~ベランダの彼女~(『夢時代』より)

天川裕司

~ベランダの彼女~(『夢時代』より)

~ベランダの彼女~

 幻(ゆめ)の逆行(もどり)は揚々素早く俺の定めに寄り添う形で、一つ姿にその実(み)を定めず、現行(いま)の経過(ながれ)の旧い家屋に女性(おんな)の姿勢(すがた)を写していながら、滅多矢鱈に愛想を振り撒く俺の男性(おとこ)を放擲していた。何時(いつ)か見慣れた外張(ベランダ)から観て俺の態度(すがた)は真白(ましろ)く映え出し、俺を見詰める彼女の容姿は何処(どこ)かに落ち着く器量にさえ観得、斬新(あらた)に懐ける白雲(くも)の真下は俺と彼女にふらふら這い出し、拙い涼風(かぜ)さえ俺の目前(まえ)にて淀んで在った。俺の躰は温味(ぬくみ)を忘れた細身(ほそみ)を携え、彼女の孤独を軟く見据える技量の元には揚々懐かず、誰も沿わない俺の孤独に瞬間(とき)を忘れて至純に従う呼気(こき)の在り処を新調して居た。遊びに行くのも憚られており俺の孤独は〝定め〟を掌(て)をしてぽっそり佇み、誰の前方(まえ)でも斬新(あたらし)さを保(も)つ意味の旋律(しらべ)をその実(み)に掲げて、彼女の居所(いどこ)を必死に捜せる拙い遊戯に逡巡して居る。無為の〝遊び〟は家の間取りに融面(ゆうめん)して活き俺と彼女の稀有の神秘を部屋の四隅に並べて先立ち、未完(みじゅく)を灯せる淡い陽気(ようき)は俗世を棄て去る好機を訓(おし)え、俺の躰と彼女の心身(からだ)は相(あい)を容(い)れずに一致を識(し)った。何処(どこ)でも言えない俺の自宅の間取りである為、俺の躰はふわふわ綻び、両親(おや)の居場所を識(し)らぬ儘にて「彼女」の容姿(すがた)を捜し続けて、俗世の女性(おんな)とすっかり離れた神秘の具合を求めて在った。経過(とき)の立たない俺の家には彼女の〝古巣〟がそこらに蔓延り、両手両足、桎梏(かせ)として〝風〟を見詰める優雅な労女(ろうじょ)に相対(あいたい)して活き、彼女の四肢(てあし)は俺に蔓延る豊穣(ゆたか)な塒を擁してあって、俗世に蔓延る〝他人顔(たにんがお)〟した滑稽(おかし)な女性(おんな)と一線引かれた幕屋に降り立ち、下界を観ながら哀しみさえ識(し)る無適(むてき)の生気を俗世(このよ)に突いた。俺と女性(おんな)の怜悧(つめ)たい経過は俗世(このよ)の余命(いのち)に分散され果て、旧来(むかし)一緒に過した彼等を難無く棄て切る覚悟を擁し、俺の牙城(とりで)に無関(むかん)を突き付け無感を示せる彼等の内輪(うち)にて女性(おんな)が居座り、俺と女性(おんな)の活き得る居場所ははっきり分れて確立していた。旧来(むかし)の級友(とも)との温(あたた)か差も無く、共に居座る想い出も無く、野良の如くに野良人(ひと)と相(あい)せる容姿豊かな面持ちさえ保(も)ち、馬鹿げて蔓延る〝社会〟の水面(みなも)に腰を落ち着け賛嘆して居る旧友(とも)の態度(すがた)に嫌気を憶え、俺の根城は俗世(このよ)を乖離(はな)れて活き活きし始め、真白(ましろ)く写せる俺の神秘を大事にした儘、俺と彼女の温(ぬく)い情死は俗世(このよ)の女性(おんな)を葬る内にて、他(ひと)に解(かい)せぬ豊穣(ゆたか)な繁味(しげみ)を外界(そと)へ張り出し延命して居る。

 他(ひと)の温味(ぬくみ)は外界(そと)に蔓延る生屍人(ゾンビ)同士に吟味され得て、一文無しから〝生(せい)〟を吟味(あじわ)う〝俺と彼女〟の懐には無い虚しい生歴(きおく)にその実(み)を棄(な)げ出し、事の地獄に投げ出されるまま柔肉(にく)を貪る餓鬼の如くに、他(ひと)の延命・生命(いのち)を想い遣れない怜悧な寿命(いのち)を再三片付け、自分の本能(ちから)を養護して生く無為の奈落に遊泳(およ)いで在った。〝悪(あく)〟を行う人間(ひと)の本能(ちから)を許せぬ儘にて、俺の純心(こころ)は聖所(せいじょ)の許容(うち)にて女神の吐息を捜索して活き、諦め知らずの「無為の基地」から勢い付くまま脱却して生く自己(おのれ)の姿態(すがた)を鵜のみとする儘、自分に彩(と)られた「終の棲家」に四肢(てあし)の萎え得る労女(ろうじょ)を見付け、明日(あす)の旧巣(ふるす)を共に気取れる豊穣(ゆたか)な生歴(きおく)を保(も)ち合いながら、餓鬼の居座る女性(おんな)の局地を背後(あと)にして生き、本能(ちから)の限界(かぎり)に〝餓鬼〟に果て行く男・女(だんじょ)を殺して誘幻(ゆうげん)を観た。

 オレの肢体(からだ)は見知らぬ自宅に共に居座る女性(おんな)の姿勢(すがた)を鵜呑みにする内、寝耳に聞える清水(しみず)の流行(ながれ)を確認して活き、幻想(ゆめ)の清閑(しずか)に拡散して生く精神(こころ)の清差(きよさ)に前進する儘、幻(ゆめ)と俗世(このよ)の逆行(あともど)りの無い二手(ふたて)の密室(へや)にて流動している自分の旧巣を確認して居た。初夏に見取れる〝密室(へや)〟の外界(そと)での険騒(けんそう)等には、涼風(かぜ)と酷暑(あつさ)が〝餓鬼〟の身元(もと)から燦燦湧き出て、人間(ひと)の居場所を分らなくする幻夢(げんむ)の在り処を鷲掴みにし、俺の背後(はいご)に概(おお)きく寝そべる拙い流動(うごき)を〝清水(しみず)〟の流行(ながれ)に沿わせる仕草で外界(そと)と内屋(うち)との清閑(しずか)の間取りを「女神」の四肢(てあし)に送って行った。外界(そと)に蔓延る脆(よわ)い交響(ひびき)は人間(ひと)の余命(いのち)に共鳴して行く稀有の神秘(ふしぎ)に色目を使われ、人間(ひと)の歴史に概(おお)きく紐解く古い習癖(くせ)にて躊躇して活き、空気(もぬけ)の〝四隅〟にその実(み)を遍く旧びた行事を推奨する内、微睡みさえない〝稀有の神秘〟は人間(ひと)の隠家(はなれ)に水産して行く無体の夕餉をご馳走して行く。遊び場の無い余命(よめい)を削れる動悸の郷(さと)には、手広く片付く個人(ひと)の寡黙(だまり)が揺ら揺ら蠢き、初夏(なつ)を識(し)り得ぬ初春(はる)の芳香(かおり)が人目を気にして文言(ことば)を付け出し、堂々巡りの〝憎しみ合い〟から個人(ひと)の生気が救いを見取れる黄泉の神秘に華付けをした。俗世(このよ)の余命(いのち)を恨み続ける俺の精神(こころ)は女性(おんな)を葬り、女性(おんな)の身元(もと)へと必ず息衝く屍男性(しかばねおとこ)の体を解体(ばら)し、餓鬼が居座る黄泉の畔で両者の寿命(いのち)を安く見付かり、何も識(し)り得ぬ数多の餓鬼へと自活(かて)に伴う熱量(ねつ)と裏付け、黙り損ねる俺の夜目(よめ)には、見知らぬ自宅の聖所を気取れる少ない空気(もぬけ)が無数に在った。

 孤独顔した女性(おんな)の縁(ふち)から俗世(ぞくせ)を忘れる女神(けしん)が傾き、俺の目前(まえ)へとふわふわ飛ぶ内、俗世(このよ)の弄図(おろか)を全て消し去る強靭(つよ)い呼笛(あいず)が轟いて居た。天に纏わる再臨から観て、女神(めがみ)の行方は俺の目下(ふもと)で流動(うごき)を観(み)せては、真白(しろ)い羽衣(ころも)をふわりと翻(かえ)せる強靭(つよ)い動機を伴(とも)に従え、真白(ましろ)い永命(いのち)は彼女に慕われ純白とも成り、桃(はで)の〝生き血〟は宙(そら)へ連なる〝聖所の感覚(いしき)〟を感嘆している。想う通りに至聖所が発(た)と、俺の幻(ゆめ)には俗世(ぞくせ)に生き得る歪曲(ちいさ)な余命(いのち)を見落とす事無く、全ての屍(かばね)を打尽にする内、〝ぴかり〟と煌(ひか)れる点の空間(すきま)を宙(そら)に奏でた光布(ベール)に睨(ね)め付け、「明日(あす)」の延命(いのち)を逆手(さかて)に奪(と)れ得る孤高の覚悟を量産している。女性(おんな)の質(たち)には〝俺〟の姿態(すがた)を巧く嫌える空気(しとね)に任せた覚悟が降り立ち、生きる要所で自慰を照らせる宙(そら)の陽(よう)には女性(おんな)の卑俗(エロス)が分身され活き、「鉄壁」から成る俗世の古人(ひと)には、女性(おんな)を悩ます物や人には結託して活き無難を呈せる強靭(つよ)い養護(まもり)が幼稚に片付き、俗世(このよ)に活き得る女性(おんな)を卑下した何でも彼(か)でもを攻撃して行く一方限りの無暗が成った。天の傍(そば)から去来して生く女性(おんな)の哀れは男性(おとこ)を取り添え、淡い残骸(むくろ)を園へ保(も)ち行く一つ処の挙動を翻(かえ)して、俺の身元(もと)一切合切、旧友(とも)から知人(とも)から女性(めす)の華(あせ)から人間(ひと)の相(あい)まで、全てを剥ぎ取りその身を咲かせる無音の清水(しみず)をその掌(て)に牛耳り、俺の側(がわ)から天の側から俗世(このよ)を生やして延命され得る身毎(みごと)の響力(ちから)を分化させ活き、幼児(こども)の見事を無駄に囃せる人間(ひと)の集大成(シグマ)を耽溺させ得た。俺の見知らぬ自宅の空間(すきま)に人真似鳥(カナリア)から鳴る二音(におん)の触手が二色を儲けて、俺の旧巣を充分建たせる〝音〟の割れ目無謀に解(ほど)き、挨拶さえ無い暗(やみ)の文言(ことば)に自身の師事さえ解(ほど)いていながら、暗(やみ)の宙(そら)へは逆行(あともど)りのない、幾様(きよう)の緩みを識(し)り過ぎていた。獣の数字を卑俗に観るまま俺の遠慮は非力(なさけ)を知らずに、俗世(ぞくせ)から成る二色の性(さが)への男性(おとこ)と女性(おんな)の非力の調子を永い歴史(きおく)に転々(ころころ)空転(ころ)がし、俗世(このよ)の在り処に価値を発(た)たせる事物(もの)の無いのを宙(そら)から見定め平定して置き、暗黒(くろ)い人影(かげ)から卑俗を呈した男性(おとこ)と女性(おんな)が一つの水瓶(かめ)にて延命している脆(よわ)い定めを確認していた。

 人間(ひと)の〝集大成(シグマ)〟は孤独の発する望遠鏡から、無為の奈落へ通貫(つうかん)して生く純白(しろ)い切先(きさき)を目の当たりにして、純白(しろ)い「女神」の羽衣(ころも)の縁(ふち)には驚く両腕(かいな)が吊るされながらに、男性(おとこ)と女性(おんな)の他方から観るもう一つの存在(もの)、即ち〝時計回りの海賊〟から観て、全て文言(ことば)に顕れ始める無憶の〝集大成(シグマ)〟が編纂され生く。俺の精神(こころ)は男性(おとこ)から成る空気(もぬけ)の集成(シグマ)に〝あわよくば〟を観て女性(おんな)を誘い、卑俗の巣屈の晴嵐(あらし)の陽(よう)から、女性(おんな)と男性(おとこ)の〝成らずの杜〟等、周到豊かに準備をし始め、勘違いする男性(おとこ)の動揺(ゆらぎ)は女性(おんな)の足元(もと)へは一向寄らずに、孤独を呈せる俺の背後(あと)には誰も気取れぬ黄泉の清水(しみず)が燦々湧いた。俺と女神の揚々居座る旧い根城は、俺の前方(まえ)にて図太く寝そべる〝見知らぬ家宅〟の真中(まなか)に建てられ、卑俗の延命(いのち)を永久(とわ)に牛耳る幼稚の男・女(だんじょ)を葬りながらに、こつこつこつこつ、ぴとぴとぴとぴと、〝杜〟の内屋(うち)から奇妙に共鳴(さけ)べる孤独の主観(あるじ)を傍観している。俗世(ぞくせ)に生き得る〝孤独〟を隠した稀有の男・女は、自己(おのれ)に識(し)られぬ〝振(ぶ)れぬ春日(かすが)〟を視中(しちゅう)に見定め、互いに気取れる外観(そとみ)の旧さを自分に当て付け自明を拵え、自分の身元に何(だれ)も寄らない無垢の自然(あるじ)を崇拝する後(あと)、孤児の体(てい)した文言(ことば)の交響(ひびき)は、何にも割れずに暗宙(そら)へと傾き、初めから無い卑俗の古巣を本能(ちから)に委(まか)せて創って行った。事々(ことごと)在る毎、人間(ひと)の余命(いのち)は分散され生き、誰にも・何にも達観されない自能(エゴ)の旧差(ふるさ)を〝自明〟に従え、真白(しろ)い空慮(くうりょ)を俗世(このよ)に魅せ突け量産して生く人間(ひと)の滑稽(ぶざま)を〝孤独〟に魅せ突け、正味(あじ)を保(も)たない人間(ひと)の孤独は概(おお)きく分れて虚構を産み出し、人の旧巣(ふるす)は〝古郷(こきょう)〟に還れぬ自然(あるじ)の拙い目論見を識(し)る。

 幻(ゆめ)の緩める希望の許容(うち)から自分の環境(まわり)を充分否める無益の暴徒が噴散され活き、女性(おんな)の身元(みもと)は俗世(ぞくせ)の男性(おとこ)を全て失(け)し去り、俺だけ見詰めて解体して居た。人の居るのを事実と認めぬ哀れを欲した陽気の手数(かず)には、精神(こころ)を掬える人の独気(オーラ)が調達され活き、〝常時(いつも)〟を見果てぬ人の脆差(よわさ)が徒党を組んで、俺と彼女の寝そべる幻想(ゆめ)から、孤高に撓(たわ)めく緩い生歴(きおく)が霹靂(われめ)の許容(うち)からその芽を擡げて私闘を翻(かえ)し、棚引く早雲(くも)から棚引く人間(ひと)まで、人真似鳥(とり)の巣箱へ一掃して行く古い小踊(おどり)に裏打ちされつつ孤独の文寿(もんじゅ)にその実(み)を阿る〝気取りの手法(すべ)〟から祈祷(いのり)を乞うた。無知の旋律(しらべ)を〝清水(しみず)〟から得て、無音の交響(ひびき)に幻想(ゆめ)を観る頃、単身抱えて連座(れんざ)して行く孤独の寝間へとこの身が朽ち果て、人間(ひと)に観て来た円裸(つぶら)の行為が〝出会い〟を破棄して永久(とわ)に息衝き、人間(ひと)と俺との未完(みじゅく)の定めは自ず虚構(ドラマ)を連想して活き、俺と他(ひと)との変らぬ連想(ドラマ)を連続して行く永久(とわ)の定めと決定付けた。俺から漏れ出す理想の常識(かたち)は俗世(このよ)の許容(うち)では必ず叶わず、適合して生く魅惑の神秘へその芽を向け据え流行(なが)れて生く内、それまで観て来た人間(ひと)と俺との下らぬ虚構(ドラマ)を現行(いま)へ列(なら)べて鑑賞する折り、斬新(あらた)な〝進化〟が幻(ゆめ)に紛れてその実(み)を象り、現行(いま)の俗世(ぞくせ)で必ず適わぬ俺の理想(ゆめ)への骨子の常識(かたち)は、清水(みず)に濡れ生く神秘(ふしぎ)の能力(ちから)を精神(こころ)に置くまま大口(くち)を拡げて、斬新(あらた)な永命(いのち)に噛り付き生く見事の屍(かばね)を幻体(じつのからだ)にそのまま代え得る気力の雄姿を不惑(ふわく)に抱(だ)いた。過労に生き得る俗世の幼児(こども)は実体(からだ)を這わせ、毒蛇(へび)の態(てい)して他(ひと)と綻ぶ浮世の暑さに感嘆した儘、篩を遮る四方(よも)の旋律(しらべ)にその実(み)を自滅(ほろ)ぼす寝間への通路を垣間見る儘、俺と女神(おんな)の斬新(あらた)の通路を幻(ゆめ)の順路と認識して居た。俺を習馴(なら)わす旧味(ふるみ)に吟味(あじ)わう外張(ベランダ)から観て、俺の故意には期待の膨らむ斬新(あらた)な香女(おんな)がその実(み)を割いた。

      *

 とても好きな女が出来たようで、その子は持病を抱えた、夢から生れて来た子である。俺が見た夢の中にストーリィに沿って出て来た訳で、女の子を格別に美しく思わす昔(レトロ)の時代に生きた女の夢だったようだ。持病はこれもはっきりしないが(その子が打ち明けないのと、こちら側から聞けないのとで)、何か眠ってしまう奇病の様(よう)であり、俺が病院に居た頃から俺の格好の悪い弱みを知り、又その弱みを見せた時に彼女は俺の事を好きに成ってくれた。俺の格好悪い所を見て、

「○○ちゃんのそこが好き」

と言うのが口癖と言うか、彼女の性質から生れる必然的な行為とでも言おうか、彼女の持質(じしつ)のようで、俺はそれだから何時(いつ)ものように又、彼女に嫌われないようにと、演技に夢中に成って行った。俺は病院に居たと思えば、家に居た。又、元職場でほぼ同年であった肥えた青髭男と共に働く元職場に居て、そこで周囲(まわり)に群がる他人も一緒に働いて居た。そこには、希薄な人望を売りにした、俺の嫌いな上司も居り、昼食時、俺が手伝いの様(よう)に皆に御飯をよそおい盛り付けて行くと、最後の二人分に一人分しか無くて足らず、それは青髭男の「んー…あと二人かな」の声で分った事だった。俺が新人ぽく〝どうしよう〟と焦って居る時、希薄な上司が、〝こう言う時は〟と微笑を浮べて、小さいが纏まるお握りを作り出し、それを又小さい器に入れ出して、御飯が少なくないように見せる工夫をして見せた。しかし何分(なにぶん)元の御飯の量が少なく、お握り作戦でも御飯はとても貧相に見えた。

「あー、うーん、失敗やなぁ~」

と三人して笑って居た。

      *

 白室(へや)と幻(ゆめ)との無謬の隙間に俺と女性(おんな)の露影(ろえい)が顕れ、居ても立っても狂い咲きする現代人(ひと)の労苦に嫌気が差す内、彼女の目下(ふもと)に概(おお)きく見上げた欲の気色に堪能して居る。堪能して居る俺の背後はまったり暗がり、光明(あかり)の尽きせぬ夜半(よわ)の包味(つつみ)が仄かに上澄み俺を凌いで、彼女の体力(ちから)を全うして行く幻(ゆめ)の遠差(とおさ)に真髄を得て、御堂に盛(さか)える滑稽(おかし)な曲技(きょくぎ)を二手(ふたて)に分れて丈夫する儘、俺と女性(おんな)の〝危(あぶ)なの夢想(ゆめ)〟には日常(ひごろ)の盲目(ひとみ)に想い付かない光明(あかり)の極地が見え隠れをする。彼女(おんな)の居所(いどこ)は俺に隠れて移動をするが、如何(どう)でも気色を隠し切れない微弱(よわ)い官能(ちから)を頂戴する儘、上手く問えない〝奈落〟の神秘に活歩(かつほ)する内、次第に失(き)えない欲の空慮(くうりょ)が詩吟を奏でて、愛にも咲かない悪にも咲けない未完(みじゅく)の感覚(いしき)を〝上手〟にした儘、俺に奏でる二つの詩(うた)には倣いの〝魅惑〟が官能(オルガ)を識(し)った。彼女(おんな)の艶体(からだ)は百足の態(てい)して、百の蛇足を軽く着流し、白室(へや)の温度が熱にも冷(れい)にも掴み損ねる不断の景色を保(たも)つ内にて、俺の孤独は彼女(おんな)を欲しがり葛藤して活き、そうした処へ彼女(おんな)の〝化け〟から器用に剥がれた「現実描写」の肢体が在るから肉も空(くう)にも余程小波(さざ)めく恋波(れんぱ)が整い、慌てふためき、彼女(おんな)の意識を背負える俺には彼女(おんな)の爪から空(くう)に流行(なが)れる我執を撮める我毒(がどく)を報され、現行(いま)の経過を計り損ねた〝魅惑〟の脆差(もろさ)がごとこと鳴った。

 至純(しじゅん)を極める彼女(おんな)の感覚(いしき)は俺へと歯向かい、俺に纏わる未完(みじゅく)の恋慕が暗(やみ)の宙(そら)にて安定する内、独我(どくが)を識(し)り抜く彼女(おんな)の欠片(かげり)は俺の欲芽(よくめ)を無謀にも摘み、初めから無い滑稽(おかし)な〝曲技(きょくぎ)〟を孤踊(ことう)の〝旧巣(ふるす)〟へ返して行った。俺の精神(こころ)に膨(おお)きく拡がる〝無視〟を眼(め)にした虚構の摂理は、律儀に反して早々根深く、酷く慌てて悶絶して生く彼女(かのじょ)の孤独を頂戴する儘、暗(やみ)の遠方(かなた)へ消えて失くなる夢想の触手を数本保(も)った。そうした〝手先〟の〝数本〟から観て、彼女(おんな)の肢体(からだ)は硬さを貫く百足の擬態(かたち)を膨(おお)きくするまま男性(おとこ)の空想(おもい)を畳み喰え得る能力(ちから)の愛撫を量産して活き、苦労を知らない現代人(ひと)の焦苦(しょうく)を〝門前払い〟に屈服している。無駄な擬態(かたち)が逆行(あともどり)の無い「生き交う身近(ちまた)」を横行する内、如何(どう)とも言えない無益の辛苦が男性(おとこ)の生命(いのち)を把握し損ね、明日(あす)へ繋がる〝現行(いま)〟の余韻(はこび)を誘って落ち着き、嫌い始める女性(おんな)の息吹は男性(おとこ)の生体(からだ)を上手に認(したた)め、透明箱(ガラスケース)にぽつんと佇む個人(ひと)の宮(みやこ)を揚々観て居る。世紀の末(すえ)へと人間(ひと)の延命(いのち)が混迷する内「白い密室(へや)」には俺の彼女(おんな)が路頭に彷徨い、活き続ける為、何処(どこ)を如何(どう)して独歩(ある)いて生くのか、遠慮を計らい遠くの基地まで〝堂々巡りの順路〟を採る内、独創(こごと)を認(したた)め煩悶して生く俺に隠れた旧い〝恋慕〟は、彼女(おんな)の身軽を余程に乞うた。

      *

 又、病院のベッドの上で寝て居た。耳朶や額など、何か顔の辺り・周りが誰かに触られさわさわするのでふっと目覚めた。すると、とても可愛い白衣の天使のようであるも少々歳を重ねた小母さん看護婦が現れ(歳の頃、三十から四十歳位)、その肌の白さに俺は驚いた。肉付きの好い、純情可憐の娘のようで、体躯は艶(あで)に輝き大きいが、大躯(からだ)の中味は幼女(こども)の様(よう)で、何処(どこ)やら哀しく清潔感在り、俺の様子を好いてもあった。俺の知人の既婚女性に似ていたが、何処(どこ)かその辺に居る別人の様子で、その人はまるで、俺の彼女に成ってくれるであろうあの彼女よりも可愛らしく、美しく、つい好きに成りそうであった。と言うか、彼女とその年増の看護婦の区別が付き辛くなっていた自分が居た。俺が目覚めると、にこっと笑って看護婦は、まるで英雄漫画(ヒーローまんが)の中で看護婦がヒーローに話し掛けるような雰囲気を以て俺に話し掛け、俺は調子に乗り掛けた。嬉しかったのだ。でも自分が何の病気でそこに居るのか分らなかった。俺はまるで家から学校、或いは、何処(どこ)かのキャンプ地・宿泊地から学校へ行くように、当り前にそこから看護婦に見送られて出て行こうとしている。しかしその場面は一瞬で消え、次には看護婦が変っており、俺達は、周囲の目に支えられて守られて、漸く結婚に迄辿り着けそうであった。

「ああ、こんなものか…」

と俺は結婚をする人達の通(とお)った後に残った余韻を味わった。しかし彼女の持病が良くない。悪化しているのか否かさえも、彼女が明かさないから分らなく、唯、軽そうには見えず、日に日にその病状は悪く成ってるように見えた。前までは唯、急に眠り出し、振っても起きないといった状態だったのだが、段々眠っている最中(さなか)に「うーん、うーん…」と脂汗のようなものを光らせて苦しむようになった。しかし彼女の病名が分らない。彼女は教えず、周りも何故(なぜ)か彼女の症状を聞こうともしなければ、譬え知って居ても俺には教えない、と言った姿勢を持って居た。

      *

 開眼して行く夜半(よわ)の空間(すきま)に居れと彼女の温床(ねどこ)は吊るされ、不意の経過に視線を保(たも)たれ、安い言動(うごき)は俺から始まり、彼女の孤独は益々膨らみ加減を識(し)らない。安い長者(ちょうじゃ)の憤悶(ふんもん)から観て、彼女と俺との険しい「表情(かお)」した朝の温床(とりで)は、傍(はた)から観られて整う最中(さなか)に男・女(だんじょ)の孤独は俺の白室(へや)からどんどん離れて、俺の前方(まえ)から未来(さき)へ活き得る拙い「翳り」を男・女(だんじょ)に灯し、男女(だんじょ)の空間(すきま)は烏有に帰(き)せ得る立派な文句を認(したた)め始める。〝合せ鏡〟で果(さ)きを読み取る鬱通(うつつ)を抜かせる止揚の成りには、女性(おんな)の温度を底から介せる稀有の空転(まろび)が此処彼処にあり、俺の背後に突っ立つ人陰(かげ)から微温(ぬく)い主情(あるじ)が幻想(ゆめ)を観る時、不思議と成れない神秘(しんぴ)の哀れが無口を装い男性(おとこ)に呼び掛け、「果(さ)きへ、果(さ)きへ…」と旅の温味(ぬるみ)を脇へ置き遣る強靭(つよ)い樞(ひみつ)の煩悩(なやみ)を識(し)った。彼女(おんな)と俺との〝相槌〟から成る白い密室(へや)での逆さの「曲技」は、擬態を識(し)る内〝意味〟を棄て置き、二局(ふたり)の生歴(きおく)が暗夜(やみよ)に行き擦(ず)る泡(あぶく)と成るのを遠目に観ながら、二人の背後(うしろ)の人の陰から幻(ゆめ)を連れ添い私闘に観る内、順繰り順繰りけたたましく鳴る浮遊の孤踊(ダンス)を愉しみながらも、男性(おとこ)と女性(おんな)の二局(にきょく)の哀れが思惟の行方に観得なくなるのは、俺と彼女(かのじょ)の煩悩(なやみ)の内(なか)では不意の仕草へ相対(あいたい)して行く孤独の恋慕に相違無かった。〝意味〟を成し得る無機を呈した「孤独の恋慕」は、女性(おんな)の初歩(いろは)を手探りながらも、男性(おとこ)の〝孤独〟へ背後を報せる夢遊の酒宴(うたげ)を催し始めて、逢瀬の届かぬ未知の空間(すきま)に二人の精神(こころ)が戸惑いながらも、行く先見果てぬ細(ちい)さな欠片(かけら)は男女の胸面(むなも)に暖かかった。女性(おんな)に翻(かえ)らぬ無為の文句(ことば)の斜面の奥義(おく)から、困り損ねる宙(そら)の撓(たわ)みが熱の帯びるを得意として果て、二人を習わす細(ちい)さな経歴(きおく)の一部始終には、黄泉が果てない「異国の進化」が縦猛(じゅうもう)して居た。男性(おとこ)と女性(おんな)の人生(ならい)の果てには未だ翻(かえ)らぬ無憶(むおく)の集大成(シグマ)が激高しており〝果て〟の見得ない人間(ひと)の生(せい)への進歩の相性(さが)には、精神(こころ)と思惑(こころ)が一致を識(し)らない無為の胸裏が見えて隠れて、慌て損ねる淡白(しろ)い習癖(ドグマ)は霹靂(ひび)へ付け入る気力さえ無く、男女の集える〝土手〟の上での孤踊(ことう)の言動(うごき)を大袈裟に観た。

 彼女が独歩(ある)ける純白(しろ)い芽をした人間(ひと)の人道(みち)には、掴めぬ〝気力〟が宙(ちゅう)を忘れて露呈して在り、望む全てを煩悩(なやみ)に翻(かえ)せる遠い浮世の筋立(ものがたり)を見て、慌て損ねた信心(こころ)の自活(かて)へは何も問えずの愚問がのさばり、宙(そら)に問えぬは自己(おのれ)の足場が未だ鎮まぬ常識(かたち)を保(も)つゆえ晴れ間に在らぬと、嘆き方にも作法を纏わぬ旧い知識が愚問を操る。〝無駄〟を介する個人(ひと)の生命(いのち)は従順ながらに、男女(だんじょ)の幼い躰を象る温味(ねつ)の傍(そば)から、延命(いのち)の行方が俗世(このよ)に発せぬ多忙の感覚(いしき)を上手(じょうず)に詠み取り、明日(あす)の目的(さかな)が宙(そら)へ吊るされ腐乱するのを、細(ちい)さな目下(ふもと)に何度も観て来た苦労の感嘆(なげき)と心得始める。行き果(さ)き識(し)れずの現代人(ひと)の余命(いのち)は、孤高を分け保(も)ち「昨日」を夢見た。………、

      *

 彼女と、第四小学校からの帰り道(丁度長く険しい坂を下りてT字路に差し掛かり、これから安居塚の住宅地に入ろうとする辺り)で、俺と一緒に歩いて居た彼女は倒れて仕舞った。又、「う~ん、う~ん…」と言いながら、額と頬に脂汗のような光が灯っている。何故(なぜ)か急に大勢が出て来て、俺達の、いや彼女の周りに集まって来て、彼女の介抱・救助に働き始めた。中には医者も居た。初めは緑色した護謨製の担架で彼女を運ぼうとしたが如何(どう)にも危なっかしく、又途端に〝日航機墜落事故時のぐるぐる廻る担架から落ちそうだった彼女〟の事等を思い出し、

「待って下さい!俺が運びます、俺が運びますから行く先を教えて、ナビゲートして下さい!」

と啖呵を切って彼等を勢い付いた姿勢により諭し、その勢いに乗じた人々で上手く俺達の周囲は固められて、俺が彼女を担ぐ事に成った。お姫様抱っこをして項垂れた彼女を持ち上げた時、彼女の裏腿の感触が真新しく俺の欲情を揺さぶった。

      *

 実際何が在ったかはっきりせず内、宙(そら)の流れは速水を表し、堂々巡りの彼女と俺との軌跡の経過は、他人を介せず凡庸に在る。俺の心身(からだ)は宙(そら)に浮き過ぎ、幾多の無意味を報され続けて、初めから無い虚構の呼笛(あいず)に躰を呼ばせて呼応している。彼女の言動(うごき)は他(ひと)の前方(まえ)にてぴよりと止んで、俺の孤独と相対(あいたい)する内、他(ひと)の孤独に想いを迷わせ、何も言えない未完(みじゅく)の実りを幻(ゆめ)の経過へ委託した儘、自分は自分の温床(ねどこ)に籠れる無適(むてき)の呼笛(あいず)を聴き続けて居る。俺に流行(なが)れる〝彼女の呼笛(あいず)〟は宙(そら)の彼方へ遊泳(およ)いで行って、現行(いま)に根付ける坂から見得ない宙(そら)の背後(はいご)を映して在った。彼女と俺との縮まぬ定めの平行線には、男性(おとこ)に生れた幻(ゆめ)を見知らぬ一つの救いが談合を識(し)り、行く手を阻めぬ熱い経過は俺に対する官能(オルガ)の宿りが貌(かお)を化(か)えずに沈黙して在り、彼女の膣奥(おく)から這い出て失(け)されぬ女性(おんな)の臓音(おと)など散乱して居た。俺へ対した女性(おんな)の〝宿り〟の宙(そら)の許容(うち)から、黒味(くろみ)を帯び得る二触(にしょく)の手巻(てまき)が坂へと降ろされ、女性(おんな)の躰の樞(ひみつ)が解(と)け生く神秘(ふしぎ)の情念(おもい)が転々(ころころ)空転(ころ)がり、他(ひと)の〝伝手〟にて罵言(ばげん)に寄り添う男性(おとこ)の憂慮は「負け惜しみ」を識(し)り、二局(ふたつ)に分れた男性(おとこ)と女性(おんな)の無為の軌跡は、何処(どこ)にも無いまま宙(ちゅう)へ還れる〝未完(みかん)の主観(あるじ)〟を検討している。慌てふためく〝二局(にきょく)〟に分れた独創(こごと)の呼笛(あいず)は、俺の背後へぴたりとくっ付き、女性(おんな)の〝無為〟から端正(きれい)に流行(なが)れる〝牛歩の直観(あるじ)に指導を宜しき用意〟に乞われて、古豪に尋ねる恋慕の脚(あし)には女性(おんな)の性差が纏わりながらも男性(おとこ)の幻想見(ゆめみ)る頑(かた)い旋律(しらべ)が先行して活き、「明日(あす)」の感覚(いしき)へ架かった女体(からだ)は、遠くの実(み)を観ず近くの芽を採る、余程の気力に苛まれている。暗(くら)い夜道を渡る頃には「坂」の麓は闇に転々(ころ)がり、奇妙に静まる寝息の手数(かず)には、女性(おんな)から観る男性(おとこ)の生気が見知らぬ独気(オーラ)をどっさり携え、無効の女性(おんな)の軟い夢には〝理想〟が咲かずにどんよりしていた。

 無機に従順(したが)う孤狼(ころう)の態(てい)した煩悶鼠(はんもんねずみ)は瞬間(とき)を見知らぬ〝気怠さ〟にも萎え、弓張(ゆみはり)にも似た男性(おとこ)の張り出す一方径(いっぽうけい)から女性(おんな)の胸面(むなも)に張った房(ふさ)へは、他(ひと)に見得ない〝気取れぬ文明(あかり)〟が常盤に照(しょう)され永々(えいえい)成って、男性(おとこ)と女性(おんな)が〝生(せい)〟の水面(みなも)へ辿り着くのは暗い最中(さなか)の行儀の最中(さなか)に不意と吸われた乳房であった。紺(あお)い人絆(きずな)は旧宮(こと)の寝間へも順風(かぜ)が吹き抜け、「昨日・明日(きのうあした)」の行方識(ゆくえし)れずが延命(いのち)を語らず黙しているのと、何ら化(か)わらぬ黄泉の共鳴(なげき)を見舞う最中(さなか)に一つの負傷(けが)さえ忘れぬ姿勢(すがた)は個人(ひと)の呼気(こき)へと還って逝った。見る見る煌(かが)やく無数の延命(いのち)は「宙(そら)」から現れ、彼女を取り巻く固有の気色は懶惰を伴い余所へ移って、俺と男性(おとこ)に堕ちる態度(すがた)は三文芝居の冥利に耐え抜く気力の傍(そば)にて微睡(ねむ)って在った。文句(ことば)を貫く黄泉の陰から〝堂々巡りの睡魔(ねむり)〟が蹴上がり、何も問えずの世間の白壁(かべ)には、女性(おんな)の表情(かお)から端麗(きれい)に仕上がる「奈落の夜路(よみち)」が見え隠れいた。口から零れる文句(ことば)の限りに彼女を愛した俺の脆さは肢体(からだ)を牛耳り、肢体(からだ)を保(も)てない女性(おんな)の夜気(よぎ)には男性(おとこ)に対した軽蔑が在り、俺の未完(みじゅく)は〝生(せい)〟に対して躊躇(あしぶみ)をして、野分立ち足る初秋(あき)の定めへ落胆している。俺の表情(かお)には女性(おんな)の側(がわ)から決して見取れぬ不夜(ふや)に交れる関係(かかわり)が在り、ちっぽけながら手長が表(ひょう)する〝浮き〟の形成(かたち)をその掌(て)にして居た。俺の「彼女」は何処(どこ)へ行くにも額(ひたい)に汗した〝小人(こびと)〟の体裁(かたち)を偽りながら、現代人(ひと)の内実(なかみ)へ決して沿(そぐ)えぬ俺の〝定め〟を啓示していた。潔白(しろ)い石壁(かべ)には青空(そら)を想わす反射が亘り、人間(ひと)の上気(こころ)の〝波〟の間(ま)に間(ま)に、二女(おとめ)を見限る姑息が波(わた)り、到底付かない俗世(このよ)の返応(こたえ)は前方に立ち、俺と彼女の二局(ふたつ)が囀る一連(ドラマ)の果てには、誰にも何にも決して問えない不惑(ふわく)の挽歌が最初に突き出た。無暗矢鱈に彼女の表情(かお)には不毛が飛び交い、不安を挫ける人間(ひと)の卑屈は何時(いつ)まで経ってもその実(み)を立てずに、女性(おんな)の調子に合わせ損ねる「俺」と「彼女」の上気(じょうき)の〝波(なみ)〟には、端麗(きれい)に咲けない現代人(ひと)に埋(うず)もる〝手持ち無沙汰〟が、金の幾らに変身出来ずに駄弁を這い擦(ず)り器用に鳴いた。小物入(ポケット)には無い「青空(そら)」を突き貫(ぬ)く神秘(ふしぎ)のtool(どうぐ)は、横文字から観て彼女に似合わず、初めから在る空虚に佇む果(さ)きの未来には、俗世(このよ)の女性(おんな)が遣って来るのを〝向き〟を従え待機出来ない俺の正味が活き活きして居る………。幻想(ゆめ)の滅びる分厚い〝杜〟には至極抜かれた生気が翻(かえ)り、俺の孤独が彼女の体内(からだ)を遊泳(およ)いで生くまで、猪突の経過を惨事に捉えて躍進を為し、翻(かえ)る両眼(まなこ)は宙(ちゅう)に与せず朗笑するのを微吟(びぎん)として居り、俺の心身(からだ)が生長するのを俗世(このよ)に認める哀れを呈せる夜目(よめ)の眼内(うち)での暗躍と見て、始まりから無い無想の成果(あたり)を純情にした。女性(おんな)の灯(あかり)は丸い躰に男性(おとこ)を宿させ、夜行している真昼(まひる)の長さは順曲(じゅんきょく)して生く四方(しほう)へ延び生き俗世(このよ)の形成(かたち)を常識(かたち)に識(し)れない不毛の準備を概(おお)きくして居る。男性(おとこ)の大口(くち)から熱泥(まぐま)色した疾走(はしり)が蹴上がり、女性(おんな)の局(きょく)には女芯(にょしん)に沿(そぐ)わぬ未知の独気(オーラ)が次第に横たえ、純白(しろ)い貌(かお)には夜気(よぎ)に敗け得ぬ〝不毛の明かり〟が宙(ちゅう)を飛び交い、飛び交い続ける二局(にきょく)の一連(ドラマ)は男性(おとこ)の表情(かお)から決して漏れない強靭(つよ)い間延びが真昼に発(た)った。女性(おんな)の常識(かたち)は俗世(このよ)の過去から充分挙がれる軟い女気(めぎ)にもほとほと満たずに、坂の麓に小(ひそ)かに上がれる満月(つき)の斜光(ひかり)に脚力(ちから)を観ていた。環境(まわり)の〝稚拙〟に充分萎(しな)びた姿勢(しせい)の陰から、俗世(このよ)の現代人(ひと)には何も解(げ)せない盲唖(もうあ)が立ち活き、固陋を呈する俺に操(と)られた淡い惨事は、俗世(このよ)の身元を誰にも示せぬ豊穣(ゆたか)な真理を充分睨(ね)め取り、明日(あす)の行方が一向知らない無適(むてき)の〝球体(オズマ)〟を微かに抱(だ)いた。

      *

 その時まで、俺と彼女は、実はやや喧嘩をしており、言えば、付き合う最中(さなか)に大抵のカップルに起こるような〝確かめ合う為の儀式〟が俺達にも訪れていた訳であり、俺はそれが原因で別れるなんて思っちゃいない。彼女もきっとそうだった。しかし俺は、彼女の病気を知らない上に、彼女名前も知らなかった。「道下(みちした)…、いや竹下(たけした)、…遥…」、色々思い出そうとするが上手く行かず、結局彼女に聞く事になり、彼女はこれまで笑って胡麻化した。けれど、俺に抱かれながら、死んで居なくなるかも知れない間際に来ると、彼女の目の色は今まで一層強く光り、

「ま…めあ…、…、…、もあ…」

 必死に言いたげにするが全く要を得ない。仕方が無いのでそのまま名前を知らずにとにかく病室へ彼女を入れようと、やや俺達を誘導してくれる周囲の人々に連れられて俺は忙しく歩いて行く。彼女は以前、俺が彼女の名前を覚えていなかったのが理由で怒ったような態度を取った事があった。俺は、初めの内は彼女の事を、唯言い寄って来る、結局は腰掛け程度であろう女くらいにしか見ていなかったが、次第に情(じょう)が移り、好きになっていた。

      *

 文句(ことば)の多くが心に溢れて白紙から漏れ、自分の正義を貫けないまま女性(おんな)の貌(かお)見て吟笑(わら)っているのに「自分の不様」を滑稽(おか)しく笑える苦笑の水面(みなも)の波紋を識(し)りつつ、苦労症から脱却出来ない無為の運命(はこび)を認識する内、女性(おんな)に問えない男性(おとこ)を自然(あるじ)の宙(そら)を幻見(ゆめみ)る泡(あぶく)の情事を叫んであった。女性(おんな)の掌(て)に成る非常の純(もと)成る生気の本中(うず)には、血赤(ちあか)い血流(ルート)が経過(ながれ)を異にして幻想(ゆめ)を空転(ころ)がり、〝泡(あぶく)〟を着飾る端世(はよ)の縁(ふち)へは人間(ひと)が立てずに、鹿鳴から観た微(よわ)い感覚(いしき)が宙(そら)を目掛けてすっと昇った。幻路(ゆめじ)の重なる黄泉の自主(あるじ)は幻想しており、拙く生転(ころ)がる人間(ひと)の小口(くち)から活気が凌げる猟奇の夢魔(むま)から血相が在り、人間(ひと)の凌げる欲芽(よくめ)を費やす〝物の怪道(もののけみち)〟には、文句(ことば)の翻(かえ)りが孤軍を識(し)らない無極の境羅(きょうら)に追従(ついしょう)していた。〝死〟への恐怖を片手に挙げつつ軽視し得ない幻(ゆめ)にも語れぬ無憶の自主(あるじ)は、人間(ひと)に遍く血相から成る無憶の長寿に自己(おのれ)を識(し)り抜き、自己(おのれ)の独歩(あゆ)めぬ奈落の道理を孤軍を従え平定した儘、「明日(あす)」を生き得る無憶の長寿と連命(連盟)しながら、純(うぶ)の利かない微細(よわ)い旋律(しらべ)に阿修羅と闘い奮闘していた。周囲(まわり)に集った現代人(ひと)から出て来た誰も彼もが、男女を問わずに失脚して活き(疾走して活き)、清閑(しずか)な間延びが俺の身元(もと)へと順々に生き、微細(かすか)な生命(いのち)も現代人(ひと)には宿らず、他人顔した孤独な奴等は遥か遠くへ消滅していた。微細(かすか)な宙光(ひかり)が膨(おお)きく生育(そだ)てる暗間(やみま)へ拡がり、多くを語った知己の姿勢(すがた)も、皆(みんな)纏めて一塊(いっかい)として、〝坂〟から届かぬ無為の彼方へ膨(おお)きく生転(ころ)がり呼気(こき)を重ねて、俺に観えない無表(むひょう)の暗闇(かなた)へ、永久(とわ)に殺(ほふ)られ存在(すがた)を消した。消失して活(い)く現代人(ひと)の独気(オーラ)は術(すべ)を選べず、稚拙な規矩への展望(のぞみ)を識(し)るまま減退して行き、減生(げんせい)して生く有機体(からだ)の重味(おもみ)は宙(そら)へ棄(な)げられ、生きる最中(さなか)に無機を呈せる盲唖(もうあ)を眺めて一介と成る。〝無人の季節〟が人間(あいだ)を空転(ころ)がり強張を観て、〝無為〟に識(し)られぬ個人(ひと)の欠伸は間延びに活き得る人間(じんかん)を観て、キリスト教徒の本意の背後(うしろ)に、他(ひと)に呟(かた)れぬ微弱(よわ)い共鳴(さけび)が〝生(せい)〟を捌ける言動(うごき)を観て居た。幻想(ゆめ)の旅路を遥か夢見て何時(いつ)に築ける〝行李〟の孤独は現(うつつ)に漏れ生き、渡海を重ねる冬の旅路は盲唖を嫌って幻(ゆめ)へと駆け落ち、孤高の無頼に沈着している喜怒の主情(あるじ)を誘導して居た。誘導してゆく白紙の水面(もと)には女性(おんな)の生味(しょうみ)が無限に解(かい)せる一方独自(いっぽうどくじ)の解釈が在り、憂いを保てる男性(おとこ)の身元は宙(そら)に介せる悪事を想い、初めから無い原罪(つみ)の柵(からみ)を私用の足しにと豪語している。男性(おとこ)の裸体(からだ)は女性(おんな)の気性の乱駄馬(あばずれ)から観て、孤独を失(け)せない漆黒(くろ)い上気を鵜呑みにしており、男性(おとこ)と女性(おんな)の自宙(そら)の彼方(はて)から無言に帰(き)せ得る症候群(シンドローム)を、その掌(て)に納めて朗笑しながら、浅い微睡(ねむり)に順応して生く純白(しろ)の持宙(かぶと)を装備している。夢中に慣れない女性(おんな)の絡身(からみ)の猛進撃には馬鹿に見立てる男性(おとこ)の行動跡(なごり)の猥極(わいきょく)が発(た)ち、蒸発して生く無頼の音叉は女に魂消て、男性(おとこ)の無口を対照させ得る端正(きれい)な孤独を万能にした。

      *

 俺が自宅で、母のベッドに寝て、母の日記を見て居た。母が目前に居て、父も母の着衣の手伝いかなんかして一緒に居るのに、俺は〝母〟に隠れて〝母の日記をそろ~りと読んでいた。ばれなかったようだ。父に対してはどうか知らないが。母は、普段見る母よりも痩せて、顎や肩のラインがより美しく付いて、恰好良く成って居た。何か、別人の様(よう)であり、流行を追える若いママ友のようであった。俺は、何時(いつ)の間にかそんな風に変貌した母に体裁を繕い、又、ドラマの主人公の様(よう)な言動をし始めた。そんな時に彼女の話題が上った。

「あのベランダの彼女やったら、裕司に良いかも」と母。

「いや、あの子は緊(きつ)いやろう」と父。

 如何(どう)とも取れない会話を二人がしているのを傍(そば)で聞いている内に、彼女が俺の部屋なのか、二階から、俺達が居る階下まで下りて来た。その頃の彼女は、以前働いて居た職場で出会った、俺を苛つかせた手足の奇麗な白銀少女に似ていた。白銀少女(こいつ)は自分の周囲(まわり)が多忙になると軽いパニックを引き起こし、相手が誰であっても他人(ひと)の気を読めないのである。又、男に対して妙な劣等感と競争心さえ保(も)って居た。彼女は結局、態度でしか気持ちを表さず、俺の欠点だけ愛してくれた様(よう)だった。

      *

 想像音(そうぞうおん)しか鳴らない夢下(ふもと)で俺に突き出た外界(そと)の張りから、彼女の凄味(すごみ)がかなり分厚く〝手微温(てぬる)い仕種〟に涼風(かぜ)を付かせて猛省して居り、俺が居座る白紙の陰からどんどん出て生く活気の身元は、億尾に出せない棕櫚の生味(しょうみ)を俺に仕上げて後退して行く。明日(あす)の果てには主情(あるじ)に尽きない独歩が在って、生気を成さない俺の自活(かて)には緩い記憶が散行(さんこう)しながら、無為の奥義(おく)には彼女が来るのを揚々待てない俺の〝男性(おとこ)〟が概(おお)きく居座り、彼女の眼下(ふもと)を膨(おお)きく見上げる俺に彩(と)られた孤独の〝土手(おか)〟には、無限(かぎり)の観得ない旧い美識(びしき)が端麗(きれい)な〝彼女〟を独学して生く古い独気(オーラ)が余裕に成り立つ。慌てふためく彼女の霊気(れいき)は外界(そと)の冷気に次第に蹴上がり、身内(うち)と身外(そと)との無限(むげん)の狭間を遊覧しながら、決して失(き)えない悪意の様子を俺に仕立ててするりと跳んだ。紺(あお)い目尻は彼女の両眼(まなこ)を脚色して居り、俺の感覚(いしき)に鈍(どん)と蔓延る湯気を挙げ生く上気の身元(ふもと)は俺と彼女の二重を示し、成人(おとな)に成らない幼児(こども)の創力(ちから)を概(おお)きく活かして、現行(いま)に保(も)てない現代人(ひと)の稚拙の不動の意識は才(さい)に介して一向変らず、無能の気運(はこび)に解(と)け入(い)る最中(さなか)に、自滅の孤独を愛して在った。生きる屍(かばね)は紺(あお)い宙(そら)にて自由に跳び活き、彼女の呈する柔弱(やわ)い微笑顔(えがお)の黒目(ひとみ)の奥には、現代人(ひと)の姿勢(すがた)が児童(こども)の海馬へその実(み)を寄せられ自在に〝死〟に活(い)く一方通路を外界(そと)の〝経歴(きおく)〟に換算しながら、淡い夢路(たびじ)を終える最中(さなか)に隠遁して行く〝無頼の寄宿舎(ひとり)〟を写して在った。文句(ことば)の白壁(かべ)には彼女を失(け)せない無想の碑が在る。幻想(ゆめ)の翳りは〝彼女〟の生歴(きおく)を不断にする内、決して醒めない男性(おとこ)の両眼(まなこ)の理想を観て居る。現代人(ひと)の退化へ付き添う〝幼児(ようじ)〟は「彼女」から観る〝無想の途切れ〟に破談を予知する天下の理摂(りせつ)を推挙しながら、白亜の空壁(かべ)から〝傀儡(どうぐ)〟を採り出す無為の記憶を等閑にした。幻(ゆめ)の足元(もと)から寝間を擦(す)り抜け辿った宙(そら)には、膨(おお)きく寝そべる彼女の態度(かたち)が徒労を擦り抜け美飾(びしょく)を携え、俺の身内(うち)から夜気(よぎ)を吸い出す多くの過失を随行させ活き、端麗(きれい)に群がる〝樋の季節〟は、億尾に倣えぬ未完(みじゅく)を保(も)たされ、明るい間際に夢が暮れ行く禿冠(かむろ)の内実(なかみ)を欲して在った。幼い遊気(ゆうぎ)にしばしば成り立つ〝彼女〟の容姿(すがた)は盛んに在って、気性の激しい「彼女」の様子は他(ひと)の困惑(まよい)を冷ます内にも、脆弱(よわ)い孤独を上手に射止める柔(じゅう)の文句(ことば)の観音を識(し)り、個人(ひと)に根付ける恋の郷(さと)には夢の迷いの官能が在る。男性(おとこ)の乳房を悩殺して生く〝彼女〟の好意の小口(くち)の開きは、俺の目下(もと)から端正(きれい)に片付く幻(ゆめ)の仕舞(しまい)を上手に見付け、苦労を知らない男性(おとこ)の共鳴(なげき)に、旧巣(ふるす)を打ち立て奇麗に去った。

      *

 彼女の名前が誰か分らないので、いや、顔をはっきり覚えているので卒業アルバムを見れば即座に判るのだが面倒臭くてせず、取り敢えず彼女の事を今は「ベランダの彼女」と呼ぶ事にした。「お別れだ。俗に生き得る全ての哀れに……。―」



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~ベランダの彼女~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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