第3話 最先端医療?

 街へと入って僕の目に映ったのは、とても香ばしくて良い匂いを発しているお肉。

 あまじょっぱいような匂いを放っている巻物。春巻きの皮の様なもので巻かれていた。


 うわぁぁ。美味しそう。僕は腹ペコだよぉ。

 肝心の僕の好きなラーメンがないねぇ。

 この世界にはないのかもしれないなぁ。


 そして、重大なことに気が付いた。


 この世界のお金ないじゃん。

 他の人が出しているお金を確認すると銅のお金を出している。


 十円じゃダメかな?

 試しに出してみようかな?


「あのぉ。このお金って使えます?」


「あぁ? なんだそれはおもちゃか? ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「いやぁ。ふざけてないですよ。はい。この状況がふざけてますけどねぇ」


「あぁ!? 俺がふざけてるだとぉ!?」


 拳を振り上げる店の店主。

 それを手で制して平謝りし、その場を後にした。

 いらないことを言ってしまった。


 金がないぞ。

 どうする?


「おい! 兵士が倒れているぞ! 治癒士は!?」


 なにやら鎧を着た兵士が倒れている。

 そこへ人だかりができていた。


「治癒士よんでどうにかなるのか?」


「けどよぉ。呼んでみないとコイツ死んじまうぞ?」


 そういわれたおっちゃんはどこかへ人を呼びに行った。遠目から見ると腕を刃物か何かで切られた切創のようだ。


 顔色が悪い。血を流し過ぎている。間に合うか微妙だ。

 おっちゃんと一緒に軽装の女性がやってきた。


「大丈夫ですか!?」


 その患者は話すこともできずにぐったりしている。このままではまずい。僕は近づいて行ったのだが。次の瞬間、目を疑う場面を見る。


「彼のものの傷を治せ! ヒール!」


 手から桃色の光を放ち、その兵士の傷口へ押し当てる。少し顔色が良くなった。


 えぇっ!? なにあれ!? 魔法!?

 魔法が使える世界なのか?

 それなら医者など無用だろう。


「ほらなぁ。やっぱり治らねぇ」


 おっちゃんは呆れた様にいう。その呼ばれた女性も困ったようにため息を吐いた。その顔に見覚えがある。


 近づいていき、よく顔を見ると息をのんだ。


 なんでここにいる?

 手術ミスで死んでしまったはず。

 この世界では生きているのか?


 そこにいた女性は、僕の過去の患者さんに瓜二つだった。

 その人は僕のミスで死なせてしまった女性。

 困っている顔も似ている。


 その女性は怪訝な顔をこちらに視線を送った。


「あっ。あまりにも美しかったので……。冗談です。すみません。この患者さん、僕が治療してもいいですか?」


「はぁ。見ての通り、私の回復魔法でも聞きません。みんなそうです。回復魔法に依存してしまった結果、魔法の効果が無くなってしまったんです。効果があるのは子供の間だけです」


 魔法に対する耐性ができてしまったのかもしれない。薬でも、ずっと同じ薬を使っていると効果が薄れてくるという現象はある。


 兵士の横に座りこむ。

 

「少し痛いですけど、傷口を塞ぎますねぇ」


「どうする気ですか!?」


「見ていてくださいっ!」


 キメ顔をしてみる。

 すごく白い目で見られた。ふざけている場合じゃないんだって。


「ムーラン、糸出して?」


 クルリと後ろを向くとお尻から糸を吐き出した。

 それを掴むと何かあった時のためにと持っていた植物の牙。

 実は根っこから抜いてきて持ってきていたのだ。


 牙をもぐと糸を付ける。


「お酒持っている人いますか?」


 通行人が一人、瓶を差し出してくれた。お礼を言うと蓋を取り、傷口にぶっかける。


「なにしてるんですか!?」


「消毒です。黙って見ていて下さい」


 状況は予断を許さない。


「はぁーい。ちょっと痛いですよぉ」


 傷口をチクチクと縫合していく。

 その兵士は項垂れながらうめき声をあげている。


 痛いもんね。わかるよ。僕も痛かった。

 麻酔の代わりになるものがあればいいね。

 なんとか縫い終わると最後に自分のもう片方の袖を破き、傷口を拭いてあげた。


 泥まみれよりは清潔だろう。

 処置を終えると少しその場で寝かせる。

 血は止まっているし、大丈夫だと思うけど。


 空の太陽はオレンジ色に変わり、このままいくと、地球と同じように暗くなるのだろうなと感じさせる頃。

 

 兵士の目がピクリッと動いた。

 

「ん? 俺は……はっ! 伝令! っつう!」


「安静にしていた方がいいですよ? 血を多く流し過ぎです。もう少しで命を落とす所でしたよ?」


「すまんな。感謝する。謝礼はどのくらいかな? 回復魔法は一万ゴールドだったかな?」


「謝礼?」


「治癒士だろう? 助けてもらったんだ。いつも金を要求するだろう?」


 それはそうなのかもしれないが、けが人に金を要求する。

 いつもそれは心が痛い。


「僕はヤブ治癒士でね。回復魔法は使っていないんですよ。代わりにそこをこの子の糸で縫っています。だから、二千ゴールドでいいですよ。それでもありがたい。あっ。皮膚が再生したら糸を抜きましょうねぇ」


「そんなんでいいのか!?」


「魔法を使っていないんですから」


「それこそ最先端医療ではないか! 今のご時世、回復魔法なんぞなんのあてにもならん! それなのに金ばかりとる! 腐っている!」


 その訴えはごもっともなんだろう。

 ただ、僕に言われてもねぇ。


「あぁ。そうですよねぇ。お礼をもらえますか? お腹すいちゃって……」


「そうだったな。これでいいかな?」


 二つの銀の硬貨を貰った。これが一つ千ゴールドか。


「ありがとうございます。では……」


 これでご飯を食べよう。

 足早にその場を後に──。


「──おまちください!」


 お腹空いてるんだけど、あの子に似ている人だ。聞いてあげようか。


「あなたのお力が必要です!」


「いやー僕なんてヤブだからねぇ。なんにもできませんよぉ」


「私もお手伝いします! その最先端医療で、人を救いましょう! もう役立たずなんて言われたくない!」


 その女性の目はメラメラと燃えていた。

 これは断れないな。

 そもそも断るつもりなかったけど。


「いいですよ。僕は、いけ…………ヤブとでも呼んでください」


「私はユキノです。ヤブ先生! よろしくお願いします!」


 急展開だなぁ。人を救うって、どうするの?

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