春のゴールデンルート

 今年も「年度末、ぎりぎり配送」の仕事がまわってきた。

 職場ではそう呼ばれており、なんとなくキワドイ響きがあるが、レイはこの仕事が嫌いではない。


 平和島の物流センターで荷を積み、千葉の印西市、佐倉市、南房総市にある会社に納品し、東京に戻る。

 それぞれ三か所の納品指定時間自体は、ぎりぎりではなく、余裕がある。ということは待機時間ができる。この待機時間中、納品場所の真ん前で待っているわけにもいかないので、『待機場所』を自分で探すことになる。

 去年もこの仕事を担当し、レイは絶好の空間を見つけた。


 午前九時半に平和島を出発。首都高を経由して、京葉道路へ。途中、東関道に入り、四街道インターで降りたら、県道を通って印西市の吉高に十一時過ぎに到着。


 納品指定時間は十三時。レイはコンビニに寄り、『おにぎり二個と唐揚げ・ウィンナ』のセットと、緑茶のペットボトルを買うと、再び中型トラックを走らせ、印旛中央公園の駐車場に車を停める。


 ここからお目当ての地まで少し歩くが、歩いただけの甲斐がある。


 樹齢四百年を超える大桜が太い幹や枝を広げている。『淡いピンク色の小山』から、穏やかな風に乗って、無数の花びらがひらひらと漂う。


 レイは、そばを舞い降りる花びらを手のひらで受け止め、それに飽きたら、また空を見上げた。

 これを何度か繰り返すと、大木から少し離れた場所まで下り、立ったままおにぎりをほおばった。


 印西市の会社の倉庫で積み荷の三分の一ほどを納品する。受領のサインをもらい、積み荷をチェックし、再び車を走らせる。次の配送先、佐倉市は県道を戻り、四十分弱で着く。


 納品時間まで「佐倉ふるさと広場」の駐車場で『待機』する。

 運転席と助手席両方の窓を開け、まだ涼しい春の風を通す。


 オランダ風車を囲み、童謡に歌われている「あか、しろ、きいろ」だけでなく、ピンク色や淡い紫色のチューリップの花々が、広大の土地に綺麗な直線・曲線の列を作って並んでいる。


 レイは鮮やかな、色の大行列を眺め、残りの緑茶を飲み干すと、トラックのエンジンをかけた。


 佐倉市の会社の倉庫に荷を降ろし、受領サインを貰って積み荷をチェック。

 これから一時間半ほど走り、最終目的地に向かう。

 県道から佐倉インターで東関東自動車道に入り、館山線を進む。



 納品先に着いたのは、十六時少し前。陽が少し陰ってきている。

 残りの荷物をすべて降ろす。受領サインを貰って、今日の配送はすべて終了。

 車を出し、南房総の冨浦にある道の駅に向かう。


 ここには、広大な菜の花畑がある。


 既に最盛期は過ぎていたが、まだまだ黄色と薄緑の花畑は壮観だ。


 オープンカフェで『びわソフト』を買い、舐めながら、菜の花畑に向かう。


 平日で、菜の花のシーズンもそろそろ終わりにもかかわらず、観光客がちらほらいる。

 夕日を受け、黄金色に輝くお花畑のなかでじゃれ合う、小さな男の子と女の子。


 思わずレイは微笑んだ。


 トラックのキャビンに戻ると、最近持ち歩くようになった創作ノートを取り出し、サインペンを動かしたり、ペンを止めて少し思案したりしながら、三つの歌を書いた。



 花びらを


 掬う 手のひら


 重なって




   二人のチュー


   並んで見ている


   チューリップ




 菜の花の


 黄色い海に


 影 二つ




 幼い恋の歌になった。

 ちょっと子供っぽいかな、と思った。


 レイは思い出す。

 自分の初恋を。


 それから、想う。

 今度恋をするのは、いつだろうと。


 それから、想う。

 今度恋をするのは、いつだろうと。

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