第五章 解かれる封印、目覚める力

 二人が城に着いてみると急いで避難する役人達で門はごった返していた。

 何とか人混みをくぐり抜け、城の前まで来てみると頂上は燃え盛り、時々燃えた柱が降ってくる。


 頂上の様子を目を凝らしながら見ていると、炎の中から黒い物が飛び出し、続いてヒュウガとユズキがそれぞれの階層に備え付けられた屋根を走りながら降り、黒い物を追っていた。


「隊長ー!!」

 と二人は叫んで呼び掛ける。

 するとそれを見た黒い物は二人の前に疾風のごとく加速するとフワリと降り立った。


 全身を黒い布で覆っているそれは顔があるであろう所に二つの琥珀色の目が光っている。

「・・・っ!!」

 二人は目を見開いた。なぜなら布から覗くその腕の中では意識がなく腕をだらりと垂らしたイズモが抱えられていたのだから。

「イズモ様!!」

 咄嗟とっさにアマトが近づこうとすると、黒布の物は威嚇いかくするようにブワリと邪気を発する。

 その邪気をあの怪物達と同じ物だと二人はビリビリと肌で感じていた。

 二人は身構え、二人の緋色の目と黒布の物の琥珀色の目がジリジリとにらみ合いをし、お互いが出方をうかがっている。


 すると突然、黒布の物は手から黒い球体を生み出しはじめ、大鎌の形をとったと思った瞬間、片手で軽々と二人に向かって振るったのだ。

「危ない!!」

「うわっ!!」

 すぐさま反応して避けなければ二人の首は宙を舞っていたことだろう。

「何をぉ!!」

 二人は間髪入れずに黒布の物に反撃をお見舞いしようと突撃し、合流したヒュウガも後ろから一撃を入れようと大剣を振り下ろす。

 黒布の物は三人の反撃を飛び上がって避けたのも束の間、

「甘いっ!!」

 ユズキの放った一矢は眉間に直撃し、力が抜けた様にバサリと地面に落ちる。

 しかし、落ちた布の中にイズモの姿がないのだ。


何処どこへ!?」

 イズモの姿を探すため四人は辺りを見渡し始める。

「フッフッフッ」

 四人は声のした空中に顔を向けるとイズモを抱えて琥珀色の目と灰色の髪をした男がおり、

「火球が爆発する寸前で結界を張るとは……相変わらず人情深い人だ。しかしこうして気絶してもらっては元も子もない」

 とイズモを揺すっている。


「何者なんだあんたは!!」

 アマトは男に怒りをぶつけるように叫ぶ。

「君達二人にとっては初めましてか。名前はオウマ。君の隊長と副隊長の古くからの友人でありイズモ様の一番弟子とは私のことよ」


「お前に友人と呼ばれる筋合いはもう無い!!」

 吐き捨てるようにヒュウガは言うが、それを見たオウマはヤレヤレと言いたげに片手を降っている。


「イズモ様を狙った蝙蝠コウモリの化け物も街で暴れる虎の化け物もお前の仕業なのか!!」

 再びアマトは荒々しく叫ぶ。

「それは君たちの力を確かめる為のただの小手調こてしらべだ。本命はこれから始まるのだよ」

「どうしてこんなことを!!」

 マソラも叫ぶ。


 オウマはフッと嘲笑あざわらいながら

「やはり君たち二人は知らなかったのか。そうそう隊長殿、あの後の十年間で遂に例の装置を完成させる事が出来たのですよ。 私の研究の成果をとくとご覧あれ」

 オウマは胸に何か丸い窪みが付いた装置を着けた。

「それはまさか!!」

 ユズキとヒュウガの顔が青ざめる。

「そう!!そのまさかよォ!!」

 空にはいつの間にか太陽は消え、満月が空を明るく照らそうとしていた。


「させるかっっ!!」

「させるわけには!!」

 ヒュウガは正面から飛びかかり、ユズキはいつでも追撃できるよう回り込みながら弓をつがえる。

「馬鹿めッッ!!敵は私一人だけではありませんよ!!」

 オウマはふところから数十枚もの霊符をばら撒いたのだ。

 霊符はそれぞれ蝙蝠コウモリと虎の怪物に変化していき、二人を囲い込むように襲いかかってくる。

「雑魚が邪魔をするなぁぁ!!」

 ヒュウガは噛みつこうと飛びかかった虎の口に大剣を突き刺し、間髪入れず内側の柔らかい肉から切断し虎を撃破する。

 それから四人は虎の攻撃を受け流し、ユズキが蝙蝠こうもりの眉間を貫いたりと応戦するも


「ぐわっ!!」

 囲まれたヒュウガは後ろから虎の怪物に軽々と弾き飛ばされ、激しく地面に打ち付けられる。

「ヒュウガ!!」

「隊長!!」

 三人は急いでヒュウガの元に駆け寄る。

 オウマはこの状況を楽しみながらクックックッと笑いながら空を見上げ、満月が空高く上がっているのを確認すると

「時は満ちた!!どうやら時間切れのようですね隊長殿ぉ?」

「やめろーー!!」

 ヒュウガは悲痛に叫ぶ。


「イズモ様。十年前の約束を今果たしますよその為に力をお貸しください」

 オウマは未だ目覚めないイズモに呪文をかけていくと体が光の塊になっていく。

更にその光を集めながら瑠璃色の玉へ変化させていき、その玉を胸の装置のくぼみにはめると空高く飛び上がり、満月を背に何か呪文を唱え始めた。

「大地に封印された同士達よ今こそ復讐のときだ!!」

 オウマは両腕を開き胸をそらし始める。 


 ヒュウガは下唇を噛みちぎりそうなほど噛み締めながらも

「全隊員、民の人命最優先で護衛に当たれ!!」

 霊通機で喉から絞り出したような声で全員に伝えていく。

 すると大地にまるで血が滲み出たかの様に赤黒い物が出てきたのだ。

「グルルゥゥ・・・グォォォ!!」

 滲み出たそれは数多くの黒い体と赤い目を持った獣となり雄叫びを挙げている。

「うぅぅ・・・」

 何が起こっているのかわからないマソラとアマトだったが突然、心臓に激しい痛みを覚え始め、その場でうずくまってしまったのだ。


 オウマは壮観な眺めだと思いながらも

「まずは存分に生者の血肉を食らうがよい!!」

 命令された獣達は避難所である兵舎へ飛び立っていく。

「さぁ忌々いまいましいけがれた血を持つお前達二人には消えて貰う」

 オウマは右手を高く掲げ、まるで太陽のような火球を生み出し始めている。

「マソラ!!アマト!!」

 ユズキは必死に呼びかけるも二人はうずくまりながら痛みに悶えている。


「死ねッッ!!」

 火球に包まれ、大爆発が起きる。









 はずだった。






ブアァァァァと大きな風の音がヒュウガとユズキの耳に響いてくる。

「うわっ!!……はっ!!」

 どうやら何かが火球を防いだらしいのだ。

「ガァアー!!」

 ヒュウガとユズキが目を開けて見ると二羽の巨大なからすが二人の身を守るように翼を広げているのだった。

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