第46話 石化を解いた結果
「さぁ、ライトグレー達、石化を解いてくれるかな?」
その僕の言葉に体を震わせると家族で散らばって縦横無尽に動き出した。最初は変化がなかったが、だんだんと肌の色が戻っていく。
十分もすると、元の患者さんの状態へと戻った。
脈を確認する。
少し震える手を手首へと置く。
心を落ち着けるように目を瞑って脈を感じる。
──トクンットクンッ
脈が動いているのが確認できた。
あとは、この薬が効けば目を覚ますはずだ。
口を開けると少し上を向かせて誤飲しない様に植物からとれた管を喉へと入れていき、薬を流し込んでいく。
この薬は流し込んだ方がいいかもしれない。
一口舐めてみたが、この世の物とは思えないくらい苦くて飲めたものではなかった。
「はぁい。薬をいれますよー」
声を掛けながら薬を流し込んでいく。
管を使ったのが功を奏したのだそう。
コクッコクッと飲み込んでいるようだ。
お腹の辺りに見えていた魔方陣はいまだ健在である。
自分の高鳴っている心臓のうるさい音を煩わしく思いながらも、観察する。
少し魔方陣が薄くなってきた気がする。
「先生! 薄くなってます!」
「やりましたねぇ。ヤブせんせー」
ユキノさんとメルさんが声を上げる。
僕も凄く嬉しい。
でも、この奥さんが目を覚まさないと僕は安心できない。
瞼が少し動いたかと思うと目を見開いた。
「んっ……だれ?」
「旦那さん! 目を覚ましました! 魔方陣も消えています!」
僕はベッドの脇から飛びのくと、旦那さんを前へ差し出す。
「サユリさん! よかった! うぅぅぅ。本当に良かったよぉぉぉ」
旦那さんは顔をベッドへと埋めて泣き出した。
僕も、体から力が抜けていくのを感じた。
なんとか仮説が立証された。
やっぱり、石化は時間を止めることができる。
それが、立証された。
実験していたわけではないけど、本当に良かった。
「旦那さん。よかったですねぇ」
僕もホッとして旦那さんの肩を抱いた。
「ヤブ先生のおかげです。本当にありがとうございました!」
深々と頭を下げる旦那さん。
今のうちに聞いた方がいいんじゃないかと思ったので、旦那さんへと促してみる。
「旦那さん、せっかくです。こういう時にしか聞けないでしょう。質問したらどうですか?」
旦那さんは目を見開いてハッとしたようにサユリさんへと向き直る。
「サユリさん、聞きたいことがあるんだ。俺と結婚して一年になるけど、一体俺のどこがいいの? Dランク冒険者で強くないし、金も稼げてない。そして、何より俺よりいい男は無数にいる」
サユリさんはやみ上がりで疲労感を隠しきれていなかったが、少し微笑んだ。
「ふふふっ。強くなくたって、お金がなくたって、他の人にはない物がリョーにはあるんだよ?」
「えっ? それって?」
「私がまだ受付嬢をしていたとき。いろんな冒険者に言い寄られて嫌気がさしていたの。もちろん、リョーからも告白されていたしね。そんなときだった。街でリョーを見かけた」
「街で? それが?」
「うん。その時ね、おじさんに子供がぶつかってアイスをつけちゃってたの」
「あぁー。なんかそんなことあったかも」
リョーさんは顎に手を当てながら、昔のことを思い出しているように上を見上げている。
「その時ね、そのおじさん、物凄く子供を怒ったの。そしたら、リョー、なんていったと思う?」
「えぇっと。覚えてないや」
「そのときね。『あなたも前を見ていなかったから避けられなかったのでしょう。だから、お互い様です。ごめんなさい。これで終わり、いいですね?』っておじさんに言ったの」
「そうだっけ?」
「そう。そしたら、おじさんは顔を真っ赤にして怒ったんだけど、リョーが説き伏せたの。そして、私はその後のことが心に残っているの」
「もう全然覚えてないよ」
リョーさんは笑みを浮かべながら頭をかいている。
本当にその時何をしたか覚えていないようだ。
「覚えていないということは、普段から意識せずにそういうことができる人だと思うの。その時、リョーは子供にアイスを買い直してあげたの」
「ふーん。それが、どうしたの?」
「ふふふっ。普通の冒険者はそこまでしないわ。揉めてても見て見ぬふりか、おじさんに大人げないと怒鳴って終わりとかね。実際にそういうところを見たことがあるし。リョーのその優しいところに、私は惚れたんだ」
「そんなことでいいの?」
「うん。私は、そういう優しさのある人が好きなの。粗暴で単細胞の冒険者は嫌い」
サユリさんは自分の好みがはっきりしているし、意見もはっきりいう人のようだ。
「そっか。じゃあ、俺は今のままでいいのかな?」
「そうよ。変わったら嫌いになるかもよ?」
「それは困るなぁ」
二人からピンク色の空気が出ている。
本当に助けることができて良かった。
二人の邪魔をしない様に、静かに家を後にした。
「先生、機転を利かせて助かってよかったですね?」
「あぁぁ。全身の力が抜けそうだよぉ。今にも座り込みそうだ。だけど、動けなくなりそうだから家まで頑張って帰ろう」
ユキノさんの言葉に、ドッと力が抜けてきた。
「ヤブ先生は、神様みたいな人ですぅ。エターリプピアーに刺された人は、死の宣告をされたのと同じ意味をもっていたんですぅ。それを、先生は覆しましたぁ」
メルさんがベタ褒めしてくれる。
照れながらもその言葉を受け入れた。
「ありがとう。みんなのおかげだよ。さぁ。帰ってゆっくり休もう!」
見上げた空は、綺麗なオレンジの夕焼け。
僕たちの心を温かく灯してくれる。
人の命って尊いね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます