雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム
真野魚尾
第一章 忍び寄る魔爪、レモノーレの巻
第1話 体育館で悪魔退治するってよ
「変質者」は春の季語に含まれますか?
そんな質問をしたくなる出来事に、
「そこのキミ。ショートカットで背の高い、女子高生の」
下校途中、突然声をかけられた。
思わず
「割のいいバイトがあるのだが、ワタシと一緒に働いてみないかい?」
あからさまに怪しい。顔立ちこそ大層な美形だが、格好が問題だ。
その女は日本の地方都市におよそ似つかわしくはない、異世界ファンタジーの魔法使いみたいな服装をしていた。
「いや、自分コスプレとか興味ないんで……」
「服装は不問だよ。カラダを使うお仕事だからね」
「…………。オレ、心に決めた相手がいるんで。
立ち去ろうとする
「逃げるのかね?」
「……あぁ?」
つい乗ってしまった。女はまるで
「見込みがあると踏んだのだが、残念だなぁ」
「仕事内容。ちゃんと話せ」
「正義の味方さ。悪魔退治のね」
幼い頃から少年漫画や特撮ヒーローを観て育った
「やる、やる! ……え? 悪魔……?」
この時二つ返事で承諾したアルバイトが、よもや世界の存亡をかけた一大事を呼び寄せるとは思いもせず――。
*
夜の体育館。見慣れた場所もどこかおどろおどろしげだ。
館内に響く詠唱の声が、より一層不気味さを演出する。
「ゾス・バトッブ……ア・ヤイ……コテデ・トサッサ……」
魔法円が描かれた黒布の中心に、ローブを
「レ・ガヤ・キ……テデマク・アナート……キテラ・カーイ・モデンナ……!」
青白い閃光が
漆黒の双翼を持つ者――堕天使、あるいは悪魔と呼ばれる存在が
「我が名はドナツィエル。魔界にて二十の軍団を率いる伯爵なり」
くぐもった声が名乗りを上げると、女は溜め息をついた。
「伯爵……レア度★3ってところかねぇ。道理で召喚演出もショボいわけだ」
この態度には悪魔さんサイドも怒り心頭である。
「
「それはどうも。やっぱり即席のランダム召喚じゃ期待薄だねぇ」
「ふてぶてしい奴め……まぁよいわ。ひとまず盟約には従おう。三つの願いを言うがいい」
悪魔はあっさりと仕事モードに移行する。願いと引き換えの寿命さえ頂けば、問題ないとでも言いたげに。
「諸君ら悪魔は人間に
「
「質問まで願い事にカウントするのかい? 世知辛いことだ」
女の度重なる無礼にも、悪魔はむしろ誇らしげだ。
「フハハハハ……! 魔界一セコいと
「悪魔の価値観は不思議だねぇ。それはそうとドナツィエル君、キミがこの人間界で犯した罪を告白したまえ」
悪魔は嬉々として武勇伝を語り出した。
「我が罪とな? まず、お婆ちゃんが営む駄菓子屋で万引きをしたり」
「外道!」
「小学生にバス代の
「鬼畜!」
「百合ップルをナンパしてお化け屋敷に置き去りにしたこともあったな」
「な、何ぃ…………っ!?」
テンポよくツッコんでいた女が、三言目にして顔色を急変させた。
「今の答えで二つ。さあ、最後の願いを言え」
「……死すべし」
「んん? 聞き間違えか?」
「百合に挟まる不届き者は万死に値するッ!! 速やかに死すべしッ!!」
女が短剣を頭上へと掲げた。それを合図に、不可視の術が解けた
「おい、マキナ! 打ち合わせとタイミング違うだろうがっ!」
「もう一匹隠れていたか!
悪魔はすでに臨戦態勢だった。こうなれば予定変更だ。
「クソッ……バイト代、色付けてもらうからな!」
「おのれ……名を名乗れ」
「
避けるのは
「抜かったな! 我が拘束は力では破れぬぞ!」
「力がダメなら――気合いだァッ!!」
「何だと!? 貴様、何者――」
「
175cm70kgの健康優良児がぶちかます、渾身の一撃。
「――どぅわは……っ!!」
銀髪眼鏡女――マキナの手にした陶製の小瓶の中へと。
「ふむ。今回はまずまずの収穫だねぇ」
「毎回思うけど、それって一体何なんだ?」
「企業秘密だよ」
「またそれかよ。時々あんたの方がよっぽど悪魔っぽく見えるぜ」
「…………」
マキナは無言で眼鏡を押し上げ、不敵に微笑んだ。
「そういうとこをオレは言ってんだけどな」
「小遣い稼ぎができて、世直しにもなる、一石二鳥だろう。何の不満があるんだい?」
「不満はねぇけどよ……そもそもあんた、何で悪魔退治なんてしてんだ?」
何度も試みた質問だが、マキナからはまともな返答があった試しがない。
それは今回も同じだった。
「逆に聞きたい。
「そりゃ、ヒーローはオレの憧れだからな。悪魔が相手なら遠慮なく暴れられるしよ」
生まれ持った力を持て余していた
「勇ましいねぇ……で、バイト代は彼女とのデートにつぎ込む、と」
「か、彼女じゃねぇし! 今は……まだ……」
「急に乙女になるじゃあないか。いやぁ、キミを観察するのは実に面白いねぇ」
「う、うるせえな! さっさとお片付けすっぞ、オラァッ!」
二人は速やかに撤収準備へと移った。悪を葬った後も手抜かりは許されない。無事家に帰るまでがヒーロー活動なのだ。
*
翌日の放課後。ベースを担いだ
「先輩、おまたせッス!」
人もまばらな部室で、つやつやの黒髪をなびかせた美少女がギターを抱えて出迎えた。
「
耳を
「き、聞かせてくださいッス!」
「ふふっ。どうしよっかなー……」
# ♪ ♭
★
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093082082944804
★マキナ イメージ画像
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093082275449964
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