだが。
「じゃ、君達は1度席を外してくれるかな? レックス君フラッチェさんはこのまま残って。まず、具体的な依頼内容と報酬の話をしようか」
「……レックス様に何かしたら許しませんから。行きましょう」
「せやな、胸くそ悪い。いくでメイ、フラッチェ……、ん?」
「ん?」
俺の剣は技術の剣、日々の鍛練と調整で強さが大分変わってくる。
だからせめて素振りくらいはさせてくれないか。そうミーノに直訴しようとしたら、何故か俺も部屋に残されていた。
あれ?
「え、私も残るのか?」
「うん。君もレックス君と話した後に呼ぶつもりだったんだけど……、レックス君と一緒に来ちゃったし、もう一度にやっちゃうね」
「ミーノ、何考えてやがる。馬鹿で間抜けでチョロくて頭の弱いフラッチェを残してどうするつもりだ!」
「何だとコラァ!!」
この野郎、この野郎。よくも俺をそこまで罵倒出来たもんだ、自分だって馬鹿なくせに。
足踏みつけてやる。
「いや……元々、彼女にもオファー出すつもりだったけど。メロと打ち合える剣士とか幾ら出しても惜しくないし」
おお? じゃあ、俺は報酬出るのかラッキー。レックスの脛をゲジゲジ蹴り足を踏みつけながら、俺は喜色満面になった。
剣士としては、ミーノから結構高く評価されてるのか俺。まぁ、メロが国最強とか言ってたし……。国軍にはまともな剣士が居ないんだろうなぁ。
「……ウチかて、回復術師としては相当高みにおるつもりなんやけど」
「いや、ボクの軍は魔導師と回復術師が主体の部隊だから。君が優秀なのは調べてるけど、正直余剰戦力だもん」
「回復術師余ってるのかよ」
「と言うか回復術の腕ならボクが国一番だし。部下の回復術師は戦力というより、ボクが教育してあげてる感じ。つまりボク一人いれば、負傷兵はなんとかなるの。レックス君やフラッチェさんみたいな凄腕の剣士は喉から手が出るほど欲しいけどね」
「そう言うことか」
単に需要の話か。魔導師と回復術師主体の軍なら、そりゃ最強の剣士たる俺を必要とするわな。
「そういうの抜きでも、フラッチェさん程の剣士なら絶対に声かけるけどね」
「そ、そうか?」
「じゃ、もうすぐ出発の時間だから手短に話すよ。カリンさんとメイさんは早く出ていって」
「……はいはい。不貞腐れるわぁ」
渋々といった表情で後衛二人は部屋から立ち去る。それを確認したミーノはニヤリと笑い、簡単に依頼の説明を始めたのだった。
「離間策、やろなぁ」
ミーノの指揮する部隊の中核に守られた、要人の為の馬車の前。カリンやメイは、そこに案内され俺達を待っていた。
「どうせ情報共有はされる訳やし、ウチらが軍議出たり依頼の話聞いたりしても問題ない筈やもん」
「私達の不仲を誘うために、わざとカリンさんや私だけハブられた訳ですか?」
「そういう狙いだったのねアレ」
「フラッチェとか、報酬貰えるってなれば何も考えずに喜びそうやん。それが不仲の種になる訳や。こうやってウチらの間にわざと格差をつくって、あわよくば仲が不穏になった後に軍に取り込もうという魂胆ちゃうか」
馬車の前、俺達はさっきミーノから聞いた依頼の内容を吟味していた。
「な、何て悪辣な……」
「ミーノ将軍、怖っ」
「そういう奴なんだ、アイツは。今回の報酬は二人分丸ごとパーティ資金行き、はいこれで解決」
「せやね。で、次に依頼の内容の話なんやけど……」
うっかり喜びかけたが、そんな狙いだったのか。いや、本当にミーノはそんなえげつない事を狙っていたのだろうか?
案外、素でやってただけかもしれん。もともと効率主義っぽいし、自前で用意できる
最初のイメージが悪いと、悪く事を考えられてますますイメージが悪くなる良い例だな。
「敵将の撃破。ただし、命令なしで絶対に出撃しないこと」
「要は白兵戦は国軍に任せて良くて、大将戦だけを任された形やね」
「私が使える攻撃魔法は爆破だけなので、範囲攻撃しかできません。私の出番はなさそうですね……」
「バカ言え、メイも俺様の後ろから魔族を屠ってくれ。雑魚の横やりが入ると面倒だからな」
おや、レックスはメイちゃんも戦場に出す気なのか。ちょっとそれは危険なような……。
でも俺たちはパーティだし、メイちゃんを一人置き去りにするのも間違っているか。ちゃんと守ってあげれば良いし。
「なら、ウチとメイはフラッチェに守ってもらいながら、レックスの援護・回復を担当しよか」
「そうだな。フラッチェは突っ込まなくていい、護衛と周囲の露払いに専念してくれ」
「え、私も大将戦やりたいんだけど……」
「敵将をボコボコにした俺様に勝てば、お前がナンバーワンだぞフラッチェ。どうせ俺様と勝負するつもりなら、手間が省けていいだろ」
「それもそうか!!」
そうかそうか、どうせレックスをボコるんだから俺は素直にメイやカリンの護衛役をしておくか。
「フラッチェさんとレックス様を別々に出陣させようとしたパターンはどうします?」
「その場合は依頼を拒否すりゃいい。俺様とミーノは上司部下じゃなく、あくまで対等な依頼人と冒険者だ」
「せやな」
つまり、基本的には俺達はずっと4人一組で行動する訳ね。分かりやすくて良いや。
「で、俺様の出番は一騎打ちだ。つまり、敵の大将がどんな魔族かってのが鍵になる」
「そもそも出陣したってことは魔王軍が見つかったって事だろ? 何で偵察とかして敵の情報を仕入れないんだミーノ将軍は」
「いや、アイツは敵が見つかって出陣する様なノロマな真似はしない。迎撃遭遇戦とか言ってたし、アイツは魔王軍の動きを読んで待ち伏せするつもりなんだろ」
そういや、ミーノは魔王軍の動きを予想してクラリスを派遣したとか言ってたな。
「以前、俺様は国軍に従軍して隣国と戦ったことがある。……その時の奴の指揮は、気持ち悪いくらい相手の動きを見切って先手を取り続けてた」
「成る程。後の先やなくて、先の先を重視しとるんか。先手必勝型の軍師なんやなミーノ」
「それ、口で言うほど簡単な事じゃ……」
「本人曰く、『勘で先読みしてる訳ではなく、根拠に基づいた確率的・戦略的に最善の行動を心掛けてるだけ』だそうだ。……戦略的に有効であれば、どんな犠牲が出ようと気にしねぇけどな」
ぺ、と吐き捨てる様にレックスは呟いた。……この男が天涯孤独になったのは、ミーノの指揮が原因という事となっている。彼女を受け入れられないのは無理もない。
「……この辺には集落もないし、関係ない民を巻き込む心配もあらへん。今回の軍の指揮に関しては、取り敢えずあの女を信じておくか」
「いや、油断するな。ミーノは1つの作戦にどれだけ意味を仕込んでるのか量りきれないからな」
「魔王軍よりミーノ将軍の方を警戒しないといけないんですね……。うーん、何だかなぁ」
逆に、こんなに警戒されまくってて平然と政治を回しているあの女は何者なんだろう。
「ま、その辺の化かし合いはウチに任せとき。自慢や無いけど、全く自慢になれへんけど……」
警戒と疑念でやや暗くなった俺達の空気を、笑い飛ばしながらカリンはこう言い切った。
「────ウチな、悪い奴の考えだけは誰よりも理解できるねん。ほんま、自慢になれへんけど」
自嘲を多分に含みつつ、目の奥を不敵に光らせて。
「おい、自称剣聖」
「誰が自称だクソガキ」
パーティ間の会議が終わってから、俺とレックスは外を見回ることにした。出発まであと僅かだが、何か情報が得られるかもしれないからだ。
ミーノ軍の士気はどうか、兵士の練度はどうだ。そんな話をレックスとしながら、かつて商人たちが店を列挙していた大通を歩く。
店の残骸の中、大通りに整列している国軍達。その周囲で、彼らを眺めている生き残った城下町の住人。
そんな彼らの中から、見覚えのある生意気そうな少年が声を掛けてきた。そう、いつかの詐欺リンゴ売りのガキである。
「お前も出陣すんのか」
「まー、剣聖だからな」
「それ、本当なのか? お前があの有名な剣聖? 女に囲まれて良い気になってる貴族坊にしか見えないぞ」
「はっ倒すぞ」
胡散臭そうにレックスを見ている少年。レックスはゴツいし滅茶苦茶強いのだが、カリンやメイを引き連れてる時とか確かに色ボケ貴族にも見えるな。
甲冑とか高そうだし。
「……ん、これ持ってけ」
「あん?」
「うちの元商品。……で、兄さんの形見」
その少年がレックスに手渡したのは、小さな花飾りだった。
「リリィの花飾りは知ってるか?」
「え、マジ!? それって所有者の危機に反応して回復魔法を自動で発動させるアレだろ?」
少年から手渡された花飾りを見て、レックスが仰天する。
俺もその花飾りの名を聞いたことがあった。遠く昔に滅びたとされる部族が作っていた幻の伝統工芸品。一度だけ発動するという回復魔法が込められた、今の技術では再現できない一品。
本物であるなら、時価とんでもないことになってるんじゃないかソレ。
「え、これがあの伝説の!?」
「おう、本物のリリィの花飾りだ。やるからもってけ」
「ちょ、待て、こんなの受け取れないぞ。……代金払うから、後で俺様のアジトに来い」
「まー気にすんなって。……使用済みだからそれ」
……。
「一度発動したら、ただの枯れない花飾りなんだよなそれ。未使用品って嘯いて売り飛ばすつもりだったけど」
「オイ」
「だけど、身に着けてるだけでリリィの花飾りの存在を知ってる相手は警戒するかもしれん。長生きしてる魔族なら、見たことあるんじゃねぇの? それに、リリィの花飾りは使用済みだろうとそこそこ価値があるアイテムだ。今の身寄りがなくなった俺が無駄に大金や高価なアイテム持ったりしたら賊に殺されるから、お前に恩を売る形で預ける。だから代金もいらん、持ってけ」
「恩だと?」
「だって兄ちゃん本物の剣聖なんだろ? ならこれ以上良い恩を売る相手はいねぇ」
少年は、そこでニヒヒと笑った。
「最強の称号を貰いにアンタを倒しに行くのは後回し。そもそも俺に剣の才能は無いと思うし。……俺ってば、根っからの商人だからな」
「……そうか」
「俺は、今から成り上がる。で、兄ちゃんを倒せるような剣士を雇う大商人になるとするわ。それで、兄ちゃんの称号は返してもらう」
「……」
「だから絶対に死ぬなよ、アンタが死んだら俺の決死の恩売りが無駄になるからな。……俺はソータ、将来この国の財閥を牛耳る大商人になる男だ。覚えておけ」
「なんだ坊主。随分元気になったじゃねぇか」
「……まぁな。あ、それとさっそく一個、お前に頼みごとがある」
そういうと少年は、『リリィの花飾り』をもう一つ懐から取り出した。
「2個も持ってんのか」
「おう。……もう一個は、ミーノ将軍に渡してくれねぇか」
お、おう? 何でミーノ将軍に?
「……なんだ? 将軍にも恩を売る気か? アイツに媚びるのは止めた方が良いぞ、だって」
「ひとでなしのミーノ、だろ? 知ってるよ、これは匿名で渡してくれ。将軍が市民から恩売られても迷惑だし」
「あん?」
ソータ少年は、そのまま二個目の花飾りをレックスの手に押し付けた。レックスはきょとん、と少年を胡散臭そうに見つめている。
「何でミーノに? そんな事してなんの得があるんだ?」
「損得じゃない、ただのお礼さ。城下町に住んでる連中は、みんなあの将軍に感謝してるんだよ。行き場のないはぐれ者だった俺達みたいな人間の拠り所を作ってくれてさ」
「……何、言ってるんだ? ミーノとこの街に何の関係がある」
「え、知らねぇの? 城下町って、ミーノ将軍が直轄で治めてくれてたんだぜ? 働き口を斡旋しれくれたり、商売がうまく回るよう店配置を調整してくれたり、揉め事の度に出張って来てくれて判決下したり」
……え。この城下町って、ミーノの直轄だったの!? と言うか、ミーノはそんな仕事までやってたの?
一体いつ休んでるんだろう。
「そもそも以前は、国の外に店構えたりしたら凄く怒られてたからな。ミーノ将軍がそれは勿体ない、商業拡大のチャンスだって言って、王都外に店出す許可をくれたのが始まりで。たった数年で、ミーノ将軍主導の元この街はここまで大きく発展したんだ」
「……マジか」
「将軍はきっと顔に出してないと思うけど、城下町の襲撃でこの国で一番悔しい思いしたのはあの人だと思う。自ら手塩にかけて、根気強く手間隙かけ城下町を発展させてくれたから」
「そ、それはきっと。あの女は国益しか考えてないからだな、王都で商売が発展するのが都合が良かっただけで。だから感謝とかする必要は……」
「それでも良いよ。少なくともあの人のおかげで、根なし草だった俺達はここ数年すごく楽しく暮らせたんだから。しょぼいけど、それを今までのお礼だって言って匿名で将軍に渡してくれ」
そう言い花飾りをレックスに手渡す少年。……一方でレックスの顔が土気色に凍り付く。
何だよ。アイツ国中から毛嫌いされてるとか言ってたくせに、意外と人望有るんじゃん。ミーノの奴、無茶苦茶喜ぶんじゃないかコレ。
「う、ぐ、ぐ。そ、う、か、良かった、な。な、な、なら俺様が、あ、あずか、預かって、おこう」
「なあ剣聖、どうしてお前そんな苦渋に満ちた顔してんの?」
「剣聖にも色々あるのだ。放っておいてやれ」
苦悩に顔をしかめながら、レックスは少年から花飾りを受け取った。……よっぽど嫌なんだなぁ、ミーノに会いに行くの。
「頼んだぜ、剣聖。それじゃあな!」
「お、おう……」
……にしても、ミーノの奴。そんな気配、微塵も匂わせてなかったじゃん。
城下町は、ミーノにとってすごく大事な場所だったのだろう。普通は施政者は、住人から疎まれるものだ。
住人からなつかれる政治家と言うのは、よほど手塩にかけて治めていた証拠に他ならない。
「……なぁレックス。代わりに私がチャッと渡してこようか?」
「頼むわ……」
そんな、萎びたレックスの声に俺は溜め息で返答した。
「え。これ、ボクに……?」
「城下町の生き残りから、匿名でプレゼントだとさ」
「ほ、本当に? ふああ……」
因みに。事情を聴いて俺から花飾りを受け取ったミーノは、喜色満面だった。
「感謝してるって言ってたぞ」
「ふあ、ふああああ……。本当に、本当に?」
手渡した花飾りを大事そうに抱えて、破顔する大将軍。
兵士の前だし、てっきり「そんな怪しい贈り物なんて受けとる訳が無いだろう。捨てておけ」みたいな悪役ムーヴをすると思ったんだが……。
これ、心底喜んでないか。演技忘れてね?
「確かに渡したぞ。それじゃ」
「ふああああ」
後で兵士から聞くと。
ニヤニヤ、と俺が立ち去った後も。蕩けるようなふにゃふにゃの笑みを浮かべ、ミーノは暫くその花飾りを抱き締めていたと言う。
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