チート工具で異世界まったり温泉街作り

新原

第1話 新しい世界

 俺の名前は吉宗よしむね温和おんわ

 御年31歳。

 そしてそれは享年でもあるらしい。


「え、俺死んだんですか?」

「はい、ご臨終です」


 なんか知らんけど真っ白い空間で自称神様と対面中。

 光の球だ。

 俺自身は姿がない。

 意識だけある。


「過労死ですね」

「……そうっすか」


 まぁ納得。

 思い返せば新卒時からブラック&ブラック。

 残業で終電帰りは当たり前。

 会社で寝泊まりするのも珍しくなかった。


 だもんで、清潔感なんて皆無。

 女子に非モテ。

 さっさと転職した元同期は結婚したりしてたっけ。

 俺もさっさと辞めりゃ良かったのに。

 給料だけは良かったから辞めるに辞められなかった。

 でも死んだら元も子もない。


「俺、どうなるんですか?」

「どうしたいですか?」


 逆に問われた。


「我々神は死人に必ず訊いています。まだ生きたいのかどうかを」

「生きたいって言ったら……まだ生きれるんですか?」

「はい。違う世界で身体を再構成します。別の世界でなら生存権を行使出来ますので」


 なんだかすごいことを言われている。


「どうしますか?」

「えっと……再構成っていうのは、31歳の身体でですか?」

「お望みがあれば3つまで受け付けます」

「3つ……」


 ドラゴンボールみたい。


「……じゃあ、ハタチの身体でお願いします。その頃が一番、調子良かったので」

「分かりました。他には?」

「永遠に健康的な身体、って出来ます?」

「可能です」

「じゃあそれも」

「分かりました。最後のひとつはどうしますか?」

「望みっていうのは、身体関係だけですか?」

「いいえ、私の叶えられる範囲であれば身体とは何も関係なくとも叶えられます」


 あ、そうなのか。


「じゃあ待ってください……ハタチの身体と永遠に健康的な身体は願いを統合出来ますか?」

「可能です。それなら残りの願いはふたつとなります」


 よし。


「じゃあ……俺を再構成する場所はあまり人の居ない温泉の湧いてる土地にしてください」

「温泉が好きなんですか?」

「行きたかったんです、そういう土地に」


 ブラック勤めの俺はついぞリフレッシュの機会を得られなかった。

 だからどうせならそういう土地で好きなように暮らしてみたい。


「分かりました。でしたらその手の土地にあなたを再構成します。最後の願いは?」

「最後は……その手の土地に行っても暮らすのに困難だったりしたら意味がないので、何かこう……」

「でしたら、こういったモノはどうでしょう?」


 ぽわん、と。

 折り畳まれたナイフみたいなモノが出現した。


「これは……?」

「『十徳工具』です」


 ナイフが形態変化してノコギリになったり、つるはしになったりしている。


「十徳工具はあなたが思い描く工具に変化して使うことが出来ます。絶大な効果を保証します。欲するなら願いの消費と引き換えに差し上げますけど、どうなさいますか?」

「ほ、欲しいです」

「では差し上げます。これにて願いを3つ、消費しましたね」


 そんな言葉のあと、真っ白い空間が消えた。

 代わりに現れたのは、森。

 四方八方が樹木。

 うお、なんだここ。


 そして気付けば、俺の身体が出現している。

 右手に十徳工具。

 試しに足踏みして、ぴょんと跳ねてみると、身体が軽い。

 若かりし肉体だ。ハタチ万歳。


「この森をこのまま直進すると、温泉の湧く土地があります。十徳工具を用いて好きなように暮らしてみてください」

「あ、はい……ありがとうございました」

「いえいえ。今度は素敵な人生を送れることを祈っております」


 そう言って神様を自称する光球が消え去ってしまう。


 ……よし、やったるか。


 そんな風に気合いを入れて、俺は森を直進し始めた。

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