第36話 エルシアの我が家とサードワールド
「アイリスー、あの家か?」
マークが遠くにポツンと見える大きめの家を指さして聞いた。ガーディアン達五人が空中を移動している。
「そうよ。あの家」
「まずまずだな」マークが呟く
「はい、みんな降りてねー」
ガーディアン達の新たなねぐらとなる家の前に、全員ふわりと着地した。
「結構大きいのね~」とミア。
「これなら部屋数もかなり多いですね」とルカ。
「全員個室があるわよ」アイリスが言った。
「やった!」ティナも小さくガッツポーズ。
「ミイ」デイジーも気に入った様だ。
「じゃあ、各自荷物の整理などお願いします。あ、その前に記念写真撮る?」
「撮ろう!」ティナがはしゃぐ。
「早く撮れ~、向こう見ろ、早速仕事しないといけないんじゃねーかなー」
マークががっかりしながら遠くの不穏な黒い雲を見つめている。異生物がいる可能性が高い。
「げ、いきなりだわ…… はいはい、みんな集まってえ。家をバックに写真!」
アイリスが速攻で記念写真を撮る。そしてマークが言う。
「アイリス、どうする? いきなりアレだぞ」
「私はあいつは嫌に決まってんじゃん!」
「でもなあ、住民が我慢できるかどうか……」
二人のよくわからない話にルカが突っ込む。
「何のこと話しているんですか?」
「知らなくていいのよ~ ルカ君、それよりあの雲の中にいるゲテモノをさっさとやっつけてきてくんない?」
誰が行くか? マークが初仕事として派遣するガーディアンを決めた。全員で行ってもいいが、リスクが低い相手は基本は一人で対応することになっている。今回マークが指定したのはミアだった。
「いやヤツは結構手強い。初仕事はエースのミアだな。俺と行くか?」
「はい! ミア行きまーす。 ところでアレって何なの?」
ミアの返事はやけに大声だった。張り切っている。
「アイリス、もしだめだったら、いつものな! TJに連絡しとく」
「うえーん。嫌よー、ミア、頼むからやっつけて、サソリちゃん!」
「サソリなんですか? いいですよ。私がやっつけます!」
マークもアイリスも黒い雲の正体を知っていた。サードワールドから時々このエルシアに入り込むプリズメアと言う名のサソリのフォルフ(異生物)だ。通称台風サソリと呼ばれる。
大昔、エルシアの人々はこのプリズメアに散々苦しめられていたが、サードワールドからプリズメアを追ってやって来る特殊部隊とアイリスのおかげで被害は減り、それどころか人々はプリズメアを自然の恵みと捉えるようになってきた。
しかし、プレイヤーとしてのガーディアン活動はとっくに引退しているアイリスにとって、このプリズメアは疫病神でしかない。たまたま彼女の技がこの通称、台風サソリには非常に有効だったために、このフォルフが出る度に、対応に駆り出されるからだ。野球に例えれば、監督が代打で出る様なものである。
「じゃあ、行くぞ、ミア」
「行きましょう、マークさん」
二人はふわりと浮かぶと、すごいスピードで黒い雲の方に飛んで行った。
―― サードワールド(第三世界) ――
サードワールドと呼ばれる異空間は、ミッドガルド、エルシアに続く地球第3のパラレルワールドである。しかしサードワールドが特殊なのは、銀河系内の他の星域にワームホールで繋がっており、異生物の交流が多い事である。
残念ながらエルシアもまたサードワールドとの行き来が比較的容易であり、異生物がきやすい世界である。これまで5千年間はブルーソースの力で、異生物のエルシアへの侵入は最小限に抑えられてきた。が、今は違う。
サードワールド自体は異生物、異星人が舞い込むやっかいな場所ではあるが、それでもなお人が住む世界の一つであることは変わらない。住みやすいエルシアに移住する者が多いため、さすがに人口は少ないが、刺激のあるサードワールドに住み続ける者も多い。日頃から刺激されて鍛えられている所為か、サードワールドからは多方面で優秀な人材が多く排出される。
しばしばサードワールドの居住者の中から極めて優秀な戦士が現れることが知られている。戦士と言っても、古代や中世の騎士などとは違う。秩序を保つための惑星間警備組織の特殊部隊である。
サードワールドの特殊部隊に属し、主にエルシアに混入するフォルフを退治する役目を持つ隊員がここに二人いる――
「カイ、仕事よ。サソリ」
「ああ? サソリですか。ノヴァにまかせた」
「え、何言ってんのよ!! ふざけないで」
「いや、今日はちょっと暑すぎて疲れていて……」
サードワールドも地球よろしく温暖化どころか酷暑化が続いていて、自称ひ弱なカイ君は夏バテ気味である。しかし特殊部隊員であるにも関わらず、腑抜けたセリフを呟くカイに、厳しいお姉さんであるノヴァが吠えた。
「あんだと! 暑いのは皆同じなんだよ! サソリのそよ風に吹かれて涼めばいいでしょ! 行くよ!」
「そよ風え? 暴風の中で涼めるかってーの」
カイはぶつぶつ言いながら重い腰を上げた。
二人はDゲートと呼んでいるエルシアに通じるメインルートのレッドホールに入って行った。
パラレルワールドに通じるパスであるレッドホールは薄暗いのだが、遠くの方に薄明かりが見え、そしてなぜか少し暖かい微風がパス内を流れている。所々空間が歪み、構造色が様々な色に変化するのが見える。カイはいつもノヴァとここを通る時、――それは任務をこなしに行くだけなのだが、なぜか懐かしいような気持ちになる。いつも前をノヴァが飛ぶ。はためくノヴァのシールドマントがカイの心を落ち着かせる。
「ノヴァ!」後ろから声をかける。
「何?」ノヴァが振り向く。美人だ。口に出して言う事は無いが、強いくせに美人とは許しがたい。
「何でもない」カイはノヴァの顔が見たくなっただけだった。ノヴァは黙っていればただの運動神経の良い美人だ。しかし、ほら、このように、すぐに怒るから美人が台無しだ。
「はあっ? 何でもないのに呼ばないでよ!」
子供の頃から見飽きている顔だが…… ごめん、嘘。本当は見飽きてはいない。ずっと見ていたい。怒っている顔は遠慮しておくけれど……
「じゃあ…… ノヴァはいつまで兵士やんの?」
「じゃあって何よ、じゃあって。無理やり質問作らなくっていいわ」
「いや、急に聞きたくなった」
「もう! いつまでって? 永遠よ」
「また、またあ。この前、『そろそろ、いい加減SOF辞めて足を洗わないとね』って言ってたじゃん」
「……記憶にない」
カイは感じていた。ノヴァはそう遠くない時期に兵士を引退するだろうと。サードワールドでもトップレベルのファイターに上り詰めたノヴァは、一人の女性でもある。今後長く兵士を続けるモチベーションは無い。
「カイ…… 今はプリズメア――サソリ退治に集中しなきゃ」
カイは急に声のトーンが下がったノヴァが、本気で引退を考えていることを確信した。自分はどうするか? ノヴァより2才程年下のカイは、ノヴァに付いて行きたいのが本音だが、さすがにそんな理由で兵士を引退することは難しいだろう。
「オーケー、ノヴァさん。僕は付いて行きますよ、サソリ退治ね」
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