第22話:日菜太の結婚話。

次の年、桜が舞い散る頃、日菜太は父親から呼ばれた。

日菜太にも舞子のことで親に話があったから、ちょうどよかったのだ。


日菜太は、ゆくゆくは親のあとを継いで親父が経営する会社の社長になって

行くだろう。

ってことは舞子と結婚したら、舞子も将来、社長夫人。


日菜太が出した求人広告「彼女募集」に高額報酬欲しさに応募した舞子。

厳密に言えば、お金が欲しかったことと現状維持したかっただけ。

まあ、そんないいかげんな出会いだったふたり。

いつしかお互い離れなれない存在になって、このまま順風満帆にけば喜ばしい

結果になりはずなんだが・・・。

まあ、順当に玉の輿に乗っかるだけ・・・。


とうぜん日菜太も舞子もそうなると確信していた。


もう結婚しようかって言ってもいい時期かなって思ってた日菜太はとうぜん

舞子にプロポーズするつもりでいた。


ところが・・・日菜太に結婚の話が持ち上がった。

両親が勝手に見つけてきた相手。


相手は取引先の某大手企業のお嬢さんってことらしい。

日菜太の親父の秘書だって女性がそのことを報告に来た。

日菜太と舞子には寝耳に水の話。


もちろん日菜太はそんな話は断るつもりでいた。

もう自分の奥さんになるのは舞子しかいないと思っていたからだ。


父親からの呼び出し。

これはちょうどいい機会だと思った日菜太は両親が決めた結婚話を断ることと

両親に舞子を紹介しようと彼女を同伴して実家を訪れた。


実家を尋ねると、母親が出てきて日菜太の横にいる苺を見ていぶかしそうな

顔をした。


「はじめまして、生田 舞子いくた まいこと申します」


「はあ、どうも・・・日菜太の母の勝子です」

「どうぞお上りになって・・・」


勝手知ったる我が家の応接室に母親に連れられていくと、小肥りな父親が

豪奢なソファにふ踏ん反り返っていた。


「おお・・・来たか?」


そう言ったが母親と同じで日菜太の横にいる舞子をみて、やはりいぶかしそうな

顔をした。

舞子にとってはイヤな雰囲気・・・針のムシロ的な。


「日菜太・・・その方「女性」は?」


「紹介します」

生田 舞子いくた まいこさん・・・現在お付き合いしてる俺の彼女です」


「はじめまして、生田 舞子です」


舞子は目の前にいる日菜太の父親に頭を下げて挨拶をした。


「ああ、どうもはじめまして一吾の父親の宝来 新蔵ほうらい しんぞうです」

「日菜太、彼女がいるなんて初耳だぞ」


「うん、そのうちは紹介しようと思ってたんだ」


「いつからお付き合いしてたんだ?」


「もう、付き合い始めて二年弱になるかな」


「そんな話は聞いてなかったぞ・・・なんでもっと早く広告せんのだ」


「俺たち将来結婚しようと思ってるんだ」


「結婚だと・・・話にならん・・・いいか?遊ぶのも彼女を作るのはいいが、

結婚は許さん」

「どうせ、おまえに寄って来る女なんて金目当てだろうが」


「なに言ってるんだよ・・・ひどいじゃないか、そんな言い方」


父親にそんなふうに見られて舞子はいたたまれなくなった・・・自分は場違いな

ところにいるって思った。


「舞子はそんないい加減な女性じゃないよ」

「彼女のこと、なにも知らないくせいに、そういう無神経なことで彼女を傷つける

のはやめてくれ」

「親父がなんて言おうと反対しようと僕の舞子に対する気持ちは変わらない」

「だから、どこかの会社のお嬢さんとの結婚って話はお断りします」


「なにを言っとるんだ・・・いい話なんだぞ」

「わしの申し出を断るつもりか?」


「とにかく話し合う余地はないから、俺はもう決めてるからね、舞子と一緒になる」

「それが許されないって言うなら僕はこの家を出ていく」


それを聞いた舞子。


「なに言ってるの日菜太・・・そんなのダメだよ」


「俺がそう決めてるの・・・舞子を失うくらいなら家を出る」

「俺だっていつまでも子供じゃないんだ、自分の将来は自分で決める」


「勝手は許さんぞ」

「おまえ、親に逆らって喧嘩を売るつもりか?」


「そんなつもりはないよ、ただ親父と俺とでは物事に対する価値観が違うだけだよ」

「俺は親の強制や金では動かないよ」

「世の中金だけじゃないってことを舞子に教えられた」


「今日は、親父が持ってきた話を断ることと、舞子といっしょになることを報告するために帰ってきた」

「認めてもられないことは分かってた・・・だから俺からの報告以外なにも言うことないから・・・とにかくそういうことだから・・・」

「帰るぞ、舞子」


「お父様、お母様・・・失礼します」


そう言って舞子は日菜太に手をひっぱられながら、両親に頭を下げた。

日菜太は母親が止めるのも無視して実家を後にした。


今日の出来事で、舞子はただただ不安になった。

今日まで日菜太と積み重ねてきた日々が崩れ去る音がした。


日菜太の両親に認められないまま、彼と結婚したら・・・。

できればご両親と和解して自分を認めてもらいたい、舞子はそう思った。

日菜太のことは愛していたけど日菜太の両親との板挟みになるのは避けたかった。


それに日菜太の将来を考えると彼と別れるという選択も残されていたが、

舞子は日菜太を自分の力で幸せにしてあげたいと思っていた。


さあ、大変なことになった。

このまま、すんなり日菜太の両親が舞子を認めるのか・・・。

だが日菜太の心は一点の曇りもなかった、舞子と暮らす、いっしょになる・・・

その想いになんの迷いもなく希望に満ち溢れていた。


俺に奥さんは舞子しかいないんだ・・・そう思っていた。


つづく。



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