ブルーワールド ~見習いガーディアンは訓練を重ねてエルシアを救いに行く~
🎄三杉令
第一章
第1話 二十五年後 エルシア
―― エルシア 二十五年後 ――
その夜は明るく月が輝き、まるで白夜のような雰囲気を醸し出していた。虫の声が響き渡り、微風が流れて心地いい。甘い果物のような香りがうっすらと漂う。ここは南国なのか?
ここはパラレルワールド『エルシア』である。ミッドガルドと呼ばれている私達の世界とエルシアは鏡の表と裏のような双子の世界である。
二つの世界は五千年おきに入れ替わる。エルシアはこれまで長い間、表側の世界であり続けた。平和なのでブルーワールドと呼ばれた。
反対に私達のミッドガルドは長い間レッドワールドと呼ばれ、裏側の世界として数々の試練に耐えてきた。ミッドガルドを試練から守ってきたのはエルシアから派遣された神様であった。
そして、遂に表の世界と裏の世界が入れ替わる時が来た。五千年待ち続けてきた待望の瞬間だ。私達のミッドガルドが平和な世界になるのだ。
これからはエルシアがレッドワールドとなる。試練が降りかかり始めるのだ。
今度はミッドガルドで選ばれた者が守護神(ガーディアン)となってエルシアを救いに行く必要がある。
パラレルワールドにはそんな掟があるのだ。ガーディアン候補として選ばれし者は、まず見習いとして一年間の厳しいトレーニングを行う。そして晴れてエルシアの守り神となる。
―― この物語は、ミッドガルドの人類から選ばれた三人の男女がガーディアンとなってエルシアを守り始めるまでの試練と成長を描いた、波乱万丈のストーリーである。
◇ ◇ ◇
「ん、誰か呼んだ?」
エルシアの、とある家で母親が幼い子供を寝かしつけている。
ベッドで子供に母親が寄り添い、物語を聞かせていているのだ。その柔らかい体を子供のそばに置き、肘をついてガーディアンの話を始めたところだった。
「誰も呼んでいないよ」
「そう? 気のせいかしら」
子供の名前は『アフロディーテ』。まだ5歳の女の子。たいそうな名だ。お母さんの名は『アテナ』。こちらもどこかで聞いたような由緒ある名だ。
「それより早く話を続けてよ」 アフロディーテがせかす。
「はいはい。じゃあルカの話を続けるね」
アテナは愛娘にミッドガルドから来た三人の神について一人ずつ語っている。
「そのルカという男の人は元々レッドワールドにいたのね」
「ルカって男なんだ」
「そう。ルカって女の子の名前に多いけど、この人は男よ」
「レッドワールドって?」
「えーと、もう一つの違う世界で、私達とそっくり同じような人達がいるのよ。昔はねえ、災害とか争いとかで大変だったところなの。その世界の本当の名前はミッドガルドって言うの」
「どこにあるの?」
「ここと同じ地球なんだけど、鏡の裏にあるような別世界で、見えないし簡単に行けないのよ」
「ふーん」
アテナはさらにルカという神について説明する。
「それでルカ君は一生懸命トレーニングして、こちらの神様になったのね」
「わ! 神様?」
アフロディーテはわくわくしてきた。神様の話が大好きなのである。
「そう神様よ。彼はたいした能力は無いんだけど、たぶんとっても運がいいのね」
――『たいした能力が無い』とは失礼ですね、アテナさん。
「ラッキーさんだ、他の二人は?」
アフロディーテは眠るどころか、目がらんらんとしてきた。アテナもまんざらではない。
「他の二人もミッドガルドから来たんだけど、一人はミアっていう女神さん。すっごい能力があるのよ」
「女神さん? 美人なの?」
「んー。まあまあかな。ミアはスタイルはいいけど、顔と器量は三人目の方が上かな」
そう言いながらアテナの眉が少し上がった。
―― アテナさん、子供に誇張した話は良くないですね。
そして三人目。アテナのテンションが少し上がる。
「いよいよ三人目よ」
「いよいよ?」
「はい、じゃーん。千夏(ちなつ)さんです」
「え? 昔の人みたいな名前」
「失礼ね、アフロディーテ。違うわよ。『ちなつ』って、とーってもいい名前なの。千の夏でサウザントサマーよ」
「お母さん、何言ってんのかわかんない」
「いいのいいの。とにかくこの人はね、とーっても美人で、とーっても強くて優しいの」
「ベタぼめだね。三人の神様は友達なの?」
アテナは外に少し目をやって想い出すように言った。
「そうね。とってもいい友達ね……」
柔らかい風はなおも親子の髪を揺らし、虫の声はエルシアの夏の夜をいつまでも楽しむように奏で続けた。
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作者より:
本作、目に留めていただきありがとうございます。最初の数話は時系列が逆転していますのでご留意ください。
①トレーニング時代 →【第2話以降】
②エルシアでの活動 →【第1話A、B】
③25年後(本話) 【第1話】
※ 毎日16:00公開です。
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