3.
「──……やっぱり帰る」
「いやいやいや。おれだけを置いて帰るなよー。ジルヴァだって、もっと遊びたいだろうに! な、ジルヴァ?」
「わんっ!」
人だかりの中、ジルヴァを抱いた祥也がさっさと帰ろうとして、奴が全力で止めようとするのは、これで何度目だろうか。
──それは、奴が勝手に休みにした当日の夏祭り前に遡る。
『じゃ、兄貴、ちょっくら行こうぜ』と抵抗も虚しく、無理やり連れて来られたのは、一度も入ったことのないオシャレな美容院。
『こんな所に何の用が……』
『なに寝ぼけたこと言ってんの。夏祭りと言ったらアレだろ』
そう言いながら背中を押され、入れられた。
目まぐるしい中で仕上げられた自身の姿を思い返す。
目にかかっていた前髪は切られ、それをやや右寄りに分けられた。
今まで薄暗い視界の中で見ていたものだから、眩しく、落ち着かないでいると、何の前触れもなく下着姿にされると、すぐさま黒地の浴衣を着せられた。
「………」
「あ、もしかして、人酔いした? 兄貴、人混み苦手だったもんな」
「──……っ」
「え?」
「……急に行ったこともない美容院に行かされたかと思えばこんな格好させられるし前髪切られて視界がよくなったせいで人の視線を直に感じるし散々だ……っ!」
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