第19話:幸せから来る不安。

朝のまどろみの中で、疲れ果て寝ている舞子を見ていると日菜太は、

それだけで狂おしくなって舞子をいじめたくなる。

可愛ければ可愛いほど、いじめたいってそういう衝動にかられる。


そんなことを考えていると、舞子が目を覚ました。


「あ、私、寝てたんだ・・・起きなきゃ」


で、舞子は愛しい人をじっと見つめると目の前にいる日菜太に聞いた。


「ねえ、愛してる?」


「うん?・・・愛してるよ」


言葉は少なくても、それだけ確かめあえば他に言葉はいらなかった。

どちらからとなく、またチュってキスをする。

ハグをしてお互いの匂いと肌の温もりを確かめ合う。


恋人同士ってのは、そうやって常に自分と相手を確かめていたいもの。

愛し合ってるのは分かってるけど、そうしていないと不安になる。


朝からふたりはラブラブ、ゴロゴロしてたもんだからすぐに昼が来た。


今日の昼食は「ペペロンチーノ」アルデンテ。


昼食の後、テレビを見ていた舞子は日菜太の横で彼の肩に頭をもたれて

うたた寝をはじめた。

可愛い寝息を立てて・・・。


朝の激しい営みで舞子は少し疲れたのかもしれなかった。


日菜太は、くだらないニュースをやっていた情報番組を消した。

部屋の中はエアコンの音以外、なにも聞こえない。

高層マンションは外の音は拾わない。


日菜太は舞子の寝顔を見ながら自分たちの将来のことを考えていた。

もうそういうことを考えてもおかしくはない時期に来てると思った。


お互い愛し合ってることに疑いはないんだけど、幸せって反面それゆえに

不安も強くなって行く。

万が一にもいつか舞子と別れるなんてことがあったら耐えられないと思った。

僕の愛しい舞子を失いたくない。


自分自身や自分がやってることに自信がないわけじゃないんだけど・・・

それでもって日菜太は思った。

明日のことなんか誰にも分からない。

明日、舞子から突然別れを告げられるかもしれない。


幸せは大きければ大きいほど失った時のショックはハンパないんだ。

日菜太いつになくナーバスになってる自分に首を横に降った。

そんなことを考えたってしょうがないだろう?

だって舞子がここを出て行く要素なんてどこにもないんだから・・・。


日菜太のそれはきっと結婚前に女性が陥るマリッジブルーに似ていた。


「日菜太・・・どうしたのボーッとして?」


「あ、舞子・・・起きたの?」


「難しい顔して何考えてたの?」


日菜太の顔に浮かぶ不安の影を敏感な彼女は読み取ったのかもしれない。


「いや、まじでなんでもないよ・・・暇だからボーッとしてただけ」


「そうなんだ・・・」

「じゃ〜私が相手してあげる・・・ただし昼間のエッチはなしで・・・」


「朝昼晩にエッチってすごいよな・・・やってみる?」


そう言った日菜太を舞子はクスクス笑いながら見た。

その可愛い笑顔を見てると別れる要素なんてどこにあるんだよって日菜太は

思った。


日菜太は自分の不安要素なんて舞子に話したらバカだねって言われそうって

思ったから、余計なことはクチしなかった。


ただ、なにも言わず、舞子を抱きしめた。


つづく


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