転生したら黒幕だった俺は正体を隠して悲劇のヒロインたちを片っ端から救済してイクゥ!
ナガワ ヒイロ
第1話 黒幕、転生する
『セブンスナイトクエスト』。
それは、ネットニュースになるほど爆発的な人気を博したエロゲのタイトルだ。
舞台は魔法が存在する中世ヨーロッパ風の世界。
大陸にはあらゆる人種と七つの列強国が存在し、領土を巡って常に争っており……。
と、全て説明すると長くなるので省くが、細部までかなり作り込まれている世界観が普通のゲーム並みに大勢の目に留まったのだ。
特にヒロインたちは有名なイラストレーターを多数起用し、声優は大御所や実力派の新人を採用。
あまりのエロさに日本中の紳士たちが沸き立ち、白熱する程だった。
当然ながら、人気を博した理由はヒロインたちや世界観が魅力的だからだけではない。
シナリオを担当した、当時は無名のライターがシリアスとエロ、ギャグとエロを見事に調和させたストーリーを描いたのだ。
まず、ヒロインの多くが悲劇に見舞われる。
両親を魔物に殺されたり、恋人を魔物に殺されたり、友人や仲間を魔物に殺されたり……。
まあ、とにかく魔物たちの殺戮によってヒロインたちは心に傷を負う。
そこにヒロインたちと同様、故郷の村を魔物に滅ぼされてしまった主人公が現れて、共に過去を乗り越えるべく魔物たちに復讐を決意するのだ。
そして、各国を巡って魔物たちを退治するうちに主人公とヒロインたちは『魔皇』の存在を知る。
実は魔物たちは理性なき獣ではなく、第八勢力である『魔の帝国』の皇帝が他国を侵略するために派遣した兵士たちだったのだ。
主人公とヒロインたちは『魔の帝国』の危険性を訴え、各国の協力を得て魔皇討伐に乗り出す。
その戦いの果てに魔皇を討ち取り、見事に復讐を成し遂げたのだ。
しかも七つの列強国が戦争していたのは内部に潜入していた『魔の帝国』の工作で、魔王討伐を機に各国が和平条約を締結する。
たった一人の少年が美しい少女たちと戦い、無事に平和を勝ち取ったのである。
で、問題はその魔皇。
その名をバルドラ・ド・エレヴォシータ。
完全実力主義社会の『魔の帝国』で頂点に君臨するだけあって、その実力は作中最強。
単体ではどのキャラよりも強いと言われており、主人公一人では絶対に勝てないようになっている。
バルドラの性格は最悪だ。
弱者を見下し、主人公やヒロインらを徹底的に格下と見なす。
それでいて残虐で、無慈悲で、傲慢……。
バルドラを表す言葉は片手では到底足りないであろう。
鏡を見ると、そのバルドラが写っている。
老人のように真っ白な髪を束ねており、血を彷彿とさせる真紅色の瞳。
恐ろしく整った顔立ちをしており、女性に見えなくもない。
でもチ◯コはあるのでしっかり男である。
身長は高く、細身で筋肉質。無駄を削ぎ落としたような身体だった。
鏡の中のバルドラは俺と同じ動きをしており、俺が変顔をするとバルドラも変顔をする。
ゲームではバルドラが見せないようなひょっとこ顔をしている。
「はっはっはっ。……いや、なんでぇ!?」
どうやら俺は魔皇に転生してしまったらしい。
え? もっと詳しく説明しろって? それは俺が言いたい台詞だ。
主人公やヒロインなど、多方面から殺意を向けられまくっているキャラに転生とか逆にこっちが説明を求めたい。
気付いたらバルドラになっていたのだ。
俺は昨日まで、たしかに友人が一人もいないぼっちの大学生だったはずだ。
昨日の夜に何かあったのか。
「えーと、昨日はたしか……」
ああ、そうだ。
たしか『セブンスナイトクエスト』の追加コンテンツを買うためにプリペイドカードを購入しようとコンビニに向かったのだ。
で、その道中で居眠り運転してるトラックに轢かれてしまった。
詳しくは覚えていない。
しかし、目を覚ましたら俺はバルドラになってしまっていた。
「いや、分っかんない!! 何も分かんない!!」
ダメだ。一旦落ち着こう。
まずは辺りの様子を確認して、自分の置かれている状況を理解しよう。
「ここは、バルドラの部屋だよな……」
俺は広い部屋にいた。
ベッドやテーブル、ソファーなど、生活に必要な家具が一通り揃っている部屋。
目を引くのは大きな本棚だろう。
何百、何千冊という本が本棚に収まっており、一目見て部屋の主が読書家だったと分かる。
ここはバルドラの部屋だ。
パソコンの画面越しで見ただけだが、間取りはそのままなのですぐに分かった。
実際、公式設定資料集にはバルドラは読書が趣味と書かれていたしな。
間違いない。
「……どうしよう……」
バルドラは最終的に主人公率いるヒロインらに袋叩きに遭って死ぬ。
それだけ恨みを買っていたということだ。
……いや、待て。そう難しく考える必要は別に無いか。
主人公らから恨まれないよう、そもそも人類を攻撃しなければいいのだ。
「そうだ、そうだよな!! 大好きなゲームの世界を観光できるし、そう考えるとむしろラッキーじゃん!!」
何故ならバルドラは個としては作中最強。
主人公が集団リンチしに来ない限りは死ぬ心配はない。
その主人公に関しても、恨まれないよう行動すれば解決だ。
ふむ、自分の身を守るのは容易だと思ったら、急に気が楽になったな。
「よーし、『セブンスナイトクエスト』の聖地巡りしちゃいますかー!!」
と、少しテンションが上がって大きな声を出した直後だった。
バタンッ!!
部屋の扉が急に開かれて、一人の若い女性が勢い良く入ってきた。
「バルドラ様!! 何やら大きな声が聞こえましたが、ご無事ですか!?」
「っ、サ、サニアか?」
その女は美しかった。
艶のある長いストレートの黒髪、月のような黄金に輝く瞳。
おっぱいが大きくて、腰はキュッと細く締まっており、太ももはムチムチ。
安産型のお尻は肉付きが良く、モデルのように脚が長く身長が高い。
純白のシスター服のような格好をしており、深いスリットから覗くガーターベルト付きの白のストッキングがえちえちだ。
何より特徴的なのは、美女の頭の上に浮いている光を失った天使の輪だろう。
漆黒に染まった翼が腰の辺りからは生えており、堕天使という言葉がピッタリなビジュアルをしている。
彼女の名前はサニア。
バルドラの側近の一人であり、バルドラに次いで強い『魔の帝国』のナンバー2の女だ。
『魔の帝国』では個の強さが絶対。
強い者は敬意を抱かれる。
そのため、サニアはバルドラに人一倍敬愛と忠誠心を抱いていた。
でも、だからと言って油断することなかれ。
サニアは条件次第で主人公が攻略できるヒロインだったりするのだ。
つまり、ワンチャン裏切る。
でも今はバルドラの配下なので、俺がバルドラの皮を被ったぼっち大学生だとバレたらどうなるか分からない。
俺は咄嗟にバルドラを演じることにした。
高校で三年間、部員が俺オンリーの演劇部で培った演技力を舐めるなよ!!
「はい。あなた様の忠実な下僕、サニアです。バルドラ様、お加減が優れないのですか? すぐに宝庫からエリクサーを――」
「い、いや、要らん。気にする必要はない」
たしかエリクサーってゲーム終盤に魔皇城の宝庫でゲットできる万能薬だったよな。
死者の蘇生もできるから、魔物に村を襲撃されて亡くなった主人公の母を生き返らせる時に使うアイテムだ。
んな貴重なもん使っちゃダメでしょ。
「あー、えっと、だな。あっ。サニア、今日は何日か分かるか?」
俺はサニアに今日の日付を問う。
今後主人公らを敵に回さないためには人類を攻撃してはいけない。
しかし、もうすでに攻撃してしまっているなら今後の動きを考える必要がある。
こういう転生モノではもう手遅れなパターンってありがちだからな。
俺はラノベで勉強しているので慌てない。
すると、サニアは俺の質問に首を傾げながらもしっかり返答してきた。
「? はい、今日は神王暦845年の第六月、十四日です」
「オーマイゴッド」
「おぅ? バルドラ様、本当に大丈夫ですか? やはりお加減が優れないのでは……顔色が悪うございます」
「い、いや、何でもない」
サニアに英語が通じなくて良かった。
俺は魔皇、仮にも魔物たちの皇帝なのに思わずオーマイゴッドとか言ってしまった。
冷静に考えてみると、俺は日本語じゃない言語で話せている。
バルドラの身体に乗り移ってしまったのが関係しているのだろうか。
いや、そんなことよりも……。
第六月十四日。
それは『セブンスナイトクエスト』のプレイヤーだったらすぐに何の日か分かるだろう。
主人公が故郷の村を滅ぼされ、母親を殺される日。
地上から魔物を一匹残らず駆逐すると主人公が誓う決意の日だった。
やばい。やばいぞ!!
手遅れなパターンは想定していたが、まだ間に合う可能性は想定していなかった。
こうしちゃいられない。
「サニア、俺は用事を思い出した。しばらく留守にする」
「畏まりました。では私がお供を――」
「いや、必要ない。一人でいい」
「さ、左様ですか。申し訳ありません、出過ぎた真似を……」
「あっ」
俺は自分の失言に気付く。
サニアがバルドラに反旗を翻したのは、バルドラが彼女の好意を無視し続けたからだ。
バルドラに想いを告げても「お前に興味はない」と突っぱねられ、傷付いていたタイミングで主人公と遭遇。
優しくされてコロッと堕ちる。
ぐぬぬぬ。今すぐ魔皇城を飛び出して主人公の故郷に向かいたいが、サニアに冷たくしたままというのは良くない。
いや、サニアだけではない。他にも気を配らねばならないキャラはいる。大変だな、これは。
「ち、違うぞ、サニア。お前の申し出を煩わしく思ったのではない」
「え?」
「その、俺がこれから行うのは誰にも知られてはならないことなのだ。お前の供をしたいという言葉は嬉しく思う」
「っ、さ、左様でございますか」
サニアが頬をポッと赤くする。可愛い。
「で、では俺は行く。留守を頼むぞ、サニア」
「はっ!! この命に代えましても、バルドラ様が留守の魔皇城を守ります!!」
別に命は賭けなくても良いが……。
まあいい。俺は部屋から出て、魔皇城の庭園に躍り出た。
そして、飛翔魔法を使って空を舞う。
魔法の使い方は自然と分かった。
バルドラの身体だからか、コツが染み着いているのかも知れない。
俺は全速力で主人公の生まれ育った村に向かうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者はエッな天使が好き」
バ「分かる。清純そうな子がエッなのそそる」
「新作だー!!」「サニア可愛い」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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