第10話 プロお針子(seamstresser)ミミン
「ミミン。一週間後に結婚式がきまったわよ。今の気分はどうかしら? 羨ましいでしょ? 悔しいでしょ?」
朝、いつもの様にお妃様の起床のお手伝いをする為、部屋に行くと当然の様に開口一番の嫌味で私をお出迎えしてくれたヤヌスお妃様。
「おめでとうございます」
「そう言えばあなたお針子の仕事してたらしいわね?」
「はい」
「婚約したから辞めたのよね? 破棄されたけど。キャハハ!」
「…………」
高笑いならオーホホホじゃない?
「結婚式の日にブローチのコンテストがあるのよ」
「そうですか……」
「あなたも参加しなさい。これは命令よ」
「え?」
結婚式の日に行われる刺繍のコンテストとは、皇太子様の結婚を祝い城下町のお針子職人達が腕を競い、刺繍を施した手作りの布製ブローチをプレゼントする。
そして、父親である国王様が一番良いと思うブローチを選び、皇太子様が結婚式に着るタキシードの胸に付けると言う、まさにお針子職人達にとっては名誉と栄光のコンテストです。
私も過去に歴代国王様がご結婚された時には必ず行われたと言うのを噂で聞いた事がありました。
「ど、どうして私が……いいのですか?」
「あら? 珍しく気を使っているのかしら? そんな事は心配御無用よ。絶対にミミンの作ったのなんか選ばれる訳がないし、曲がり間違って選ばれたとしても、皇太子様がそれを付けて私に永遠の愛を誓うのよ。こんな爽快な事はないわ! キャハハ!」
つまり、選ばれなかったらただ睡眠時間を削られただけ。選ばれても屈辱が待ってる。
酷い……。
ここに来て最低の嫌がらせだよ。
敢えて無視したら、命令に背いたと言う事で追い出される可能性もある。
どう転んでも、本当に最低最悪のイベントだよ。
「わかりました。精一杯お妃様と皇太子様のお祝いの気持ちを持って作ります」
やるしかない。
幸い、お針子職人時代の裁縫道具一式はある。
「材料の布はこれを使いなさい。どうせあなたは小汚い布しか持ってないんだから」
「ありがとうございます」
ノートくらいの箱に、たくさんの色とりどりな布や紐、糸が入っている。
事前に用意してたんだね。
だったらなんで初日に渡さないのよ。
少しは作業出来た……いや、無理だったかも。変な男も来てたしね。
「それから、ミミンは夜暇でしょ? 私が趣味を作ってあげたんだから感謝しなさいよね。一週間後の結婚式までに一針一針私の幸せを祈りながら作りなさいね」
「わかりました。一針一針気持ちを込めて作ります」
こないだの夜に来たもう一人のお妃様なんて言うのは私の夢だったんだ。
さすがの私も怒りが込み上げて来たよ。絶対許さない――って。
いや、駄目。
何を言われても頑張る事にしたんだから。
◇◆◇◆◇◆
ボーンボーンボーン……
「おい! 欲望まみれの赤ずきん!」
シンデレラでしょ?
まさか本気で間違えたんじゃないでしょうね。
「お前、コンテストに参加するんだってな? お妃様から聞いたぞ!」
「だったら、私がこんな夜遅くに何をしてるかは見ればわかるでしょ。今日はやっぱり帰っていいよ」
事件の話を色々問答しようかとおもいましたが中止。それどこじゃないからね……。
「やっぱりとはどう言う意味……そんな事より、やっと被害者の事がわかったんだ。聞かせてやろう」
この男は人の話を聞かない。
作業は中断されるし、気分を害するし、帰った後も嫌な余韻を残すし。
本当にめんどくさい男だよ。
後書き
プロゴルファー祈子
祈る子と書いて「れいこ」
1987年に放映された安永亜衣さん主演のテレビドラマ。
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