ちょ、待てーっ!? 隣の席の転校生、久し振りにこの街に戻って来たみたいだが、こいつ小学生の時スカート穿いてなかったか?

なつめx2

第1話 疑惑の『極太のマッキー』

 今日、俺のクラスにやってきた転校生の柊木ひいらぎ 柚葉ゆずはは、どうやら昔この街に住んでいたみたいだ。そして、多分だが小学生の頃の俺の同級生だ。

 そして、窓際の一番奥の空いていた席にその転校生は坐った。因みに、その隣が俺の席だったりする。


「久し振りだね、マー君……ボクの事、覚えてる?」


 いや、柊木ひいらぎ 柚葉ゆずはという名前の女子なら記憶にあった。

 小学校の帰り道が同じで毎日のように一緒に帰り、一緒に遊び、互いの家にもフリーパスだった男の子のように元気な、でも可愛い顔のスカートを穿いた女の子だ。


「忘れたのぅ?……小学校の帰りに神社で、ちゅー、したじゃない♡」


 ちょ、待ってくれっ⁉

 クラスの皆んなの耳が『ダンボ』になってるんだが?


 いや、勿論……とある、甘酸っぱい(笑)記憶ならある。

 小学校の5年の頃、急に父親の転勤で引っ越す事になった友人から誘われて、最後のお別れに、と神社に行ったのだ。

 二人とも学校の帰りだからランドセルを背負っていた。

 その人気のない神社の境内で、柊木ひいらぎ 柚葉ゆずはという名前のスカートを穿いた女の子と、ちゅー、をした記憶だ。

 殆ど、唇を押しつけただけの、の、ちゅー、だった。

 いや、実際小学校の5年だったし、『お子ちゃま』だったのだが。


 しかし、いま、俺の隣の席からにこやかな笑みを浮かべて、クラスの皆んなの耳を『ダンボ』にしている柊木ひいらぎ 柚葉ゆずはという名前の同級生は、男子のように襟足を刈りあげたショートカットの、女子のような可愛い顔で……学院指定の学ランを着ているんだが。

 いや、俺が居る『青学あおがく』こと、この街随一のエリート校『青芯学院せいしんがくいん』は、れっきとした男子校である。そして、学ランは学院指定の制服なので、その事には何ら問題はない。

 幾ら女子のように可愛い顔と、ソプラノかという高い声質とがあるからと言って、胸も膨らんでいないし、ズボンの…………あ、ああ、あそこは触って確認できないけどぉ……むにゃ、むにゃ……はふぅ⁉


 その時、一限のチャイムが鳴って、ちゅーも、ダンボも、胸も、他のあれやこれやも一先ず棚上げだ(笑)。



 その日の授業はまるで頭に入らなかった。

 しかし、やっと放課後になって解放されると思ったら……

「これから、ウチに来なよ……積もる話もあるしぃ」

 何故か〝意味深な〟顔のユズに誘われてしまった。

 クラスのの視線が(いや、耳が)怖くて俺はユズを急かすように校門を出たのだった。


 ユズの家は記憶の通りの場所にあった。何でもいずれ戻る事が決まっていたのでそのままにしてあったらしい。時々、祖父母が掃除とかしていてくれたそうだ。

 そして、ユズに続いて家にあがると『今日は親は遅いんだ』と有難迷惑な『情報が開示』された。

「わたしの部屋、覚えてるよね?……まだ、引っ越しの片付けが終わってなくて散らかってるけど、ごめんね」

 何故か学校では『ボク』と言っていたのに『わたし』になっている。

 いや、小学校の頃は、『ボク』だったのか『わたし』だったのか、思い出せないのだが。


 しかし、ユズの部屋は(と言うか廊下に幾つか梱包を解いただけの段ボール箱があったが)とても片付いていた。そして、昔の記憶の通り、とても女の子女の子した部屋だった。

 ピンクのベッドカバーの掛かったベッドが部屋を占領しているが、窓のカーテンも花柄だし、ライディングデスクや本棚にぬいぐるみなど飾ってあるし、真っ白いチェストとかあるし(確か昔はその一番下の引き出しが下着だっ……いや、むにゃ、むにゃ)……もう高校女子の部屋と言い切っても良さそうな気がした。

 しかも、部屋に入るなり……


「先に着替えさせてね」


 と、言ったユズが学生ズボンを、すとん、と床に落とした。

「ちょ、まっ……俺、外に出てるから…」

「えっ?……別に構わないよ……昔、市民プール行った時だって同じ更衣室で着替えたじゃない」

「そ、そうだ、った……か?」

 俺はおぼろな記憶を呼び覚まそうとした。


「ふふふ、いまあ、わたしの裸を必死に思い出そうとしてない?……マー君のぅ、えっちぃ(笑)」


 俺が赤くなって顔を逸らすと、何を考えているのかユズがこっちを向いたまま着替えを続ける。

 勿論、ズボンを脱いでもワイシャツを着ているので、ぱんつ、が見える訳ではない。

 しかし、細い足に白い二―ハイソックスとでも呼ぶのだろうか『膝丈』のソックスを穿いている。これって、女子の穿くソックスだよな?


 その格好でワイシャツの上から大きめのトレーナーに首を通す。そこまでは、(二―ハイソックス以外)何も問題はない。

 しかし、更に何やら、もぞ、もぞ、やっていると思ったらその下からワイシャツを脱いだのだ。いや、それ、女子の着替えか……って、ツッコみたいぞ。


 しかも、極めつけは…………えっ?、いや、待てっ⁉、それはっ⁉、幾ら何でも……

 ユズはスカートを穿いたのだった。


 何処からツッコんで良いのか?、いや、ツッコんだら負けなのか?、俺は視線を泳がせるしかできなかったのであるが。


 着替えを終えたスカート姿のユズはベッドに坐り、隣を、とん、とん、と叩いた。

 その意味は間違えようがない。

 俺は少し間を開けてベッドに坐った。

「ふふふ♡」

 ……っと、笑ったユズが腰を滑らせてその隙間を埋める。

 いや、ユズから何か、すげー、良い匂いがするんだが?


「ねえ、ちゅー、したのホントに覚えてないの?」

 いま、それを聞きやがりますか⁉

「ユズが引っ越す前日に神社で……だよね?」

「嬉しい♡……覚えてくれてたんだ♡」

 そう言ったユズが俺をベッドに押し倒した。


 いや、ちょ、待っ⁉


 俺に圧し掛かるように身体を重ねたユズの顔が……ち、近い、ちかい、チカイぃ⁉

「ね?……あの時は唇を押しつけただけの、の、ちゅー、だったよね?」

「しょ、しょうだった、れしゅか、ねへぇ⁉」

 俺は舌が縺れて言葉にならない。

「いまだったら、もっと、……しても良いんじゃないかな?」

「……ど、じょうひゅう、ひみ、でしゅか?」

 俺のイミフな問いをスルーしてユズの顔が、いや、桜色の小さな唇が近づいてくる。

 咄嗟に目を瞑った俺は〝チキン〟のそしりを受けるのだろうか?


 ―― はむんっ、あむっ…(れる、える、るろぅ)…(ちゅぷ、れる、れりゅ)…ん、んぅ…(るろ、れりゅ、えるぅ)…あん、はふぅっ…(りゅち、える、りゅろぅ)……


 ユズの舌が俺の口腔をまさぐり、互いの唾液を混ぜ合わせ、卑猥な水音を狭い部屋に響かせた。

 そして、「ちゅぽんっ⁉」と、エロい音を立ててユズの唇が離れていったのだった。

「はふぅ……」

 情けないが俺は圧倒され捲くりだった。


「どうだった?……わたし、上手にできたかなあ?」

 はい、たいへん気持ち良うごじゃひましゅた⁉

 ……って言うか、ユズのヤツ、何でこんなに、ちゅー、が上手いんだよ。何処で誰としまくっていたんだよっ⁉

 俺の動揺を見透かしたように、ふふふ、と笑ったユズが更にトンデモ発言をした。


「マー君の、硬ったいぃ♡」


 いや、ちょ、待っ⁉

 確かに俺に圧し掛かったユズと身体が密着してるさあ。しかも、良い匂いのするユズとエロい、べろちゅー、をしたんだ。

 反応するよね?、男だったら当然だよね?


 いや、いや、いや……ちょ、待てぇっ⁉


 俺の下腹部のユズ曰く『硬ったいぃ♡』横に、ユズの『硬ったい』ナニかがあるんですが⁉

 しかも、俺のより、デカいんですがっ⁉

 む、胸は……平たい?

 いや、何かトレーナーの下に布でも入れてる感触があるにはあったが……


 ―― ど、どどど、どうしようっ⁉……下腹部に『硬ったい』ナニかを美少女顔の……だ、だだだ、だん……し、とぉ……べ、べべべ、べろちゅー、しちゃったんですがあっ⁉


 そんな人生極まった感のある俺の耳にユズの弾ける笑い声が聞こえた。


「あはは……なんだか、ごわ、ごわ、するなあと思ったらポケットに『マッキー』が入っていたよぅ♡」


 笑いながらユズが『マッキー』を見せてくる。

 さっき、一瞬だが劣等感を覚えた〝アレもどき〟だった。

 いや、ホントにさっき俺の下腹部に押し付けられていたのは、この『マッキー』だったのか⁉


 それから一時間あまり、ユズとどんな話をしたのか、全く覚えていない。

 俺は、何かに急かされるように「用事があるから」と言い訳してユズの家を辞したのだった。



 俺は家に帰ると急いで小学校の卒業アルバムを確認した。

 居た。ユズだ。

 髪の毛はショートカットで、女の子にも男の子にも見えた。顔とか真っ黒に日焼けしていて、むしろ腕白な男の子にも見える。

 しかし、肝心の服装だが……全部の写真を隈なく探したが、全てショートパンツだ。いや、『半ズボン』というべきだろうか?

 勿論、スカートでなくショートパンツを穿く女の子も多かった……ように思う。

 だが、この場合……残念ながら女の子なのか男の子なのかの確証は得られない。


 住所録とかまで確認したが『男』か『女』かを確認する項目はなかった。


 そんな悶々としていた俺の処へ、当のユズから電話があった。

「わたし、マー君に言わなくちゃいけない事があったんだ…」

「うん……」

 俺は唾を飲み込んでユズの言葉を待った。

「あの、あのね……」

 言い難そうにユズが言葉を切った。

「明日、学校ででも聞こうか?」

 俺がそう言葉を掛けると意を決するようにユズが言った。

「えっとね、実はね、わたしね…」

 そこまで言って慌てたように早口でユズが言った。

「あ、ごめん……お母さんが呼んでる……また後で掛け直すよ…」


 ……と、言ったユズからの電話は……朝まで無かったのであるが。


          *


 そのまま眠れぬ夜を明かした俺は決心した。

 今日、学院でまたユズとは顔を合わせなければならない。

 俺は心を決めたのだ。

 ユズが女子でも男子でも……あるいは女装男子でも、俺の気持ちは変わらない。

 俺はユズが好きだ。


 女子でも男子でも関係ないじゃないか……ユズは可愛い。だから、俺はユズが好きだ。

 ―― 以上(笑)。



            【つづく】

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