嘘つき、自らを裁く

天川裕司

嘘つき、自らを裁く

タイトル:嘘つき、自らを裁く


私は嘘をつくのがうまい。

やったことでも「やってない」と言い通せる。

そしてこの特技は、私のその後の人生を大きく変えた。


(子供時代)


母「ミヨちゃん、ここに置いてたお菓子食べた?」


「ううん食べてないよ」


母「変ねぇ。お客様に出すようにって取っといたのに」


友達「ミヨちゃん、僕の給食とったろ!?」


「取ってないよ!そんな事するはずないじゃん」


友達「うそつき!」


(働き始めて)


上司「このミスをしでかしたのはお前か!」


「私じゃありません。加藤さんです」


同僚「あんた、私のお金とった?」


「取ってないよ。そんな事するはずないじゃん」


部下「ミヨさん、私の彼氏タブラかして、寝取ったでしょ!?」


「そんな事しないよ。するわけないじゃん」


全部、裏返し。

私はそのたび嘘をつき、全ての人を騙して

私の言うことだけを押し通し、

それを結局は周りの人に信じさせてきた。


我ながら、よくやってきたと思う。


「嘘も方便」とはよく言うが、

生活ツールの1つに使う上ではその方便を超え、

ある種の自分の人生の成功へと導くものだ。


なんでも1つの事をやり通せば、その人はその1つの事に卓越し、

その道の大家(たいか)、達人、仙人、マスター、

あるいは歴史的に有名な人にまで成れてしまう。


いま世界に蔓延っているあの独裁者たちを見れば良い。

彼らの周りも内実も、嘘ばかりで固められている。

そこに付け入る隙は無く、それに力を持てば、

その嘘を押し通せる世界の覇者にまでなれるのだ。


私はその事を、およそ幼児の頃から知っていた。

おそらく生まれながらにし、この道を歩むよう

定められていたのだろうか。


そしてその嘘の延長は、一般に見て、

取り返しのつかないスタートラインを切ってしまった。


(殺人)


「……やっちゃったか」


それでも約1名、私の嘘をしつこく暴こうとした

男がいて、そいつと私は付き合ながら

些細なことでまた口論になり、結局、感情の末、

その人の懐に入ってヤッてしまった。


でも私は嘘をつく天才。

結局この人も私の嘘を最後まで暴くことができず、

苦労の末に亡くなった。


「やめとけばよかったのにねぇ…」


私は即席のアリバイを作り、あとは口八丁手八丁、

女の武器を最大限に活用しながら

少なくとも周りの者達だけにはこの嘘を暴かれない、

そんな牙城を作り上げた。

嘘を守る場合、身の周りの者を黙らせておくだけで良い。

遠くの人は我関せずで近づこうともせず、

そのまま生涯を終えてくれる。


(オチ)


でもある日のことだった。

その遠くから1人の人がやってきて、

私の嘘を暴いてしまったのだ。


「は?何言ってんのあんた?証拠でもあるんですか?」


とりあえず反抗してみた。するとその人は…


達人「そこにある」


と私の胸あたりを指差して、冷静に言ってきた。

その途端、私は体裁を崩してしまい、

何故かわからないけど、自分の罪を全部告白していた。


「な…なんで、なんであたし…」


これまでの罪も全部告白してしまった私。

その人はボイスレコーダーを懐にしまい、

小さなミクロ型のビデオカメラも飛ばしていた事から、

私がそこで告白した事は

やがて世間の知れるところになってしまった。


そして私は罪状通りに捕まってしまい、

それなりの刑罰を受ける身にある。


思えばあの人は、私の分身…?

まるで私の中身を知っていたから、

それを感じ取った私は即席の抵抗しかできず、

内心では自分の罪をすでに認めていたのだ。


おそらくこうなった人にしか

わからない事かもしれない。

私を初めて裁いたその人は

草場達人(くさば たつひと)と言ったが、

私を裁くために必要なことをした後、

2度と誰の前にも姿を見せないでいた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=6rvL2bkuWZc

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嘘つき、自らを裁く 天川裕司 @tenkawayuji

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