第15話 テンション・リゾルヴ

【前回のあらすじ】

レもん「不哀斗ふぁいとの絶技を、ことっちは避け……向かって行くのか!?」


   #   ♪   ♭


岩抜がんばつっ……――!?」


 不哀斗ふぁいとが突き出した両掌が空を切る。その上を飛び越えたことが、胴回し回転蹴りを頭部へと見舞っていた。


ことちゃん!」

めい治家じや!」

ことクン!」

ことっち!」


 カウンターの反動がことを大きくね飛ばす。

 他方、蹴りをまともに浴びた不哀斗ふぁいとも、両手と片膝を畳について身をかがめていた。


(流石に効いて……――いや、違う!)


 レもんは不哀斗ふぁいとから反撃の気配を感じ取る。

 はたして、空中に投げ出されたことを、不哀斗ふぁいとのタックルが狙い撃とうとしていた。


 いち早く受け身を取ること。その両手には蒼白色の閃光が灯る。


「〈魂波ソルファ〉!!」


 撃ち出された波動が、突進直後の不哀斗ふぁいとを直撃する。


 祖名そなからは驚きの声が上がったが、


「おぁっ!? め、めい治家じや、い、今ビーム撃ってたぞ!?」

「やだなー、先生。ことちゃんならビームぐらい撃ててもおかしくないでしょ?」

「そ……それもそうだな……」


 まいの一言に秒で納得するのだった。


 さて、しもの不哀斗ふぁいとも連続での被弾には動きを止めざるを得なかったようだ。


「いいねェ……今のがことさんの隠し玉ってわけかい」

「そりゃどうかな」

面白おもしれェ……こうなったらとことんやり合おうぜ――ッ!!」


 これまでになく壮絶な殴り合いは、戦いの終りが近いことを物語る。


「ヒャッハ~ッ! アンタ最高だぜェ、ことさぁあああん!!」


 好敵手とのしのぎを削る激戦に、不哀斗ふぁいとあふれ出る狂喜を隠そうともしない。

 そしてそれが、不哀斗ふぁいとがこの一戦で見せた最後の笑顔となった。


 ぶつかり合う拳と拳の間で、色とりどりの光が飛び散った。


「正解だよ。今のオレは……過去最高潮に高ぶってるんだからなぁっ!!」


 ことの全身を包み込むように、虹色の炎が燃え上がるのを、レもんは――おそらく不哀斗ふぁいとや他の三人も――目撃する。


不哀斗ふぁいと、テメェが引き出してくれた力……一滴残らずもらっとけぇッ!!」


 ことの拳に集まった炎は、不哀斗ふぁいとに叩き込まれた瞬間、一気に爆発する。戦いの熱狂で高まった闘志全てを、攻撃へと変換する大技だった。


 レもんはことの勝利を確信した。


(決まったな)


 試合場を覆う結界が極光の輝きで満たされる。光が止むのを待たずして、不哀斗ふぁいとの身体は崩壊を始め、無数の粒子となって舞い散ろうとしていた。


 マキナは隠し持っていた小瓶の栓を開け、霊質の回収を図る。


「ほほぅ。これは大漁大漁……って、ちょっと多すぎやしないかい?」


 予備の瓶も含めて三本が満杯となった時点で、マキナは全回収を諦めた。


「欲張んなよ。そんだけありゃ充分、だ……ろ……」


 ことは支えを失ったように畳の上へ倒れ込んだ。レもんとの特訓のとき同様、力という力を使い果たしたのだ。


ことちゃん!」

「大丈夫か、ことっち」


 レもんはまいと前後してことに駆け寄る。数日寝込むほどの大技を、病み上がりで再度使ったのだ。負担は計り知れない。


「平気だ……二回目だし、身体も慣れた……はず」

「無理をするな。ほら、スポドリだ。飲め」


 ことまいに支えられながら水筒のストローをくわえる。その視線は、祖名そなの慌てふためく足取りを追っていた。


「さ、寒富さぶどみはどこへ行った!?」

「落ち着いてください、先生。そこにいるじゃありませんか」


 マキナが指差す先には、ぶかぶかの空手着にくるまれた小さな女の子が、ぽつねんとたたずんでいた。


「ち……縮んどるぅ――っ!!」

「悔しいけど今回はおれちゃまの負けだじぇ……約束どおり空手部に入るので、よろしく頼むのだじぇ」


 幼児化した不哀斗ふぁいとを前に、祖名そなは返事を渋っていたが、やがて腹をくくったらしく、


「……分かった。お前の身は我が部で預かろう。女に二言はない!」

「恩に着るのだじぇ!」


 約束は果たされた。

 これにて一件落着――と言いたいところだが、クラス担任でもある祖名そなは早速頭を抱えなければならなかった。


「しかし、あれほど屈強な寒富さぶどみがこんなちんちくりんに……生徒たちにどう説明すれば……」

「あのデカブツはぬいぐるみだったとか言っときゃいいだろ」

「それだ! めい治家じやの案を採用するぞ!」


 非常識な出来事の連続で、祖名そなは判断力が鈍っていた。

 それはそれとして、クラスの生徒たちにはすんなり受け入れられた。結果オーライである。


「それにしても一瞬でこんなに縮むなんて、一体どういう仕組みなんだ?」


 祖名そなの疑問を聞き、不哀斗ふぁいとが口を開こうとするが、


「それは悪魔の――」

「悪魔の呪いです!」マキナがそれを阻止する。「カラテの神秘的パゥワァーによって、不哀斗ふぁいとさんにかけられた呪いが解かれたのです!」

「なるほど! やはりカラテは素晴らしいな!」


 やはり祖名そなは判断力が大分おかしくなっていた。再三言うが、結果オーライなのである。


「よかったねー。ことちゃんが頑張ったおかげだよー」

「いえ、オレが今日中に目覚められたのは、先輩が看病してくれたおかげッス」


 睦まじく寄り添うことまいを、レもんは少し離れて見守る。


(ドナツィエルに続いて、あーしやファイ゠トノファまで打ち負かすとは……ことっち、魔王軍がオマエをターゲットにする日も遠くないかもしれないぞ)


 もしその時が来たら、自分はどう立ち回るべきか。レもんの悩める日々はすでに始まりつつあった。



  *



 所変わって、ここは七伯爵のアジト。

 円卓についた三者の人影が、あれこれと言葉を交わしていた。


「何たることだ……あのファイ゠トノファまでもがような……」

「いよいよアブナいかもしれないわね」

「それはどういう意味だい?」


 かげいしの台座にめられた宝玉は七つある。


 輝きが消えた一つは、ドナツィエルの分。

 本来の赤から青色に変わったのは、レモノーレの分。

 弱々しいしゃっこうを放つのが、ファイ゠トノファの分。


「無事な宝玉は四つあるわ。で、ここに残っているのがあたし含めて三人」

「ミナノミアルは帰って来ないね」

「そう。形勢不利を見越して逃げたのかも、ってこと」


 上座に座る影が身じろぎをする。


「こうなれば、やはりわしが……」

「例えば、ですが」

「聞こう」

「七伯最弱のボクが状況をひっくり返した、となれば痛快に思いませんか?」


 大口を叩く男に、残る二者の視線が集まった。


「……許す。行くがよい、ソラオクよ」

「御意」


 ソラオクは颯爽さっそうとアジトを後にする。


「……大丈夫かしら」

「奴は確かに最弱だが、策が噛み合ったとき、最強の駒となり得るのだ……!」

「噛み合ったこと、今までにあったっけ?」

「…………」

「あたし、次の出撃準備しとくわね」




(次章につづく)



   #   ♪   ♭



不哀斗ふぁいと イメージ画像2

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093084368360370

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