第40話 上位種

魔物達の勢いは凄まじく、転んだ魔物達を足場にして進んでくる。


確実に数は減っているけど、その光景は恐ろしいものだった。


その圧に、思わず身体が震えてしまう。


「……っ」


「エルク様! 慌てずに! 何かあっても私が守り抜きますから!」


「オイラも頑張ります!」


「俺もっすよ!」


俺より前で戦っている三人の恐怖は俺の比ではないはず。

それに、前線で戦ってくれてる兵士達も。

だったら、後方にいる俺がビビってる場合じゃないよね。


「そうだね! んじゃ、いっちょ特大をかましますか!」


「総員! 退避しな!」


「「「おう!!!」」」


ギレンの声で、兵士達が一斉に下がる。

これで再び、俺の側にはクレハとオルガだけになる。

そして、俺の目の前に魔物の軍勢が迫ってくる。


「 今です! エルク様!」


「わかった! 水の波よ、全てを飲み込め——タイダルウェーブ大津波


俺の手から大量の水が放出され、それが大津波を成型していく。

それらは、魔物達を飲み込んでいった。

水が引いた後には、大量の魔石と息を絶え絶えな魔物達が転がっている。


「ウォォォォ! 皆の者! アニキがど偉いもんかましてくれたぜ! 今のうちに仕留めるぞぉぉぉぉ!」


「「「ウォォォォ!!!」」」


ギレンの号令により、再び兵士達が前に出ていく。

ちなみに下がっている間に、俺の特製氷水を飲んでいる。

少し休憩できたからか、その勢いが戻った。


「ふぅ……いい感じだね」


「ええ、今のところは。エルク様が魔力を溜めている間に前線で兵士達が戦い、溜め終わったら下がって休憩。エルク様が大技を放ち、また前線へといく……ただし、永遠ではありません」


「そうだよね。こっちの体力と人員には限りがあるし」


「エルク様の魔力はどうですか?」


「流石に減ってきたかなぁ……ただ、上位種が出てくるまでは温存……」


「……来ましたね」


俺とクレハの視線の先に、遠目からでもわかる大きな魔物達がやっとてくる。

見たところ、ゴブリンをひと回り大きくし棍棒を持ったジェネラル、オークを一回り大きくし槍を構えるランサー、コボルトを一回り大きくし剣と盾を構えたナイトの三匹だ。

それぞれ、下位である種族を率いる中ボスのような存在だ。


「……冒険者ランクにすると、あいつらはどれくらい?」


「ジェネラルがE級、ランサーとナイトがD級となります」


「そうなると、クレハと同ランクか」


「ええ、ですが……デビルラビットの時のような遅れは取りません」


クレハはあれ以降、物凄い鍛錬に励んでいた。

きっと、俺の助けを借りたことが嫌というか……自分の誇りを傷つけられたんだろうね。

この間もワイバーンに勝てたし、そこは信頼しないとかな。


「よし、わかった。では、クレハに命じる——ゴブリンジェネラルを瞬殺し、次にコボルトナイトを倒してきて。あいつは素早いし、頭も良さそうだから危険だ」


「その命……確かに承りました! では、行ってまいります!」


「うん、気をつけてね……頼りにしてるから」


「はっ! お任せください!」


そうして、クレハが風のように走り出す。

さて、そうなると俺の仕事はオークランサーを仕留めることだね。


「オルガ! ギレン!」


「へいっ!」


「はいっ!」


俺の声に、二人が側に来る。


「普通の兵士じゃ相手にするのは無理だ。ギレン、君ならランサーを足止めするのは容易いね?」


「へい、もちろんでさ! なんなら、俺が倒しますか?」


「いや、それだと時間がかかるでしょう? 君はすぐに前線指揮官に戻らないとだから。なので、少しでいいので足を止めて欲しい」


「そういうことですかい。へい! お任せを!」


「ありがとう。オルガは、俺が前に出るから護衛をお願いね」


「はい! 任せてください!」


すると、パンサーさんがこっちに向かってくる。


「エルクよ、俺がギレンの代わりに指揮を取ろう」


「助かるよ! いや、いいタイミングで来てくれたね」


「なに、矢が少なくなってきたから回収に来たついでだ」


「なるほどね、何にしてもこれで憂いはないかな」


そうして素早く作戦を立て、俺達は行動を起こすのだった。


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