~現行人(げんこうにん)―Current person―~(『夢時代』より)

天川裕司

~現行人(げんこうにん)―Current person―~(『夢時代』より)

~現行人(げんこうにん)―Current person―~

 望郷(さと)の〝旧巣(ふるす)〟が俺の脳裏に活性して活き、独走(はし)る意気にて凝(こご)る間の無い渡期(とき)の初頭(かしら)がそっと目に付き、俺の心身(からだ)は母性(はは)の神秘(ふしぎ)を見上げる儘にて、卒倒して行く哀れの小人(こびと)を幻想(ゆめ)の許容(うち)へと葬り始めた………。

      *

 母親と家族総出で帰郷した事が一度だけ在り、その際は車で帰った。夢では、少し誘うと母親から帰る旨を言い出し、父親、俺と共に帰ってくれて、何とその時は、車と船と、何故(なぜ)か飛行機も使って帰って居た。

      *

 身分の〝総出〟が陽(よう)の掠めた大気の内(なか)から空気(しとね)に巻かれてぶんぶん成り立ち、俺の思惑(こころ)は紫陽(しよう)を射止める小さな掌(て)でさえ母性(はは)の身元を一切手繰れず、要(よう)を成せない感覚(いしき)の理知(はどめ)が感無(オルガ)を跳(と)ばして滑性(かっせい)を得た。父の姿勢(すがた)が旧巣(ふるす)を乖離(はな)れて臨場から成り、明日(あす)の行方を家族で追うのに現行(いま)を愛せる抑揚さえ付け、時代錯誤の可弱(かよわ)き未知(さき)から無言を彩り両翼(はね)の生えるを感覚(いしき)から観た無想(ゆめ)の集合(シグマ)は自体(おのれ)を取り付け直ぐさま見誤(あやま)り、俺の一(いち)から皆の立場(いち)迄、陰(かげ)へ踏み込む暗い意識台(だい)にて転倒しながら脆(よわ)い眼(め)をした感覚(いしき)の理性(はどめ)は苦労を掌(て)にして遊興(ゆうきょう)へと向く…。人間(ひと)の影響(ひびき)が向こうの夢岸(きし)からそうっと表れ、奇妙な視(め)をした孤独の限りは空間(すきま)を絆せる糸列(しれつ)を這われて、ピリオドさえ無い現代人(ひと)の欲する我欲(よく)の果てには俗世(このよ)の流行(ながれ)に何より向かえる名誉のBrand(どうぐ)が背反(せせ)ら笑った。名誉の為にと気狂い様(ざま)にて労苦を惜しまぬ現代人(ひと)の無様が宙(そら)へ抛られ、暗い夜路(よみち)もてくてく競歩(ある)ける恰好(かたち)を成せない現代人(げんだいじん)には肢体(からだ)の防備が一切成らない無想(ゆめ)の独気(オーラ)がその身を呈して、愛すべき者・憎む者さえ俗世(このよ)の独気(オーラ)にほとほと酔わされ、人間(ひと)の孤独は現代人(ひと)の経験(えき)から生気を得るのに、孤独の〝透り〟を一切成らさぬ強靭(つよ)い大器の成就を識(し)った。旧い夢には旧い角(かど)から、斬新(あらた)な無想(ゆめ)には斬新(あらた)な角(かど)から、一新吹き込む微妙の涼風(かぜ)には季節の化(か)わりへそうっと飛び込む現行(いま)の気色が順々仕上がり、無垢の脚色(いろ)した未知(みち)の周辺(あたり)は故意の空気(しとね)へ一顔(かお)を覗かす紫陽(しよう)に豊穣(ゆたか)な一閃を保(も)ち、呼吸の似合わぬ静かな物(オブジェ)は未知の空知(あきち)をそうっと独歩(ある)ける非常に豊穣(ゆたか)な空虚を見破り、現代人(ひと)の愚図(おろか)を遠目に嘲笑(わら)える三身(さんしん)豊穣(ゆたか)な基盤を保(も)った。文句(ことば)の過渡(うねり)が紫陽(しよう)を毛嫌い俺に埋(うず)もれ、果(さ)きの見得ない青春(はる)の息吹を回想して居た。回想しながら不足を想わす思春(はる)の気取りに自我の郷里が底儚く燃え、霧立ち昇れる有機の虚無には寸とも滅気(めげ)ずの強靭差(きょうじんさ)が在る。俗世(このよ)の女性(おんな)が「女性(おんな)」を忘れて素肌を脱ぎ捨て、俗世(このよ)の男性(おとこ)が無体(からだ)を追い駆け劣等へと就き、歯牙(しが)無い〝気取り〟を明日(あす)へ埋(うず)める未覚(みかく)の教習(ドグマ)を皆殺しにする。ついと待てない俗世(このよ)を乖離(はな)れる幻想(ゆめ)の欲には、人間(ひと)が持ち寄る本能(ちから)の列(ならび)が興味を揺らさず、恋しい瞬間(とき)への無機の流行(ながれ)を好く好く目にして退屈して居る。

(語りが代わる…)

 朝起きたら先ずする事が在る。母の機嫌を取って、その日一日を優雅に過すべく、自分の着物をきちんと片付け、外へ出るのに張羅を替える。父の容姿(すがた)は容易く見得ない。何処(どこ)か薄く寂れた宙(ちゅう)の身許に暮らせる様(よう)で、又時々出て来て「顔」を呉れる。与えられたその一日をどの様(よう)に過すのかは俺にも誰にも一切識(し)れない美尊(びそん)の彼方に置き去られている。この所、懇意にして居た年増の女性(おんな)が、愈々その本性を剥き出しにして、俺の肩から益を盗み奪(と)るべく、俺の背後で狡く成った。何でも、自分の思い通りに成らぬと発狂するほど得(とく)へ老い付く…、そんな質(たち)をこの女性(おんな)は得て居た様(よう)だ。故に俺は遂にこの女性(おんな)を嫌い、父が居る場所よりも更に遠い、土中(どちゅう)の宙(そら)へと放(ほう)って遣った。全く統合失調症とは思い遣られる…。俺の周囲(まわり)へ来る老若男女は何時(いつ)も決って俺を悩ます試算を身に付け、透った硝子に自分の躰を大きく観(み)せ得て、何も無いかの素振(そぶ)りを空(くう)に紛らせ実行して来る。曇天(くも)った日にでも見事な活歩(かつほ)は俺の眩みを誘(いざな)い乍らに、乳白(しろ)い四肢(てあし)を自在に拡げて、出し惜しみをせぬ粋活(いか)した体裁(すがた)で協歩(きょうほ)を講じる。「困ったものだ…」と試算の豊かな口火が問うても、全く咲かない俗世(ぞくせ)の華さえ遊びに出て居り、汗を搔かない異国の信徒は見る見る解(ほど)けて苦言を吐(は)いた。

独白体どくはくたいにて…)

 「明日(あした)は何曜日かなぁ?いつも行ってる本屋は開(あ)いているのかなぁ?明日(あした)、行ってみよ。きっと、みーちゃんかアキナちゃんも来て居る筈だ。あの、あんな嫌なD子(おんな)より数段優れた女子(おんな)がきっとあそこに待ってる筈だ…!あのD子(でぃーこ)ときたら、容姿は全く腐れたような小母ちゃんであり、器量については輪郭(かお)の丸味(まるみ)が〝売り処〟であり、年増の体臭(かおり)は過度を通して悪臭漂う密室(へや)を想わす誠に豊穣(ゆたか)な腐乱に漂う。色気も何もあったもんじゃない。煙突掃除していて落ちた子の方がまだましだ。悪いのはD子(あいつ)の方さ。俺の車を自分の家まで導き出して、電話料金だって何時(いつ)も俺持ち。夢を語りながらも理産(りさん)の並びをちゃんと観て居り、損得のみに思惑(こころ)を費やす。あの女性(おんな)とよくも夢など語れたものだ。遠い視(め)をして大海(たいかい)を観て、空(くう)を切らせる理知(はどめ)の芳香(かおり)は、彼女(あいつ)の奥歯に詰った残渣(もの)より一層臭くて始末に負えない。〝ああいう手相(てあい)は避けるべきだ…〟と、俗世(このよ)を活き抜きピラトを恋する思慕の恋慕は宣い続ける…。」

      (告白体…)

 憂きに耐えぬは涙の恥だと、奇妙に絶する自己(おのれ)の両刃(もろは)は吟(ぎん)を講じて安きを得て居る。「俺の妖精(おんな)は何処(どこ)に居るのか…?」、夢想を蹴散らす幻(ゆめ)の空(すき)から情(じょう)に伴う進化が訪れ、意味も無いのに落胆して行く合せ鏡の美園(みその)の虚構(うち)から、凛々(りんりん)煌(かがや)く地中の星まで独歩を速めて一足跳びだ…。〝奇妙〟を遺棄して、俺の人影(かげ)から上がれる連想(ドラマ)は視線を興じて悶絶しながら、D子(あいつ)の不様な姿勢(すがた)の陰(かげ)から、個人(ひと)の狡さを益々強靭(つよ)める厄日の紳士を謳歌していた。

      (悶絶体もんぜつたい

 紙業の広さは過去の栄華にほとぼり冷まされ、悪意に満ち行く私闘の狭間を憂きに鎮めて傍観しながら、俗世(このよ)の神秘が通(とお)って行くのを、小躍(こおど)りしてから冷たく見送る。

「あのD子(おんな)に、一寸本音を言ってやったら、途端にそれ迄していたメールを取り止め、貝の体裁(かたち)に小さく纏まり、微動だにせず弾黙(だんま)り決め込む一女(おんな)の悪鎖(わるさ)を露呈して来た。事始(こと)の連鎖は休みを相(あい)せず連鎖を呼び付け、自己(じこ)の〝谷間〟にその身を押すのを終(つい)とも止(や)めずに嘲笑して居る。D子(あいつ)は息子を産み付け暗(やみ)に還って、思春の一度に栄華を乞いつつ息子の育児を放棄して居り、空回りの在る殊勝を見せ付け、俺の目前(まえ)では〝猫被(ねこかぶ)り〟をして毅然に落ち着く。後(あと)から静々冷たい調子に身柄を預けて一女(かのじょ)の身辺(あたり)を反省すれば、D子(やつ)の仕種は滑稽でもあり、育児放棄に端を発した〝足りない気取り〟が身悶えして在る…。あんな一女(おんな)とよく居たものだ。俺の空胴(からだ)は伽藍を欲して宙(そら)へ上がって、一女(おんな)の前方(まえ)では二度と燃えない二履(にば)きの生気(オーラ)を発散して居た。D子(あいつ)の人影(かげ)では俗世(このよ)の両眼(まなこ)が散行(さんこう)して居り、悪意を放てる幻覚(ゆめ)の勝手が大手を振り抜き独歩を呈して、憐れな一夜(いちや)を『自然(しぜん)』と対せる夜魔(よま)の寝言に悶絶しながら、苦労の水面(みなも)を借金(かね)に任せる稚拙な遊具を割愛して居る―――。一女(こいつ)の前方(まえ)では二度と咲かない懇意の成就が独気(オーラ)を奪(と)らない―――」。

      *

 よく帰れたなぁ、母親が…(船はともかくよく飛行機に車椅子のまま乗り込んで帰れたなぁ…)なんて思っていた。その気になったら母親は底力が湧き、大抵の事が出来るらしい。で、そうして帰郷した事を、俺は、夢の内で、我慢していたトイレにやっと行けながら、出て来て、自宅の洗面所の鏡の前で薄ら明る過ぎて殆ど見辛い自分を観ながら回想して居た。俺は眼鏡を掛けて居なかったからか、昼の光(陽光)が強過ぎたからか、明る過ぎる景色の中に自分やトイレや周囲が在るのしか見得なかった。鏡を見ながら俺はわくわくして、気が狂いそうなほど素晴らしく輝かしい母親と父親と俺の三人の「田舎に帰った記憶」を回想して居た。もう一度、来て欲しい、と思った。船での帰郷を思い返した時は、昔、よく車用のタラップを夜に上って行ったが、あれを雨の(曇りの)昼間に上って帰った出来事(こと)に映し換えて思い出していた。

      *

 家族の空間(すきま)に情(こころ)を睨(ね)め付け、明日(あす)の酸化を促す〝奥手〟は俺の嗣業(しごと)に拍車を焚き付け、五月蠅(あわ)い俗世(このよ)を根絶して往く夢想を吐(つ)いた。千切れ千切れに孤高の旧巣(ふるす)を醸成しながら、俺の情(こころ)にぽろんと安まる味覚の迷路は後光(ひかり)を着せ替え、云とも寸とも詭弁(ごたく)の載らない〝合せ鏡〟の陽光(ひかり)の前方(まえ)では未熟に照輝(てか)らす魔鏡(まきょう)の微歪(ゆがみ)が岐路を差し替え沈黙に就き、固陋を掌(て)にする少年(こども)の体温(ぬくみ)を欲する上では、俺の情(こころ)に陽光(ひかり)の差し込む無駄な気迫は要さなかった。幾度も幾度も過去の〝古巣〟に自分を従え、虚無を取り巻く神秘(ふしぎ)の成りには両親(おや)の旧態(すがた)が真向きに仰け反り、朝な夕なにひょこんと突き出る初春(はる)の果(さ)きでは、夢想(ゆめ)の完就(かんじゅ)が見事に透れる〝向き〟の緩みに清(すが)しさ等在る。暗(やみ)の空間(すきま)に足りない一女(おんな)がちょこんと出で立ち、その実(み)の渇きに男性(おとこ)の益(えき)など欲しがり始めて、ぽつんと置かれた立場の翻(かえ)りに鈍い疼痛(いたみ)を満腔(ちつ)に観た後(のち)、女性(おんな)の上手(じょうず)を小手に持ち替え萎(しな)びた権力(ちから)に張形(かたち)を牛耳る…。俗世(このよ)の無機から熱く上がれる現代人(ひと)の古巣に、自己(おのれ)の四肢(てあし)を一切休めぬ生気の狂宴(うたげ)を換算した後(のち)、古い夜主(やぬし)は男性(おとこ)っを従えくるりと直り、一女(おんな)の満腔(からだ)に一矢を鈍らす緑(ろく)の照輝(てか)りを充分敷いた。一女(おんな)の理性(はどめ)は男性(おとこ)には無く、陽光(ひかり)を囀る無想(ゆめ)の集体(シグマ)に散行(さんこう)して在り、自己(じこ)を見下(みおろ)す微温(ぬる)い火照りに気を付け直して、「明日(あす)の酸化…」を私欲(よく)へ侍らす狡猾至極の厚味(あつみ)を保(も)った。

 一女(おんな)の無想(ゆめ)には一切咲かない華やかさが在り、俺の孤独を遮る一光(ひかり)は虚空(そら)へ紛れて散布され往き、過去を識(し)らない明日(あす)の理郷(さと)には俺の根暗が充分羽ばたき、男性(おとこ)と女性(おんな)の至難の白壁(かべ)から無言を透して熱狂した後(のち)、旧い緞子の物陰内(ものかげうち)から幻想(ゆめ)に纏わる生気が寝転び、安(やす)む間の無い迂闊な初出(いろは)は俗世(このよ)の恫喝(こえ)から正義を保(も)たされ明日(あす)の火鉢に夢見る火の粉を日々の送りに交換して居た。明日(あす)の歪みは明日の歪みで、端正(きれい)に恋する乙女の姿勢(すがた)は側瀬(このよ)に在らずに、夢天(てん)を切り裂く怒涛の果(さ)きにて、一閃(ひとつ)を被(こうむ)る契りに活きた…。…。

      *

 俺はその鏡の前に立つ為に、恐らく二階の自分の部屋から、トイレへ行きたくて昼寝から覚めて下(お)りて来て居たらしいが、家の中が何か軋み、自分の近くに何かが居るのでは?なんて思わされ怖くなりながら、それでも恐怖感を払おうと意気込みながら、階段を下(お)り、ベランダに出たり、トイレに入ったりして居た。父親が庭木の手入れか何かして居たらしいのを感じ、その為の〝音〟が自分の周りでしていたのか…、なんても思わされていた。

      *

 不本意なれども中途に終らす俗世(このよ)の夢想(ゆめ)から端正(きれい)に纏まる矮小(ちいさ)な体裁(かたち)を俺の孤独は恰幅に付け、明日(あす)の憂慮が段々遠退く久しい外気に柔軟を観て、俺の寝室(ねむろ)に充分煌(かが)やく憂慮の体裁(すがた)は、野菊に優れる孤高の脚色(かざり)をその実(み)に観て居た。

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 雷が鳴る…。神二成(かみなり)が居る…。雷が在る…。神二成(かみなり)が在る…。

      *

 録音テープの煤けた箇所には昔に聞えた生声(なまごえ)が在り、外室(そと)の空間(すきま)に列(なら)んだ現代人(ひと)にはその頭上(うえ)から鳴る雷が在り、豪雨(あめ)に轟く稲妻(でんき)の果(さ)きには小さく凝(こご)れる泥水が在る。俺の心身(からだ)は泥水から避(よ)け、肢体(からだ)を濡らさぬ黒傘(かさ)の代わりに現代人(ひと)の〝傘下〟が端正(きれい)に敷かれて、或いは目に付く泥の脚色いろ)から無言が飛び出す朗(あか)る味(み)さえ発(た)ち、俺の心身(からだ)と思惑(こころ)と冴えとを、現行人(ひと)の振り観て模造して行く宙(そら)の陽気が仄かに発(た)った。

 加減を知らない日々の憐れが俺の身欲(よく)から湧き出て来る頃、通り縋りの紫陽歌(アンソロジー)には人影(かげ)を突き出す無暗が飛び交い、無言の身形(かたち)に言葉が尽き得る正味(あじ)の歩先(ほさき)を上手に採った。悪魔の蔓延る俗世(このよ)の暗黙(だまり)に現代人(ひと)の初歩(いろは)は活き活き小踏(おど)り、明日(あす)の用途に本能(ちから)を手向ける煩悩(つみ)の感覚(いしき)にその実(み)を当て据え、自己(じこ)の識別(いしき)を確認しながら陽(よう)を押すのに尽力して居り、神の側(がわ)から亡命して生(ゆ)く罪人(ひと)の哀れを大きく振った。神の側(がわ)から真向きに離れて自分を愉しむ〝途方〟の温床(ねどこ)を遂に識(し)らない身軽の態(てい)した現行人(ひと)の主観(あるじ)は、昨日の確かに一向傾く見える主流(あるじ)を大目に採り添え、何時(いつ)か孤独に身悶えして逝く人間(ひと)の狡さを盾にしながら、どんより曇れる牧(まき)の旧さにその身を預けて、小さく保(たも)てる律儀の隅には大きく仕立てる保身が活き抜く。孤独の目下(した)には固陋が空転(ころ)がり、現代人(ひと)の配下(した)には現行人(ひと)が暗転(ころ)がり、黄泉の目下(ふもと)へ小さく赴く俗世(このよ)の公転(はこび)は、人間(ひと)の孤独へ轟く間も無く夜半(よわ)の空(すき)から脱出していた。時折り変じた孤独の許容(うち)には髑髏の形の遺体が放られ、明日(あす)を活き抜く俺の万葉(ことば)を解決した後(あと)、臨機に頼れる無機の仕種を模倣して生く。取り留め無い儘、立ち所に咲く目下(もっか)の主観(あるじ)の〝機敏〟に潜(ひそ)めく有耶(うや)の上気は、道標(みちしるべ)に立つ独創(こごと)の連呼を片耳(みみ)に好くして孤高を愉しみ、合せ鏡に後光(ひかり)の差し入(い)る無垢の温度に段々馴れ出し、初めて目にした烏有の怪奇に自己(おのれ)の回帰を描写した後(のち)、哀れに過ぎ去る寝屋の在り処は誰にも識(し)られず無法を取り次ぎ、明日(あす)の気配に繫(しげ)く跳ね得る未知の音頭に没頭して居た。

      *

 とにかく俺は、父親、母親、自分との想い出を、特に母親との想い出を、強く愛していた様(よう)だ。目覚めると、膀胱がぱんぱんで、便所に行きたい俺が居た。

 目覚めて、トイレへ行き、珈琲を作る為の湯を沸かしながら鏡の前へ行き、気持ち悪い口の中を少しでもすっきりさせる為に歯を磨こうとする最中(さなか)、〝ああ俺、夢の自分と同じ事してんなぁ…〟等と思いながら、少し恐怖心も在った様子だ。十時四十五分頃、階下へ行くと母親はテレビで相撲を観て居ながら、起きている風(ふう)だったのに、一言(ひとこと)も口を利いてくれず話し掛けてくれなかった。少し、淋しかったが、俺は気分を丈夫に持ち直し、今度は二階の書斎(畳の部屋)へ上がり、今、取り敢えずこの夢の記録の仕上げとしてこれを打って居る。階下で、珈琲を淹れる際、又俺は面白い事を心中で言った。俺にしか出来ない仕事をすんのよ(勝手に想定した母親か誰かにされた〝二階へ上がってこんな深夜に起き出して何をするん?〟と言う質問に対する返答としてこの事を言っていた)と語り、正にこれこそ仕事だ、一つ一つのアドリブ(の連続)に対して即興で俺だけが構築出来るアイディアを以て構築して行く仕事である事から、俺だけの仕事だ、と胸を張って言えると二、三度、心中で俺は頷いて居た。その際、そう呟くのが、西洋・アメリカの作家の気がして、俺は、日本よりも、西洋・アメリカの作家達に肖ろうか、等と思い始めて居た。

      *

 自分の残影(かげ)から密室(へや)に零れる狂気に連れ添い、俺の文句(ことば)は俺の目下(ふもと)で概(おお)きく成り得た未知の肴にその触手(て)を差し向け、暗い夜路(よみち)を独りで競歩(ある)ける無想(ゆめ)のsympa(シンパ)に迎合されつつ、足の〝向き〟など遠くへ縋れる孤独を得ながら、一歩退(の)きつつ、一歩退(の)きつつ、無為の人陰(かげ)からひっそり上がれる文士の未完(みじゅく)を相(あい)して在った。〝文士〟の片身(かたわ)に矮小(ちいさ)く灯れる志気が寄り添い、豪(ごう)の途(みち)へと自信を誘(いざな)う謳歌の身辺(あたり)に熟成を観て、漂白(しろ)く留(と)まれる白壁(かべ)の空間(すきま)に自体(おのれ)の主観(あるじ)を睨(ね)め付けながらに、身悶えして生く企図の繫(しげ)りは幾つに分かれて自在を執り成し、〝慌て逆鏡(かがみ)〟に未知を報せる途次の縮図を立派に保(も)った。自体(おのれ)を識(し)り得る〝文(ぶん)〟の量から人間(ひと)の小波(さざ)めく俗世(このよ)の目下(ふもと)へ如何(どう)して自己(おのれ)を解体したまま無想(むそう)に失(き)え生く、有頂(うちょう)の火元を口へ靡かせ表そうかと、俺の真横に知らずに佇む女性(おんな)の身許は減退して活き、無想(ゆめ)の空気(しとね)に巻かれる四肢(てあし)を文句(ことば)の忘郷(さと)へと巧く放(ほう)った。百足の瞳(め)をした苦労話の無益の長(ちょう)には、俺の心身(からだ)が石の体(てい)して微動だにせず、幻(ゆめ)の流行(ながれ)に〝途次〟を配(はい)せる億土(おくど)の浄化が痛切でも在り、その実(み)に翻(かえ)せぬ異国の主情(あるじ)は小声を発さず大言(たいげん)を吐き、二度戻りの無い悪(あく)の行為を叱責して居る。

 何時(いつ)の世にさえ疑似(コピー)の向かない人の世を観て、俺の背中は誰も知り得ぬ咎めを被(こうむ)り、人の世に発(た)つ悪意の道標(しるべ)は道標(みちしるべ)に無く凝(こご)りの具体(つぶさ)で、無想(ゆめ)に登場(で)て来る女性(おんな)の白衣は経過(とき)を留(と)め置く描写を履かせず、意味と意味との寝室(ねむろ)の空間(すきま)に到底名高い守備(そなえ)が在るのは、俺の背中を西日(にしび)が射し行く無想(ゆめ)の歯切(はぎ)りの落胆でもある。至当の丈夫を空気(まわた)に包(くる)めて遠くへ遣るのは不義に割けない人間(ひと)の定めが功を奏して、心に縋れる善(ぜん)の箍(たが)から異彩を放てる器量を従え、美貌の主体(あるじ)が混(こん)を静(せい)する幻(ゆめ)の記述を目の当たりとして、絆し切らない交尾の事後(あと)には、凍え切らない律儀が跳んだ。人間(ひと)の死人(しびと)が黄泉の縁(ふち)から大口(くち)を開(あ)けつつ遣って来たのは、人の未完(みじゅく)が幻想(ゆめ)に保(も)てない蜃気の果てまで独歩(ある)いた時で、黄泉の狭間と無想(ゆめ)の狭間に滑稽(おかし)な残骸(むくろ)が現行人(ひと)を得たのは、俺の躰が異国へ懐ける夢芽(むめ)の盛(さか)りが途絶えた頃だ…。

 一色(いろ)に覆われ、人間(ひと)の感覚(いしき)は不屈ながらも黄泉を怖がり、朧に咲き尽(き)る無様(むよう)の着付けは意味を目(もく)さず孤高を発し、漆黒(くろ)い列(ならび)に陳列するのは現代人(ひと)の土地へと〝経過(とき)〟を配する無味の感覚(いしき)の混沌だった。混沌(カオス)の旋律(しらべ)に〝人形ハウス〟の経過(けいか)が散ら張(ば)り、旧態(むかし)も現行(いま)でも不意に変らぬ視点を設けて、俺の視(め)に立つ〝古語〟の成体(からだ)は無機を拝して有機を欲しがり、寝室(へや)に居着くを好しとするうち安穏(ぬるみ)に着せ替え寝て生く〝盛(さか)り〟を、俺に配する内(うち)とした儘、桃色(はで)の千変(ことば)も活き活きして生く孤独の心裏(しんり)を巧く小突(つつ)いた。

 孤独の合間に塞ぎ込むのは未完(みじゅく)を灯らす童子の幻(ゆめ)にて、童子の幻(ゆめ)には排他の覚悟が存続するうち未完(みじゅく)に吃らす雌雄の流行(ながれ)の決裁を観て、紛れ込むほど粗雑に与した小庭(にわ)に配した〝打ち出の小槌〟を、吃り…、吃り…、空利(くうり)、空利…、感覚(いしき)の咲かない固い土からその実(み)を投げ出し差し出す型(かたち)で、他(ひと)へ魅せ得る概(おお)きな私宝(たから)と孤独の配下に栽培して居る。〝夢見御供(ゆめみごくう)〟の一重(ひとえ)の安堵は美味を相(あい)する無適(むてき)の片鱗(かけら)を現行人(ひと)が相(あい)する煩悩(なやみ)の進路へ大きく投げ掛け居座り続けて、俺の精神(こころ)を操り続ける無為の律儀(はどめ)は有頂(うちょう)を識(し)らずに、俗世(このよ)の脚色(いろ)から個々を彩る果(さ)きの〝傘下〟を示せて在った…。俺の前方(まえ)には鏡台(だい)が在るほか反射が溢れて、合せ鏡に自己(おのれ)の背後を揚々飽きずに見守る視(め)が在り、陽(よう)が差し込む自宅の廊下で〝煩悩(なやみ)を解(と)いては嘲笑して居る幻想(ゆめ)を食み出た浮橋(うきはし)〟が建つ。浮橋(はし)の頭上(うえ)では俗世(このよ)を食み出た坊が居座り、坊の周囲(まわり)に空気(やわら)を掬えぬ浮力(ちから)が働き、純白(しろ)い毛物(けもの)は意味を成せない不倖(ふこう)を伴い、信心豊かな孤独の両刃(やいば)は珍事(けう)を見紛う神秘に操(と)られて、足早にて逃げ、渡航の生気にその実(み)を湿らす無垢な境地は悪態さえ吐(つ)き、舌なめずりして杜撰を見紛う新緑豊穣(しんりょくゆたか)な気屯(きとん)の羽振りは、初めて視(め)にした人の豊穣(ゆたか)に悶取(もんど)り打った。怠け者から器量の片鱗(かけら)を鷲掴みにして、俺の心身(からだ)を損ねる大海(うみ)から全う豊かな気丈が仕上がり、孤高に感けて視野を曇らす彩算(さいさん)豊かな思潮の大海(うみ)には、個人(ひと)の寝室(ねむろ)がその身を侍らせ俺の〝坩堝〟へその実(み)を堕(おと)せる毒の木の実を有頂(てっぺん)にした。初めて男性(おとこ)が女性(おんな)の美味から迷い出た時、男性(おとこ)の孤独は自然(あるじ)を視(め)にして虜を気取れず、詩吟に豊穣(ゆたか)な幻想(ゆめ)への野九口(のずる)に億尾を乱さず流情(るじょう)を差し得て、旧い臨界(かぎり)に二言(こだま)を翻(かえ)せる向きの諸刃(やいば)を照覧(ながめ)て一片(ひとひら)、自分の安土(あづち)を俗世(このよ)へ差し推す見込みの微温差(ぬるさ)を味わい続ける。虚無の黒目(ひとみ)に大脚(あし)が付き添い俚諺を吐き付け、微温(びおん)の震度に弛(ゆる)みを逃(のが)さぬ魅了の具体(つぶさ)に年輪を観て、吐き違いに在る自己(おのれ)の感覚(いしき)は見得ぬ自然(あるじ)を手許に従え、行くは拝する行く手の集地(アジト)へ現行(いま)の現行人(ひと)から私事(しごと)を観た儘、俺の活路へ代わらず与(くみ)する向きの輪廻(ロンド)を講じても居た…。――。…。

 俺の躰は俗世(このよ)の常識(かたち)を空気(しとね)に見たまま果ての咲かない嗣業の開花を謳歌した後(のち)、現行(いま)を活き得る誰も識(し)れない〝向き〟の学(がく)へと昇って入(い)った。他(ひと)の視(め)を見ず、自然(あるじ)の側(そば)にて両翼(つばさ)を拡げて、孤高に活き得る二局(ふたつ)の進路は襟も正さず悪態に就き、無想(ゆめ)に見紛う薄手の修飾(かざり)は夜目(よめ)を遮る途次(みち)を宛がい、宛がう対象(おれ)には幻(ゆめ)の墓場が一つも実らぬ虚無の火照りが偶然死んだ。経過(とき)が往くのを凝視しながら俺の文句(ことば)は空気(くうき)に解(と)け出し、俗世(このよ)を活きるに何も沿わない補足の無様(ぶざま)を衒いながらも、静々(しずしず)…、沈々(しずしず)…、自分の頭上(うえ)から絶え無く降(ふ)り来(く)る無想(ゆめ)の起伏に自重を発し、意味を認(みと)めぬ経過(とき)に於いては俺の感覚(いしき)が物を言い出す。先行して逝く生(せい)に息衝く過去の温味(ぬくみ)は、俺の果(さ)きへと次第に生れた「自重」の容姿(すがた)を空気(まわた)へ拡げて、吟味(あじ)を占めない未覚(みかく)の感覚(いしき)を目前へと遣り、何時(いつ)も何時(いつ)もを何気に修飾(かざ)れる生気の正味(あじ)など求めて在った。生(せい)の〝美味〟など何も識(し)らずに果(さ)きへ阿る未覚(みかく)の順序は私闘を匿い滔々息衝く性(せい)の在り処を自己(おのれ)の体温(おんど)へそっと保(も)ち上げ、器用に遺棄する無想(ゆめ)の懶惰に参照して居た。意識の「落胆(おち)」には無用に膨らむ奇怪が在り付き、俺の過去から俄かに昇れる上気(きり)の無想(ゆめ)から弾ける無機の感無(オルガ)が非常に廃(すた)れて、翻(かえ)り手に観る黄泉の感覚(いしき)が根深(ねぶか)に潜伏(もぐ)って追悼していた。漂白(しろ)い無理から並列(まよこ)に流行(なが)れる体温(ぬくみ)の局部(かなめ)は俗世(このよ)に上がれる人間(ひと)の意識に非道(ひど)く拡がり無味を牙噛(しが)んで、初めから無い俗世(このよ)の価値へと〝不動〟を付け沿い無想(ゆめ)へ並べた。朝な夕なに文句(ことば)の経過(ながれ)は柔らに弛(たゆ)まり、孤高を意図する狡い相(あい)には無機に較べる柔軟さえ在り、俗世(このよ)の黄泉から黄色く上がれる個人(ひと)の意図へと真逆(まさか)に翻(かえ)る。何処(どこ)からともなく、夢遊の態(てい)して活きる自活(かて)には、俺の思惑(こころ)が勝手に小躍(おど)れる無為の瞬間(とき)さえ丈夫に燃え発(た)ち、意味の意味から真逆(まぎゃく)に吃れる黄泉の神秘(ふしぎ)を、唐突ながらにこの掌(て)に把(つか)める黄泉の心理(いちり)に葛藤して逝く。人間(ひと)の万葉(ことば)は俗世(このよ)の黄泉から空気(しとね)に蹴上がり、八方に暗い幻夢(ゆめ)の心理(せつり)へ自然(あるじ)の規定(おきて)を見定め始めて、俗世(このよ)の空虚に悶絶して行く孤高の白雲(くも)には益(えき)の無いうち堂々仕上がる〝合せ鏡〟が充分建った。俺の背後(せなか)に行く手を阻める無音の雑音(ノイズ)が人群(ひとむれ)から成り、〝合せ鏡〟に俗世(このよ)を活き抜く幻想(ゆめ)の間奥(まおく)がずんずん仕上がり、空気(くうき)に記(き)せない〝黄泉の万葉(ことば)〟が俺の不意から細く上がって、無謀に解(と)けずの褪(や)けた温度が心身(からだ)の熱尾(ねつび)へ微妙に絡まり、自然(あるじ)の涼風(かぜ)から次第に高鳴る空気(しとね)の蕩尽(ゆらぎ)は刹那を識(し)るまま暗(やみ)へと入(い)った。

 無刻(むこく)を調べる夢の態(てい)には億尾に出せない性根が結集(あつ)まり、無意(むい)に割かない暗(やみ)の策理(さくり)に明日(あす)を誘(いざな)う八方旨(はっぽうし)が在り、幻夢(ゆめ)の蟠(たま)りに摂理を装う現行(いま)の震動(しらべ)は俺の痕跡(かげ)から細く撓(しな)って、〝合せ鏡〟に真横に羽叩(はた)めく無味の感覚(いしき)を暗号にした。暗号から成る個人(ひと)の孤独は四面(しめん)から観る言葉の筆勢(ちょうし)を他(ひと)の芽にさえ繋げて失(け)せ得る黄泉の目測(めかた)を概(おお)きく掲げて、拡げた開化を走馬(そうま)の順序に巧みに積み上げ、一時(いっとき)から観る幻夢(ゆめ)の自主(あるじ)へ返して行った。孤高の〝跡(あと)〟から自活(かて)に纏わる体温(おんど)の向きから、俺の心身(からだ)へ思惑(こころ)を解(と)かせる黄泉の心理(しんり)は暗歩(あんぽ)を計(かぞ)えて、活きの好いまま無機を透さぬ人間(ひと)の未完(みじゅく)を大目に観る儘、活きる志気へと活歩(かつほ)を踏むのを大(だい)に悦び閲覧した儘、黄泉の心理を俗世(このよ)の蜃気へ到来させ得て無理が無いのを無理が有る等、滑稽(おかし)な程度に大目を見開き、形成(なり)が無いのを空気(しとね)と認(みと)めて小さな目的(あて)を求めて遠くへ活きた。

 明日(あす)に認める低い虚空(そら)から人間(ひと)の四肢(てあし)が幾つも流行(なが)れて、出来事(こと)の始めに失敗して生く無想(むそう)の共鳴(ひびき)が落胆(おちど)を認(したた)め、手厚い看護を黄泉の集地(アジト)に介して在るのを、六番目に見た未知の目下(ふもと)へ充分留(と)め置き、純白(しろ)い白紙に俺の脳裏は虚ろを忘れて狂気に従い、昨日の過失を現行(いま)へ運べる現行人(ひと)の集中(さなか)を脱して在った…。…。…。――――――――。(初めに観たゆめ未完みかんじゅくせり)



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~現行人(げんこうにん)―Current person―~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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