カイリ

一ノ瀬 夜月

第1話 千影が陽永になるまで


 今日から私も、高校生になるんだね。普通なら楽しみなはずなのに、緊張や不安の方がはるかに大きい気がするよ。


 何せ、中学まで一緒だった幼馴染おさななじみと、別の高校に進学することになった上に、進学先は、都内の学校......


 派手な人が多いだろうし、東京出身ではない私が、馴染なじめるのかな?


 不安を抱えて、迎えた入学式。私の予感は的中して、数日間、ぼっち生活が続いたの。


 

 でも、このままではいけないと思って......



「あのっ、私はT県の〇〇中学出身の小森こもり千影ちあきといいます。貴女達は、同じ中学出身なの?」


女子1「いやぁ〜違うよ。私らは、入学式で席近かったから仲良くなった感じ♪」


女子2「だねぇ〜後、同じカラコン使ってたから、親近感がいちゃってさ。」


女子1「ねっ、まさか被るなんて思わなかったな〜。てか、今度オススメのマスカラ教えてくれない?私の使ってるやつ、キープ力低いから変えたくって〜。」


女子2「オッケ〜。てか、今日の放課後にドラスト寄ろうよ!」


女子1「あぁ〜名案だわ。皆がどんなメイク道具使ってるのか知りたいし......良ければ千影も行こっ♪」


「えっ、私はメイクとかしたことないから、その......」


女子2「えぇ!?高校入るまで一度もしたことないってマジ?」


女子1「そうなんだね〜。でも、平気だよ!私らが一から教えてあげるからさ♪」


女子2「うんうん、スタートが遅くたって、すぐに追いつけるからね!」


 えっ、これって、メイクを始めないといけない流れなのかな?


 私、コスメ一式買えるほど、お金に余裕ないし、やりたいとは、一言も言ってないのに......


 うん。やっぱり、無理なものは断ろう。


「実は私、金欠だし、美容系にあまり興味がないから、止めておこうかな。後、朝の時間を削ってメイクをするのとか考えると、ちょっとしんどいかなって思って......」


 その時の私は、深く考えないで、思わず、本音を話してしまったの。思い返すと、少し気遣いが足りない発言だったのかもしれないけれど、この後の二人の豹変ひょうへんっぷりの方が、深く印象に残ったよ。



女子1「はぁ!?何それ、メイクを頑張ってる私らに喧嘩売ってるの?」


      「そんなことっ」


女子2「てかさ〜美容に興味ないって、割と変わってるよね〜。素で勝負的な?


 無謀むぼうすぎるから、朝に20分位かけて整えた方が絶対いいよww」


女子1「あぁ〜言えてるわ。最低限直すだけでも変わるからね〜」


    「あっ、えっと、私は......」


女子2「ふ〜ん。まぁ、どうでも良いかな♪」


女子1「確かに、私らと千影って、合わなそうだし!それでぇ〜話の続きなんだけど〜」


女子2「あぁ〜この服はね......」



         ***


 勇気を振り絞って声をかけたのに、全然上手くいかなかったよ。というか、趣味趣向が合わないってだけで無視されるなんて、人間関係って、複雑で難しいね。


 ......辛い思いをする位なら、一人でいた方が、遥かにマシな気がしてきたよ。


 下校中、そんなことを考えながら移動していた私。でも、帰宅後すぐに、自分の部屋に駆け込んだの。


 実は、昨日買った小説が待ち遠しかったという理由もあるよ。けれど、一番は、嫌なことばかり起こる現実から、少しの間だけでも遠ざかりたくて......


「はぁ〜やっぱり、読書をしていると、リラックス出来るね。」


 私は、幼い頃から読書が好きだったの。元々内向的で、一人で出来ることを探してたら、本に出会ったんだよね。


 読書をしている時、段々とその世界に没頭して、何も考えず、夢中で読み進めていく時間が、大好きなの。

 

「でも、今日は何だか、深く入り込めないよ。」


 もっと、感覚がぎ澄まされて、他のことなんか気にならない位、物語に対して、夢中になりたいのに......


 しばらく悩んでいた私だったけれど、ふと、一つの案が浮かんだの。


「読むことに集中出来ないのなら、書いてみれば良いのかも?」


 振り返ってみても、何であの発想に至ったのかは、よく分からない。けれど、この日を境に、私は、創作活動にのめり込んでいったの。


 もちろん、最初は、書き方が分からない上に、自分の理想通りの物語が書けなかったよ。


 でも、慣れ始めた頃から、コンテストに参加するようになったり、SNS上に、ペンネームと同じ、愛宮えのみや陽永ひな名義でSNSアカウントを立ち上げて、物書き仲間と、交流を始めたの。


 そこで身につけたノウハウは、凄く役に立ったよ。やっぱり、先輩達から教えて貰うことは、大切だと実感したね。けれど......


「何回挑戦しても、コンテストに通らないよ。どうして?」


 私には、焦りがあったの。何故なら、執筆活動を始めてから二年経ったけれど、一度たりとも、受賞経験が無かったから。


「賞を獲ることが全てじゃないってことは、私だって分かっているの。書いている時に、物語の中に意識が溶け込んで、気分が高揚こうようして、書く動作が止められ無い位、没頭する瞬間も、もちろん大好きだよ。でも......」


 高校在学中、全てを賭けて打ちこんだものがむくわれなかったら、辛くて、苦しくて、耐えられない!


 だから私は、覚悟を決めたの。自分が書ける、究極の一作品を、高校最後のコンテストに出すって。


 そこからの行動は、早かったよ。得意分野である、表現の繊細さを活かして、一度壊れかけた友人関係が少しずつ修復していく様子を、丁寧に......それでいて、読者をつかんで離さないような没入感も取り入れて書いたの。


 今まで書いた作品の中で、最も時間と手間をかけたから、例えコンテストで受賞出来なかったとしても、やり切ったと、自信を持って言えると思う。


 作品を書き終えてからしばらくの間、自身の胸の内に、不安と期待を抱えながら過ごしていた私。けれど、そんな日々はあっという間に過ぎ去って、遂に、発表当日を迎えたの。作品の結果は......



                 続く


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