ゲーム開始前

1話 勇者と魔王

【No.1・???】

〈???〉

「ハァ…ハァ…」と俺は息を切らしていた。

手足は震え、顔や膝にはかすり傷が出来ていた。

そして何より、呼吸が落ち着いて出来ないほど疲れていた。

「ハハ…流石にな…ハァ……魔王を倒すのに…これぐらい疲れるのは……当然か…」

俺は聖剣を固い地面に突き立て、俯向うつむきながら、独り言のような事を言った。

そして、俺は再び顔を上げた。




玉座の前でひざまずいてる人間のような化け物こそが,魔王だった。

見た目は,人間と近しい見た目で,頭部には白い狼のような毛並みの髪に大きなつのが生えていて、特徴的な目はを放っており、着ている漆黒のローブは、裏世界の王に相応しいし物だった。



世間では,この魔王のことを終焉の魔王と呼ぶらしく、

この世界にいる六人の魔王…通称,の一人であった。


そして現在、この魔王城にて魔王と俺の戦闘の決着がついたである。

魔王の身体はボロボロで、色々な箇所から出血している。

とても重症で、普通の人から見れば、もう時期、死の運命が待ち受けていると予想する程だった。


「お前の…名は?」

魔王が突然、口を開いた。


「……ハハ、血を吐きながら…ハァ…最後に聞くことが…それか?」

先程までの戦闘のぶつかり合いで互いに打ち解け合ったのだろうか…

俺たちは戦う前の折り合いが悪い会話から好敵手こうてきしゅのような親しげな会話をしていた。


重たい鎧を着なおしながら,俺はゆっくり魔王の方へと近づく。

「ハハハ…もう我には…時間が無いのだ…最後に…お前のを聞きたい…」

「もう…1度…言う…お前の名は…?」

俺が魔王の目の間に来ると,魔王は真剣な目つきで再び訴えかけた。

この死にかけの状態で、俺の本当の名前を聞いてくる理由は分からない…

しかし,そこまでにして重要なのだろうと俺は思い、

その問いに…


「俺の名は、 だ!」

俺は、魔王に真剣な顔で答えた。

「ハハハ…やはり…お前は………」

魔王は高笑いし、何かを確信したように言った。

「託した…このと我の使を…」

そう笑顔を俺に向けて,『バタン』と倒れた。



俺はこの瞬間,2つの事を理解した。

1つは、魔王が何かを背負っていたことだ。

今考えてみてみれば,魔王の行動はおかしな点が沢山あった。

俺たちの国に戦争を仕掛ける際,降伏を俺たちに求め,平和的な解決をしようとした行動や俺が魔王と戦う前に俺に対して慈悲を与えたりする言動に…


もう1つが魔王を倒した事で,別の意味でこの世界に平和が訪れたことだ。

俺のは正しかったのだろうか?

この魔王は本当の悪者だったのだろうか?

魔王を倒して,本当に良かったのだろう?

魔王の亡骸を見ながら,俺は心の中で少しばかりの罪悪感を感じていた。


そして,この出来事がキッカケで…

後に世界は崩壊の危機を迎える事になる。

これは,俺の…として始まりの物語である事を、

この時の俺は,知るよしもなかったのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



【No.15・地球】

〈2027年6月3日木曜日午後6時00分〉

『シュッポーーーーー!!』と汽笛が海の上で鳴った。

そこにあったのは重厚な黒金こっきんを纏った,四両編成の蒸気機関車の姿があった。

この蒸気機関車の名前は水上列車と言い、世界の海を股に掛ける機関車だ。

そして車内には、ただ一人、黒髪の青年が乗車していた。


青年は、前髪で右目を隠しており、

服装は、この世界では有名な戦闘に特化した魔法学校の制服だった。

制服の右腰には手持ちサイズの杖が付いており、左腰には長剣がぶら下がっていた。

青年の横には大きなバックが置いていて、たくさんの荷物が入っているようだった。


すると,『まもなく~レーグ,レーグです。お出口は左側です。』と車内にアナウンスが響き渡った。

そして列車は,の駅に到着した。


『シューーーーーーーッ!』とうねりながら,列車は駅に止まった。

レーグという名の駅は普段、柱や床、天井に至るまで白く,神殿のような駅だが、

この時間は夕暮れ時であった為、真っ白な駅が夕日の差し込む光によって一面オレンジ色になっていた。


扉が開き、黒髪の青年が降りてきた。

大きなバックを掛け、夕日を見ながら、ゆっくりと階段の方へ歩いていく。

青年は外に出て、駅の近くにある海が見える海岸沿いの道を歩いていた。

海も夕焼けにより、オレンジ色になっていて、とても綺麗だった。


青年が少し歩いたところで、制服のポケットから何が震えた。

その正体はスマートフォンだった。

スマートフォンを取り出し、電源をつけると、電話がきていた。

青年は、応答ボタンを押し、電話に出た。







。」と数分ほど電話をした青年はそう言い、電話を切った。

電話を終えた青年の特徴的な紫色の左目は、大きな決意を抱いた目になっていた。

青年はイヤホンを取り出し、音楽を聴きながら再びその道を歩き出したのであった。

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