婚約破棄は振り向かない。
@pusuga
第1話 止まらない弱音と後悔
そりゃ婚約なんて口約束だけどさ。こんなに簡単に破棄されちゃう物なの?
夜眠れなくて散歩に出た私の行動が軽率だったのは認める。
公園の花壇に綺麗なパンジーが咲いてるから見に行こうとしてただけの現場に、偶然面識ない若い男性がいただけ。
でもその男性は、私が来た時点で後頭部から血を流して倒れてたんだってば。改めて声を大にして言いたいけど知らない人だよ。
そこから、近くの城の衛兵に事の次第を伝えた――つまり、私はただの第一発見者に過ぎないのに。
そして犯人はすぐ捕まった。
なのにどうして、私の存在が動機だと言うとんでもない発想に行き着くの?
確かに犯人は、女にモテそうな奴だから腹が立ったから衝動的にと供述してたらしいけど、私が来た時は彼が倒れてたんだってば。もう一回言わせて。知らない男性だよ。
私がやって来るのが見えたから逃げたなんて、犯人も供述してたらしいけど、待ち合わせなんかじゃないよ。
偶然なの。たまたまなの。眠れないから公園に散歩しに来ただけなの。
なのになんで、通り魔事件で命を落とした男性の相手が私だなんて決めつけるの? ひどいよ。
そりゃ夜眠れな……理由はどうあれ、22時過ぎに誰もいないだろう公園に行ったのは私が悪い。婚約してると言う立場を考えたら軽率な行動だったかも知れない。
だからって、貴方に不信感が生まれてしまった――なんて、申し訳なさそうな物言いで、あっさり婚約破棄するなんて信じられないよ。
出会いは偶然だったじゃない。
貴方がたまたま、城下の雑貨屋さんに来た時に私を見つけてくれたんじゃないの?
私は平民だし父もいない貧しい身分だから……って断ったじゃない。
それでも構わないって言ってくれて、何度も花束なんか届けてくれて、恋文も一緒に入っていて。
とっても嬉しかったのに。
私には場違いなお城のパーティーにも、わざわざドレスを送ってくれて招待してくれたじゃない。
すごく緊張してたんだから。
そして、いきなり「今日のパーティー、実は婚約者を紹介する為だったんです」なんてサプライズ。
あんなに泣いたから、うなずくしか出来なかったのに。
それなのに、指輪も返して欲しいなんてあんまりだよ。婚約破棄されたからって売り払ったりなんてしないよ。
そりゃあ、家に帰ってから指輪を眺めて泣こうとは思ったけどさ。
ひどいよ。ひど過ぎるよ。あんまりだよ。出会わなければ良かったよ……テリー皇太子様……。
別に『ほら、あれが皇太子に婚約破棄されたミミンよ』なんて指さされて噂になっても構わない。
でも、しいて言うなら信じて欲しかった。私の必死の言葉が貴方の心に届いて欲しかった。
あっ……そうか……。
私への愛情はその程度の物だったんだね……。
「私は皇太子様にご寵愛を受けてからの一ヶ月、人生最高の幸せでした。それだけは信じて下さい」
私の最後の言葉を聞いて、皇太子様はどう思ったのでしょう。
……そうだよね。もう婚約破棄されてしまったのだから関係ないよね。
でも一つだけ教えて欲しい。
「私が来た時には既に倒れていたんです」と言う説明をなぜ信じてくれなかったのだろう。言い方が悪かったのかな……。必死に言ったのに。
こんな言い方は非難されても構わないけど言いたい。倒れていたのを黙って見過ごして、さっさと帰宅していればこんな事にはならなかった。婚約破棄される事もなかった。
でもあの状況で、見過ごすなんて出来る訳がないよ。早く処置すれば、もしかしたら、男性は助かったかも知れない。そう考えるのが自然じゃない?
結果的に命は落としてしまったけどさ……。
今さっき婚約破棄宣告されて帰った来たばかりだから、部屋で泣いてもいいかな? いいよね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます