第25話 路地裏でレアもんゲットだぜ!

【前回のあらすじ】

ことなつもバンド加入を決めた翌日、悪魔退治の現場に謎の男が鉢合わせて……」


   #   ♪   ♭


 ことは確かに目撃した。目の前で悪魔が煌めく粉塵に変えられるのを。

 自分以外にこんな芸当ができる者がいるとは。


「おい、あんた――」


 声をかける間もなく、ホスト風の男は掲げた手の表面から、辺りに散った光の粒――霊質を残らず吸収した。


(……!? この男、何をして……)


ことクン! そいつも悪魔だ!」


 マキナの声が路地裏に響くと同時、ホスト男の見開かれた双眸そうぼうが、怪しい閃光をことに浴びせかける。


「遅いッ!!」

「うっ……!?」


 すくみ上がることを見据えたまま、ホスト悪魔はぎゃく的な笑みを浮かべた。


「フッ……ボクの魔眼に魅了された哀れなメス豚め。さあ、ひざまずいて命乞い――」

「キメェこと言ってんじゃねぇ――っ!!」

「ぐはぁ――っ!」


 ホスト悪魔はことのパンチを顔面に喰らい、木っ端微塵に消し飛んだ。

 ある意味窮地を脱したことは、大きく安堵の息をつく。


「あぶねー……あまりにもキモすぎて固まっちまったぜ」

「はっはっは。敵は男の色香を使う相手を間違えたようだねぇ」


 マキナは用意周到に小瓶の蓋を空け、散らばった粒子を一気に回収する。


「……おや? ザコの割には大量じゃあないか」

「ボーナスキャラとかじゃねーの? 知らんけど」

「なるほどねぇ。すると、あれはドロップアイテムかな?」


 ホスト悪魔の消えた跡には、抜け殻のように靴とスーツが転がっている。ことが拾い上げて調べると、内ポケットから長財布が見付かった。


「おっ、結構持ってんじゃねーか。カード類まであるぜ」

「正義のヒーローは追い剥ぎも手際がいいねぇ」

「茶化すんじゃねーよ。土産だ、ウチの居候の」


 金品はレもんと不哀斗ふぁいとの生活費として頂いて行く。ついでに身ぐるみもネットで売り払うとしよう――と、ことはスーツの裏地に刺繍された文字が目に入る。


(ソラオク……? 聞いたことねーブランドだな。ま、いっか)


 戦利品をたずさえ、ことはマキナとともに意気揚々と現場を後にした。



  *



 悪魔組織・七伯爵のアジト。

 この場に残る二者の前で、構成員の安否を示す宝玉がまた一つ、輝きを失った。


「ソラオクもったか……」

「ま、予想どおりね。ところであいつの策って、一体何だったのかしら」


 ボスは知ってるんでしょう? と尋ねる妖艶な悪魔に、威厳をまとった影が答える。


「ソラオクは我ら七伯の中で最弱……しかし、自分より弱い悪魔の力を無条件で吸収する特技がある」

「初耳だわ」

「……と、履歴書に書いてあった。野良悪魔を吸収し続け、力をたくわえてターゲットに挑むつもりだったのであろう」

「それって、相手の方が強かったら結局意味なくない?」


 艶魔の鋭い指摘が、ボスを口ごもらせた。


「……もっともだ。奴は魅了チャーム能力も有していたはずだが、結果からして不発に終わったとみえる」


 ボスが言い終えようとするタイミングで、ドアがノックされた。


「入れ」


 入室してきたのは、ロングスカートにヒールを履いた女の悪魔だった。


「あたしの部下よ」と、艶魔。「報告を頂戴」


 部下に耳打ちされた艶魔は、一言「そう……」とだけうなずき、舌なめずりをする。


「学園の偵察か」

「ええ。新聞部とかいう連中に嗅ぎ回られて、引き上げざるを得なくなった……けど、最後にいい情報を拾ってきてくれたわ」

「聞こう」


 艶魔は一呼吸を置いて言い放つ。


めい治家じやことの交友関係を把握した――あたしは今から奴の弱点を突きに行くわ」

「自らおもむくか、シアティよ」

「大丈夫よ。正面から挑むような愚は犯さないから」


 そう言い残すと、艶魔――シアティは長い髪を大きくなびかせながら、部下を引き連れ退室していった。



  *



 おく多部たべ高校の一学期も終盤に差しかかる頃。

 講堂では、週初めの全校朝礼が開かれていた。


早稲蛇わせだ詩亜しあです。皆さん、これからよろしくお願いします」


 壇上から優しく穏やかな声を響かせるのは、白衣を身に着けた妙齢の女性だ。産休に入った養護教諭の代わりに、新しく赴任してきたという。


(へー。きれーな先生だなー。保健室が無駄ににぎわいそうだぜ)


 この時のことはまだ呑気に考えていた。

 まさか十日と経たないうちに、この「詩亜しあ先生」とあのような形で関わり合いになるとは、思ってもみなかったのだ。




(次章につづく)

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