第8話国王視点
あれから二週間……さて、エルクは無事についただろうか。
護衛を用意していたというのに、クレハと二人で行ってしまいおった。
国王としてではなく、ただの父親として安否を気遣う。
「ふっ、自ら追放しておいて何を言っているのだか。しかし、ここにいてはエルクも気まずいだろう。何より、彼奴には自由が似合う……亡きエミリアに似てな」
もちろん、更生してほしいという気持ちある。
ただ第二王子として生まれ、第一王子の代用品として強いられた。
ほとんど自由はなく、母親もいないので肩身の狭い思いをしただろう。
今回の処置は、エルクを王都から解放させる意味もあった。
「それに彼奴を担ぎ出そうとする連中もいたが、辺境に飛ばして仕舞えば手は出せまい」
エルクの母親は古い貴族家出身で、既に親類縁者はいなかった。
なので権力が欲しい者にとって、担ぐには絶好の人物だったであろう。
私の方で手を出さないように根回ししたり、エルクの兄を優遇したりしたが……結果的に、彼奴を冷遇扱いしてしまった。
「これも、二人しかいない王子で揉めることがないように……エルクには、恨まれても文句は言えんな」
そんなことを考えていると、誰かがドアを開けて入ってきた。
国王である私にそれが出来るのは、この国でたった一人である。
そう、弟のシグルドである。
「よう、兄貴」
「シグルドか、久しいな」
振り返ると、背の高い偉丈夫がいた。
体格も大きく剣技に優れ、北からくる魔物を止めている我が国最強の男でもある。
獅子を思わせる量の多い金髪が特徴的で、少なくなってきた私からすると羨ましい限りだ。
まあ、年が十歳も離れているから仕方がない。
「前に来たのは三ヶ月くらい前か?」
「うむ、そんなものだ。それより、先触れもなくどうしたのだ? お主がくるとは聞いておらんが」
「いや、エルクを辺境に追放したって聞いてな。とりあえず、領地から三日三晩かけて寝ずに走ってきた。行っておくが、信頼できる部下がいるから平気だぞ」
「いや、その点に関しては心配しておらん……それより、相変わらずの肉体だな」
私は細く、体力もなく武芸にも優れない。
逆に弟はでかく頑強で、武芸に優れている。
もっと言えば、人を惹きつける魅力も弟の方が上だ。
本来なら、弟が王位を継いだ方が良かったかもしれない。
「まあ、鍛えてるからな。それより、理由は?」
「わかっておるだろう? ここにいても、エルクには居場所がないのだ。それに、あのまま自堕落では反感を買うばかりだ。もう代用品の役目は終わったのだから仕事をさせろと」
「そりゃ、そうだけどよ……」
頭をぼりぼりとかいて、シグルドが苦悶の表情を浮かべた。
弟は私に代わって、エルクを可愛がっていた。
末っ子だったシグルドにとっては、可愛い弟のような存在なのだろう。
「シグルド、お前には感謝している。よくぞ、エルクを可愛がってくれた。おかげで、優しい良い子に育った……少しアレではあるが」
「別に俺は何もしてないさ。あれは、元々優しい……エミリア様に似たんだろうよ」
「……ああ、そうかもしれん」
「まあ、自堕落な部分は、もしかしたら兄貴に似たのかもな?」
「……放っておけ」
今でこそ、私もそれなりに王としてやっているが……若い時はそうではなかった。
本来の私の立場は第三王子で王位を継ぐ予定もなく、それこそのらりくらりと生きていた。しかし、上の兄達が立て続けに病死し、私とシグルドのどちらかが王位に着かなければならなかった。
結果的に戦えない私が政治を行い王位に着き、戦えるシグルドが魔物や敵兵と戦う役目になった。
「まあ、王太子も無事に結婚したし子供もできた。これで、国力の回復に努めていけるだろ?」
「うむ、このままでは我が国も危うい。最悪、飢饉が訪れてしまう。いや……既に起こりつつある」
「うちも戦争だったり、兄上達が立て続けに死んだり、それで親父が心労で意識不明になったり色々あったからなぁ……終いには、俺たちを担いで争わせようとする者達もいたし」
貴族達が私を王位を継がせたい者、シグルドに王位を継がせたい者で分かれたのだ。
民も疲弊し、そんなことをやってる場合ではないというのに。
最終的にはシグルドが私の下につくことを表明し、どうにかまとまりはしたが……シグルドには辛い役目を任せてしまった。
「ああ、そうだったな……お主には済まないことをしたと思ってる。私が誰もが認める者であったなら……お主は結婚もすることなく、独身を貫いたままだ」
「へっ、それは別に兄貴のせいじゃねえよ。単純に、俺にその気がなかっただけさ。一人は気楽だし、可愛い甥っ子もいるから良い」
「ふっ、エルクはお主によく懐いておるからな」
エルクは、父親よりシグルドに懐いておる。
まあ……私が国王として一杯一杯で、そのことに気が回らない所為だが。
「まあ、悪い気はしないさ。さて……話を戻すが、改革を始めるで良いんだな?」
「うむ、これより少しずつであるが国を良くしていかねばならない。他種族との交流もしかり、敵国との関係……魔物達の殲滅など」
「敵国や魔物はこっち側に任せるとして、辺境辺りは……意外と、エルクがどうにかしちゃったりな?」
「ふふ、そうであったら面白い」
「とりあえず、俺が様子を見に行って良いな? 弟子であるクレハもいるし、一度は見に行かんと」
「うむ、それで構わん……私も心配といえば心配だ」
エルクが辺境をどうにかしてしまうか……。
亡き妻に似て優しく、平民や他種族であろうと見下さない価値観は貴重だ。
……しかし、あの自堕落な息子には無理かもしれん。
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