~一女(かのじょ)の転生―Reincarnation of one lady―~(『夢時代』より)

天川裕司

~一女(かのじょ)の転生―Reincarnation of one lady―~(『夢時代』より)

~一女(かのじょ)の転生―Reincarnation of one lady―~

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 現代人が、一寸疎(うざ)い…

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 辷り空転(ころ)げて初春(はる)の気色を真向きに捕えた自己(おのれ)の瞳(め)からは、思春(ししゅん)に乗じて小春(こはる)を識(し)り得た〝団子〟の虚無など空気(まわた)に透れる。初春(はる)の景色に孤独を窄める自己(おのれ)の感覚(いしき)は美的に敗け得ぬ私欲(よく)を操り、ことこと煮込める恋情(こい)の諸刃を経過(とき)に応じて従順(すなお)に承け取り、明日(あす)の景色を縮めて幻見(ゆめみ)る無数の化学を堪能して居た。俺の無言(ことば)が左の耳から右へ尽(き)れる頃(とき)、独りの小娘(おんな)が幻想(ゆめ)の空気(まわた)にふらふら仕上がり、自体(おのれ)の歴史(かこ)さえ端正(きれい)に仕込める〝有(ゆう)〟の感覚(いしき)を至順(しじゅん)に応じて、女性(おんな)の来てから恋慕を語れる身欲(みよく)の憂慮を須らくも識(し)り、明日(あす)と今日との狭間で幻見(ゆめみ)る奇妙な神秘(ふしぎ)を調子に見得ても、俗世(このよ)の一女(おんな)の独歩の限度(かぎり)は〝独りに非ず〟を提唱して居て、見栄を張るうち自分を失(け)せ得る未覚(みかく)の一連(ドラマ)を額(ひたい)へ打ちつつ、明日(あす)の行方を身分へ翻(かえ)せる利欲(よく)の会話に謳進(おうしん)して居た…。

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 俺は中学の頃に見た白細(しらぼそ)い女と一緒にプールへ行き、デートして居た。しかしそれは、期限付きだろうなぁ、と思わされるものであって、女を「彼女」と呼ぶには余りに疎かった。唯一度だけのデート。彼女はその方が良かった様(よう)だ。ずっと付き合うのは嫌だと…。

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 改作染みた思春の〝行(ぎょう)〟から自分に適する一語を儲けて、俺の目前(まえ)には淡泊(しろ)い一女(おんな)が平々(ひらひら)しながら白服(ブラウス)等着て、京都の萎びた一本道から濃緑(みどり)の路地へとその身を通わせ、初めて目にする紅(あか)い顔したはにかみ顔さえ、気焔(きえん)に巻かれた遠くの方から俺へと這い寄る。俺の表情(かお)には「彼女」の体(からだ)をうっとり意図した〝はにかみ上手〟が突然表れ、〝出で立ち〟、〝耄碌〟、〝眩み〟に〝合せ〟と、派手な気色にその場を彩る私業(しぎょう)の豊かな企みが在り、一女(おんな)の前方(まえ)から無垢に透れる青春(はる)の素顔を真顔に迄した。独特ながらに青春(なる)の身近は立春まで活き、「彼女」の実(さね)から腿の辺りを燻々(くすくす)こそばす幻(ゆめ)の多さを目の当たりとして、俺に通える一女(おんな)の微動(うごき)の成れの果てには、〝立春(はる)〟の精神(こころ)も真心(こころ)へ尽きない「本能(ちから)」の反能(かえり)が真横に寝そべる。他人の様(よう)には追従(ついしょう)し得ずの真心(こころ)の鈍(くもり)は白雲(くも)を晴らして、初夏(なつ)の兆(はじめ)を暗夜(よる)に想わす無垢の欠片が大器を掻き分け、二性(ふたり)の空気(しとね)に泡(あぶく)を発(た)てない微温(ぬる)い好意が真横へ延び発(た)ち、恋情(こい)の行方は恋慕を識(し)り得ぬ人の〝正義〟を大目に見て居た。鈍(くもり)の冴えない幻(ゆめ)の公転(ころび)は二性(ふたり)の瞳(め)に好く、男性(おとこ)と女性(おんな)がそろそろ解(と)け合う〝融解同士〟が白旗(はた)を掲げて、初夏(なつ)に成る前、晩春(はる)の桃(あで)から衣(ころも)が退(の)く頃、俺の全身(からだ)は少女の間も無い「成長記録」を、「少女」の処(ありか)に幻夢(ゆめ)を奪われ、未完(みじゅく)の足元(ふもと)へそっと果てない微かな脆味(よわみ)を表情(かお)に露(あらわ)し、無限に解(と)けない春夏(きせつ)の承(う)け身を煩悩(なやみ)に沿わせて大欠(おおあくび)をした…。

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 …プールは温泉みたいに成り、俺達は脱衣所で脱衣してから温泉へ向かおうとするのだが、俺は何時(いつ)も通りに全裸に成り、でもこれじゃあ余りにも…と脱衣所の頭上の方に置かれて在ったバスタオルと小タオルとで何とか、とにかく局部を隠し、仄白(ほのじろ)い女を待つが、女は、きちんと肌襦袢の様(よう)な物を着て居り、下は(それ用の)パンツを履いて来て、

「さあ行こう」

と笑顔で、バスタオルとミニタオルで全裸(特に局部)を隠した俺を引き連れ、『温泉へ行こう!』と催促して来た。

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 俺の生歴(きおく)に五本の肢(し)が在り、一つは「彼女」に、一つは俺に、一つは経過に、一つは黄泉に、更に一つは宙(そら)へと向かい、文句(ことば)限りの浮遊の態(てい)から現代人(ひと)を厭(きら)える独力(ちから)が蹴上がり、「無論」を黙する憤怒の人陰(かげ)にて、俺の目下(ふもと)へ対する「彼女」は平々(ひらひら)舞い散る人影(かげ)に似て居た。派閥が群がる俗世(このよ)の並では派閥を欲しがる他(ひと)が現れ、俺の目前(まえ)から姿を失(け)しては何処(どこ)か遠くへ発達して活き、夜でも昼でも「現代人(ひと)」の陰にて多勢を喜び、自分の四肢(からだ)が〝傀儡(どうぐ)〟と成るのを強く望んだ。一点から成る人間(ひと)の生歴(れきし)は涼風(かぜ)に掬われ、俺に見得ない奇妙の〝旧巣(ふるす)〟へきちんと辿れて人姿(すがた)を遺さず、俺の周囲(まわり)へ散らばり生くのは俗世(このよ)の何(なに)とも関わり合えない無垢の境地にその実(み)を留(とど)める。屍(かばね)の跡には現代人(ひと)の要(かなめ)が四肢(からだ)を着替えて宙(そら)の目下(もと)から概(おお)きく羽ばたく余力を留(と)めるが、既知の事実(こと)には遁(とん)と小鈍(こにぶ)い幻(ゆめ)の独歩(あるき)が先行して活き、他(ひと)へ対する俺の一歩(あゆみ)は白紙(きち:既知の意として)に翻(かえ)れる奈落の宮(みやこ)を成就して居る。幻想(ゆめ)の所在(ありか)は天へも翻(かえ)れぬ独力(どくりょく)さえ在り、余韻(あと)の罅割(ひずみ)も他(ひと)を透せる幻夢(げんむ)の周辺(あたり)に進々(しんしん)究(きわ)まり、明日(あす)を生き抜く覚悟を想わす無機の傘下を上手に手繰り、空気(しとね)の空間(すきま)にぬるりと這入れる俺の詩(うた)には、俗世(このよ)の黄泉から奇妙に小波(ささ)めく旧い神秘が万能(ちから)を識(し)った。

 無駄に具わる人間(ひと)の独歩(どくほ)の〝向き〟の定型(かたち)は〝気取り〟終え行く暗夜(やみ)の許容(うち)から原人(ひと)の独創(こごと)を幻想(ゆめ)に配する無理の深歩(しんぽ)が永久に活き延び、俺の白紙(こころ)は現代人(ひと)の艶姿(すがた)を暗夜(やみよ)へ返せる不義の要局(かなめ)を既視(おおめ)に観て居た。問わず語りの雲雀の目下(ふもと)にぽつんと置かれた不義の局目(かなめ)は然るにこうして〝目下(もっか)〟を装い、俺の目下(ふもと)で活気を囀る〝艶(あで)〟に見事な七変化を終え、陽(よう)と陰(いん)とを五肢(からだ)に集めて気力(ちから)の限りに独白(ことば)を延ばせば、純白(しろ)い「気取り」は現代人(ひと)に操(と)られる烏有の論理(ひとつ)に道理(みち)が棚引き、初春(はる)の息吹に空気(しとね)を翻(かえ)せる初夏(なつ)の順序を性能(かたち)に据えた。

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 …まぁ催促に見えた「彼女」の行動は、唯「流れ」でそう成っただけであるが、俺は、何時(いつ)もながらの女の要領の良さと、ちゃんとちゃんとの所と、大胆差(だいたんさ)に悔しさと嫉妬に似たものを覚え、不安だった。俺は、

「温泉行くのに、又、彼女と行くのに、バスタオルかなんかで裸隠していいんかなぁ」

等と、世間に対し、遠慮をして居た。

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 幻想(ゆめ)の「通い」が遠くの幻覚(ゆめ)にて、「彼女(おんな)」と「俺」とを隔て始めて、潤白差(しろさ)に具わる南方(みなみ)の暖風(かぜ)から眼力(ちから)を買い出し、「彼女(かのじょ)」の要(よう)には自分には無い二局(ふたつ)の目下(ふもと)が律儀に逝くのを、「彼女」の下(もと)から遠地(とおく)へ去り行く俺の覚悟は認識して居る…。「彼女」の一眼(ひとみ)は幻(ゆめ)の局(きょく)から至順(しじゅん)に羽ばたき、要(よう)を練るのに純白味(しろみ)を帯びない拙い限度(かぎり)が人間力(ちから)を描(か)き終え、逝くも還るも何気に逆らう黄泉の〝下(くだ)り〟は順応にして、幻(ゆめ)の両眼(まなこ)を両掌(りょうて)に養う不義の潔白差(しろさ)に巡回して居た。女性(おんな)の文句(ことば)に男性(おとこ)に仕舞えぬ寛差(ひろさ)を仕立てて矛盾を感じ、黄泉の理郷(くに)から陽(よう)を示せる無頓の交響(ひびき)を格差に備えて巡洋へと就き、男性(じぶん)の〝向き〟さえ器用に描(えが)けぬ黄泉の神秘(ふしぎ)を真向きに解(かい)した。一女(おんな)の目下(もと)には始終の男性(おとこ)が急々(いそいそ)出掛けて、男性(おとこ)の本能(ちから)を煩悩(なやみ)に向け出し、自己(おのれ)の気力(きりょく)に独力(ちから)を手向けて、女性(おんな)が掌(て)にする「秘部(ひみつ)」に隠せる黄泉の理郷(くに)から「自己(おのれ)」を産ませた純白(しろ)い審理を儚い腕力(ちから)で暴れて奪(と)った。暴れ馬鹿(うま)に観る幼稚な好意は女性(おんな)に気取られ、陽(よう)の照る目下(もと)密かに講じる女性(おんな)の自穴(ならく)にそのまま抱(だ)かれ、男性(おとこ)が講じた暴力(ちから)の妬みは日光(ひかり)を知らずに遠地(どこか)へ羽(は)ためき、自己(おのれ)の五肢(からだ)が段々揺られて散らばり生くのを女性(おんな)の目前(まえ)では「艶(あで)」に殺(や)れて無意(むい)に気取れる機会(とき)も無かった。楽しい限りの円(えん)の空間(すきま)に、ちょこんと座れる幼児が現れ、男性(おとこ)の身元(もと)から出で立つ幻(ゆめ)には女性(おんな)の両眼(まなこ)が散々飛び交い、活きる〝覚悟〟は「円(えん)を囲める矛盾の覚悟をしっとり射止めた者に限る…」と、男性(おとこ)の心理(こころ)は矛盾を気取れぬ女性(おんな)に野次られ、男性(おとこ)の破局は女性(おんな)を視(め)にした無意(むい)の許容(うち)から、何度も何度も事故に見せ掛け殺害して来た不断の奥義(おうぎ)にその実(み)を預けて、今度も女性(おんな)を獲物にしたまま向き翻(かえ)せず男性(おとこ)の談義は女性(おんな)の温味(ぬくみ)をこっそり吟味(あじ)わう瞬時の快楽(らく)へと溺れて入(い)った。

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 浅黒いがプラスチックの様(よう)な男が結婚した事、肥目(ふとめ)の大黒(だいこく)坊ちゃん、サッカー好きの日干しに似た美男(おとこ)が続けて結婚した事。雛菊の様(よう)に美しく、日本人形よりも美味を含めた艶(あで)な姉(おんな)はずっと以前に結婚して居り、…取り敢えず、母系文化の成れの果てにて結婚して居ないのは殆ど俺だけと言う事情を想いながら、「彼女」との繋がりを大事としたまま次の場面に俺は立ち尽して居た(恐らく俺はこの展開へ来た時、仄白ほのじろい女とは別れていたか、その関係はより希薄と成り掛けて居た)。

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 有無を言わさず経過(とき)の速差(はやさ)は俺へと向かい、俺と他(ひと)とを目敏く確かに律儀に隔てて、男・女(だんじょ)が俗世(このよ)で吟味(あじ)わう身重の楽(らく)など俺と他(ひと)とで別個とした後(のち)、俺の気楽は陽(よう)を外れて陰(いん)へと凹(おちこ)み、何時(いつ)も掌(て)にした〝確かな身元〟を他(ひと)の背後に転々(ころころ)好転(ころ)がす暗(やみ)の大蛇(おろち)を暫く飼った。

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 「貴嬢(きみ)に捧げる梅の林(かげり)を憶え給ふ也(や)?」

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 無理の言葉が人陰(かげ)を跳び越え明日(あす)の晴嵐(あらし)に自由を気取られ、門限足らずの時刻の範囲に組脚(あし)を踏ん張り、孤独が居座る陰(かげ)の門戸でどれだけ経過(とき)を訪ねて見ても、俺の背後(せなか)を暫く離れた人間(ひと)の交情(こだま)は得手を返さず「自由」を損ねて、事始(こと)の毎(つど)にて俺を乖離(はな)れる無機の空気(しとね)へ透って入(い)った。俺の暗黙(やみ)から宙(そら)を目掛けて働く正義(ドグマ)は女性(おんな)の暮れにも初春(はる)など気取れず、況して女性(おんな)の万葉(ことば)に未完(みじゅく)を灯せる思春(はる)も識(し)れずに、唯々、ひたすら〝正義(ドグマ)〟が表情(かお)を洗える無適(むてき)の協議に独談(どくだん)を吐(は)き、自己(おのれ)の空気(しとね)へ「黄泉」を翻(かえ)せる無機の忘却(わすれ)を延々観て居る。俺の腹から女性(おんな)に頼れる腹案(アイデア)が漏れ、濁白(しろ)い〝限り〟は男性(おとこ)の集地(アジト)を俗世(このよ)に想わす二局(ふたつ)の生地を派順(はじゅん)に蹴破り、意味を成さずに無味を相(あい)して布団にたわれば、味気無いまま空気(しとね)に巻かれて生気を挙げ生く人間(ひと)の脆差(もろさ)を上手に建てた。

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 …田舎へ帰って居たようだ。しかし不思議な事に、田舎の光景(景色)・情景等は殆ど無い。感じない。(細かい展開を忘れた…)。俺達(艶な姉込みで、従兄弟の叔父、叔母を含め、俺の両親も居たかも知れない)が一つの居間で疲れた様(よう)に雑魚寝して居る。艶(あで)な姉は俺の右前方の(俺が普段自室で使用している〝アメニティ〟と刺繍が施された)椅子で気持ち良くすやすやと寝て居る。その様子を見ていると、その相手をしてくれない淋しさからと静けさから、少し昔の田舎を思い出し、懐かしい景色・情景の中で遊んだ事を思い出した。艶(あで)な姉は別の旦那さんと再婚して居た。「良く結婚出来たなぁ」と言う思いと「姉は美人で可愛らしいからまぁ出来て当り前か」と言う思いとが交錯して、後(あと)、無関心に成った。

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 自己中の現代人がうざい…

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 欲への理性(はどめ)が既知を離れて交錯するとき俺の身内(なか)でも奇妙な雑音(おと)から白紙に還れる私音(しおん)が重なり、俗世(このよ)の果てから二局(ふたつ)の感知(オルガ)へ羽根を拡げて渡れる海鳥(とり)にはその背に掲げる奇妙な興味が底儚いまま律儀に根付き、自己(おのれ)の身欲の体熱(ねつ)が醒めるのを幻想(ゆめ)へ気取れる大手を観た儘、自信の人陰(かげ)から真っ赤に燃え立つ煩悩(なやみ)の帰還を瞬時の記憶が脇へと置き遣る。漆黒(くろ)い身欲(みよく)の集魔(しゅうま)の虜が俺の醜女(しこめ)を不断に切り裂き、経過(とき)の流行(ながれ)に概(おお)きく乗じた憤魔(ふんま)の共鳴(さけび)に交響(ひび)かせ、私欲(しよく)の牙城(とりで)を没我へ蹴散らす純白(しろ)い樞(しかけ)は俺の背後(うしろ)でねっとり根付き、共鳴(さけ)ぶ女性(おんな)の器量に合せる過去の男性(おとこ)の無聊の熱気は、見る見る燃え立つ憤怒の熱気とそうは変らぬ上気を安める…。

 惨い仕打ちに酷く乗じて参観し得る女性(おんな)が掲げる無機の情緒は、日常から観た常識(かたち)の範囲(わく)へときちんと成り立ち、煩悩(なやみ)に対する上気を逸して〝正義〟を気取れる有無に在ったが、暗黙(やみ)に轟く暗夜(よる)の空気(しとね)に巻かれる後には、男性(おとこ)の身元と性器の一突(ひとつ)をこよなく相(あい)して痩躯を投げ遣り、純白差(しろさ)に敗けない未踏(みとう)の準備に果て無く跳び立ち柔裸(やわら)を奉じて、献身豊穣(けんしんゆたか)な御供の身に発(た)つ無縁の華にはそのまま幻見(ゆめみ)る、空気(しとね)の翻(かえ)らぬ無機の最中(さなか)で、「熟知足るや…」と身許を喘ぐ…。無駄の上気に暫く幻見(ゆめみ)る現代人(げんだいじん)から包容豊かな立身を観て、過去の懺悔に献身して行くデブラの花には開花が非ず、一度も尽きせぬ経過(とき)の流行(ながれ)は自活(かて)を独歩(あゆ)まぬ未信の範囲(うち)から暫く俗世(このよ)を文句(ことば)へ通せる意味の調べへ尽力して行く。過去を煩う女性(おんな)の後光(ひかり)が男性(おとこ)の前途を揚々曇らせ、未完(みじゅく)へ意図する無為の若輩(やから)を上々豊かに格上げしながら、「非凡」と宣う現代人(ひと)の狭義は男・女(だんじょ)に分れて平凡に在る。

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 「アメニティ」の椅子に座って、すーすー寝息を立てて眠って居る姉を見ている。

「一寸待て、よくよく考えたら、別れた、って事はあの過去(むかし)の旦那(おとこ)と別れたのか!?あの、澄んだ細瞳(ひとみ)をしていた気持ちの涼しい中背(ちゅうぜい)の男と…?」

俺はよくよく考えて、姉は惜しい事をした…!、と考えて居た。

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 純白(じゅんぱく)に鈍る夕日の暗さが女性(おんな)の身許へと緩(ゆる)りと跳び付き、「男女(だんじょ)」の温味(ぬくみ)を詩吟して居る無垢の火照りに灯(あか)りを点(つ)け出し、俗世(このよ)に活き得る若(しぶ)い男性(おとこ)の精気を貪る理知(はどめ)を取り添え処女(おんな)を殺して、「無機に耐えぬは女性(おんな)の恥」等、一つ処できっちり憶えた幻覚(ゆめ)の放りに後先していた。過去を気長に流行(なが)れる「平和」の表情(かお)した呑気な男女(やつら)が、俺の赴く〝生地(せいち)〟の中央(なか)へと先廻りをして笑顔で居座り、経過(とき)の流行(ながれ)の緻密な速さに少し醒め得る孤独を識(し)っても、透明色した空気(しとね)の軟裸(やわら)は俺の背中を少々押し出し、男女(やつら)の塊(たまり)へ観える様(よう)にと豊満(ゆたか)な裸体を成就して居た。俺の生歴(きおく)は男女(かれら)に対する憎悪の残骸(むくろ)を熱気を携え鵜呑みに呑み干し、挙句の果てには円卓(たく)を囲める澄ました男女(やつら)が自己(おのれ)の絶頂(とうげ)を漸く乗り越え、空気(しとね)に懐ける巧い言葉を記帳する頃、宙(そら)に見得生く淡い星には瞬く間に見る杞憂が訪れ、「音無し(大人し)顔(がお)」した奇妙の魅力を不断に吟味(あじ)わい果てへと活きた。過去の幻想(ゆめ)から常緑(みどり)の軒端が俺の方(え)に建ち、五月蠅(あわ)い〝日の粉(こ)〟が充分豊穣(じゅうぶんゆたか)に登(とう)を下りる頃、軒端の果てには苦労に先立つ凡庸さえ在り、端麗(きれい)な黒目(め)をした百足の一女(おんな)が湯気から産れて現前(げんぜん)に問う…。「立派な晴嵐(あらし)」が過去の生歴(きおく)に延びて生く頃、怜悧(つめ)たい青目(め)をした萎びた一女(おんな)が自分の顔さえ忘れた態(てい)にて、俺の行く手を器用に阻める幾多の既知から自活(かて)を取り添え現行(いま)へ生き着け、明日(あす)の行方(かなた)へ成らない幻像(ゆめ)から滔々流れる〝歩幅〟を眺めて、俺の〝既知〟から泥濘(ぬかる)む思案(イデア)を私欲(よく)の水面(みなも)に放(ほう)って置いた。

 現行(いま)の涼風(かぜ)から身近に上がれる上気の質(しつ)には、男性(おとこ)と女性(おんな)の困惑だけ観た司業(しぎょう)に豊穣(ゆたか)な頭巾(かんむり)が立ち、俗世(このよ)を過ぎ足る遥か遠くの邪念の渦(うみ)には、「現人(ひと)の幸(こう)など微塵なものだ…」と就いて宣う始業に豊穣(ゆたか)な酔狂が活き、四季(きせつ)の余命(いのち)を四つに刻める未録(みろく)に乗じた誠実(まこと)の知恵には、ふらふら浮べる私欲(よく)の波紋(わっか)も瞬時に消え逝く難儀な対象(もの)だと、人間(ひと)の生(せい)から真逆(まさか)に堕ち生く反逆人(あらがいびと)へと告発して居る…。

 気熱(ねつ)の火照りに退却して行く現代人(ひと)の派面(バリア)はbrand(あかり)を着飾り連夜(れんや)を馴らし、透明色した無適の〝両刃(やいば)〟を無垢の茂利(しげり)に奔走させ活き、笑い合いから憎しみ合いまで〝日の粉(こ)〟に逸する無限の意図には、人間(ひと)に見得ない超物(かみ)の身元がちらほら知れ得る。俺の器量(うつわ)に大した物など乗らない既実(きじつ)は黄泉の黒目(め)に見て朗(あき)らか成るまま瞭然とも在り、誠白(しろ)い未覚(みかく)に無覚(むかく)を識(し)るまま経過(とき)の流行(ながれ)にその実(み)を遣るのは、現代人(ひと)の正味に嫌気を識(し)り得た鈍(どん)の偶像(かたみ)が見え隠れもする。純白(しろ)い絹糸(シルク)の二極(ふたつ)の独房(おり)から向きに這い出た気性が顕れ、女性(おんな)の独質(こどく)は人を寄せ得る脆弱味(よわみ)を携え、特に男性(おとこ)の外界(そと)へ剥き出た強靭(つよ)い触知(オルガ)は女性(おんな)の矜持に程好く懐ける未熟の暴力(ちから)に全能(ちから)を試み、全身(からだ)を挙げ生く足りない脳には女性(おんな)の艶(あで)から芳香(かおり)を掴める旧い〝上手〟にその視(め)を挙げた。挙げた矢先に女性(おんな)が射止めた独(どく)の木の葉が散乱して居る。俺の精神(こころ)は現行(いま)の希薄に次第に遣られて怒りの分業(ノルマ)に嘴(くち)を放られ、以前(むかし)に憶えた和(やわ)い調子を次第に忘れる有頂(うちょう)を気取り、父と母にも悲哀を突き出す未完(みじゅく)の独歩を強調して居る。初春(はる)の晴嵐(あらし)に精神(こころ)が惚(と)られて自分の五肢(からだ)は揚々浮べる幻覚(ゆめ)を追い駆け調子を繕い、自分の前途が如何(いか)なる代物(もの)かと軟く推考(かんが)え明度(あかるみ)を観て、自分の周囲(まわり)の男性(おとこ)と女性(おんな)の俗世(このよ)の体裁(かたち)に暫く見取れて、自分の運命(さだめ)にちまちま勧める無力の腕力(ちから)を朝陽に遣った。朝陽の目下(もと)から何処(どこ)かへ延び得る現行(いま)の光線(ひかり)が俺に仕上がり、何時(いつ)か何処(どこ)かで見様(みよう)の楽(らく)から闊歩を牛耳る無心の進歩に期待を見出し、可細(かぼそ)い女性(おんな)は仄白(しろ)い悪魔に躰を操(と)られて嘲笑され得る。俺の形象(かたち)は形而に在っても俗世(このよ)の進化を目の当たりにする幻覚(ゆめ)の訓(おし)えを聴き始めて活き、仄白(しろ)い一女(おんな)の怜悧(つめ)たい温味(ぬくみ)は俺の目前(まえ)から次第に遠退く緩い蜃気に潜(もぐ)って入(い)った。幼児(こども)の時分(ころ)から酷く痩(やつ)れた妄想(ゆめ)の体裁(すがた)はそれでも変らず、俗世(このよ)に活き得る誰にも識(し)れずに好(よ)く好(よ)く煌(かが)やく明媚の背景(けしき)に腰を落ち着け、俗世(このよ)へ居座る神秘(しんぴ)の水面(みなも)に自身が観得ない微温(ぬる)い泡(あぶく)を準じて観て居る。一女(おんな)の欠片は俺の前方(まえ)から白水(みず)の溜まりに一度落ち込み、苦労に絶えない生きる宮(みやこ)を滔々流行(なが)れる経過(とき)へ向け据え、俺の行く手を段々透れる可細(かぼそ)い右手で周辺(あたり)を黙らせ既知を染(し)ませて、既視(すで)に揺れ浮く陽(よう)の宮(みやこ)へ至順(しじゅん)を想わせ返して入(い)った。人間(ひと)の孤独が俺の頭上(うえ)から真上に延び切り、天に在る物、地に在る物まで皆の思惑(こころ)に既存と成り活き、未完(みじゅく)を呈した幻覚(ゆめ)の感無(オルガ)は、百足の脚(あし)をもその実(み)に繕う広い女体(からだ)に放散(ほうさん)を問う。道標(みちしるべ)に立つ百足の女性(おんな)は男性(えもの)の脳まで餌食にして生く努めて眩い実力(ちから)を身に付け、恥を識(し)れずに罪を知れない無冠の勇士はその黒目(め)に移ろい、男性(おとこ)も女性(おんな)も俗世(このよ)に活き得る空気(しとね)に観るのは姿勢(すがた)の無いまま体裁(かたち)を問わない人間(ひと)の幻(ゆめ)にて生気を養う。固陋に居着ける俺の有利は女性(おんな)を離れ、暴力(ちから)に任せて我欲を相(あい)する男性(おとこ)の全てを撲殺して活き、俗世(このよ)の基底(そこ)から宙(そら)を仰げる白雲(くも)の道筋(みち)など努めて識(し)った。純白(しろ)い既知から淡い既知まで人間(ひと)の生気は肉塊(にく)へ寄らずに天へ先駆け、烏有の生命(いのち)は天を識(し)り得て成就を見知る。白水(みず)から上がり俗世(このよ)の空気(しとね)に暮らして居ながら、女性(おんな)の美徳を荒声(こえ)に宿せる幻(ゆめ)の老女は、一女(かのじょ)の目前(まえ)から姿勢(すがた)を失(け)し活(ゆ)く理知(りち)の緩みを霧散に置いた。俺の背中に矮小(ちい)さく宿せる「俗世(このよ)の理屈」が猛威を振るい、俗世(このよ)の空気(しとね)に本能(ちから)が宿せる煩悩(なやみ)を観ながら、透明色する人間(ひと)の文句(ことば)は化身を識(し)らずに徘徊して活き、〝意味〟を奪(と)れない自然(あるじ)の背後(せなか)に幾つの幻想(ゆめ)など真近(まぢか)く観て居た。事始(こと)の初めを軽視しながら人間(ひと)の無垢から〝意味〟を辿れる虚無の頭(かしら)を未完(みじゅく)に仕上げて、俺の黒目(め)に出る一女(おんな)の化身(かたち)は宙(そら)へ放られ欠伸をして居り、俗世(このよ)の結果(さいご)を人間(ひと)に挙げ生く「晴天色(せいてんいろ)した初春(はる)」の名残は、器用に羽ばたく幻覚(ゆめ)の語尾(あと)から俺に務まる神秘(ふしぎ)の私事(しごと)がその黒目(め)を上げた。〝Bの主観(あるじ)〟が「俺」を擡げて宙(そら)へ顧み、俗世(このよ)を乖離(はな)れる準備を得ながら猛進して行く瞬時(とき)の移りを昼間に観る内、俺の五肢(からだ)は黄泉へ振られた「死んだ作家」の集地(アジト)を練り生く見事の騒音(ノイズ)を聞き分け始めて、淡泊(しろ)い躰は無為の現代人(ひと)へと軽々公転(ころ)がり、俺の白紙(こころ)は自然(あるじ)の体裁(かたち)を全て書き得る未完(みじゅく)の連呼を後押しして居た。純白(しろ)い人殻(かいこ)は宙(そら)を駆け落ち未完(みじゅく)に操(と)られて現代人(ひと)の身に浮く労(ろう)の水泡(あぶく)に〝御覧豊か…〟に格下げされ活き、人間(ひと)に纏わる仄香(ほのか)の臭味は現代人(ひと)の瞳(め)をした〝寡黙〟に従い、幻(ゆめ)の宮(みやこ)を見事に離れて吟味(あじわ)い豊かな豊産(ほうさん)をも識(し)る。「信じる能力(ちから)」を矢庭に受け継ぐ耄碌から観て、俺の傍(よこ)には〝奇妙の瞳(め)〟をした密室(へや)の空気(くうき)が重味(おもみ)を増し活き、俗世(このよ)を乖離(はな)れて天へ延び生く潔白(しろ)い人柱(はしご)をその黒目(め)に携え、俗世(このよ)を独歩(ある)ける訪ね人(びと)から永久(とわ)に流行(なが)れる経過(とき)の発音(おと)迄、自己(おのれ)に稼げる幻覚(ゆめ)の定量(ほど)には誤りさえ無い向きの狂苦(きょうく)が呼吸(いき)をしている。俗世(このよ)に顕れ人を異にする仕事が溢(あぶ)れて向きを異にする罪の歪曲(まがり)は俺にも降(ふ)り付け、明日(あす)を見紛う旧い規律(おきて)は現代人(ひと)の実力(ちから)にすんなり化(か)えられ、現行(いま)の万葉(ことば)に翻訳されない俺の私事(しごと)が最後に残る。宙(そら)の高嶺に常緑(みどり)の野獣(けもの)が甲羅を割られて、俺の一女(おんな)は生気を抜かれて生身に還り、俺の心身(からだ)がそのうち透れる宙(そら)の行方(かなた)で微笑み続ける。

      *

 現代人(げんだいじん)には用が無かった。


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~一女(かのじょ)の転生―Reincarnation of one lady―~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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