第34話 今ある『予定』の代案を

 シンシアとリュークがお喋りし始めるところを見届けて、戻ろうとしたところ……。


 クローディアがシンシアのもとへ歩んでいった。


「むっ、なんですか異教の聖女。今いいところですのに」


「お伝えしたい大事なことが」


 クローディアはシンシアをリュークから一旦引き離して、耳打ちする。


「リューク様は見た目は幼いですが、魔族ですので年齢はわたくしたちより高いです」


「それが? 知ってますけど」


「つまり人間より成長が3倍遅いわけでして……」


「はっ!? 少年時代が3倍長く楽しめる!?」


「さらに実際にお話ししてわかったのですが、体と知識のバランスも異なります。知識があって興味津々でも、体や心は幼く、まだ対応が難しいかと」


「では、せ、せ、精通も……ッ?」


「まだのはずです。なので――」


「ええ、わかっています。この私がしっかりと、責任を持って、精を通じさせてみせます……ッ! これも未来ある少年を正しく導くため!」


「いえそうではなく、まだ早いのではないかと思って……」


「いいえ、早い子なら10歳くらいからできますから! ふふふっ、よく知らせてくれました。異教の聖女――クローディアさんと申しましたね……。見直しました。私たち、友人になれるかもしれません!」


「そう言っていただけて嬉しいのですが……。わたくしはリューク様のお体が心配で」


「問題ありません。本当にまだ早かったとしても、楽しむ方法はありますので!」


「そ、そうですか。さすが少年の体についてお詳しいですわね……」


「ええ、この機を逃す手はありません。ご無沙汰ですのでっ」


 ふんふんっ、と鼻息を荒くしながら、シンシアはリュークのところへ戻っていく。


 シンシア、それでいいのか? もはや隠す気ないじゃん。オープンスケベじゃん。クローディアの影響だろうけど……。


 クローディアはため息をひとつ。


「……困りました」


「いやまあ、リュークもシンシアは気に入ったみたいだし、本人が望むならおれたちが止めることでもないんじゃないか。」


「それはそうです。シンシア様はわたくし以上のドスケベでやはり尊敬いたします。ただ、困ってしまいましたのはべつの話でして……シンシア様とお話しているうちに、わたくしもムラムラしてきてしまいまして……」


 求めるような瞳を向けてくる。


「君も君ですごいドスケベだけど?」


「お嫌ですか?」


「嫌ではないけど……時と場合は選ばないと」


「では……今夜は、疑似おねショタプレイを。アラン様は精通前の少年という設定で……」


「なにが『では』なの!? なんですることになってるの!?」


「時と場合と気分から選んだのですが」


「余計! 気分は余計!」



   ◇



 翌朝。


 リュークはシンシアにべったりだった。一緒に寝ていたし、朝食中もずっと触れ合っている。


 そしてシンシアも、とろけたようなだらしない笑顔を浮かべているのである。そのくせ、リュークと話すときは、しっかりした聖女の顔を取り繕う。さすがと言うべきか。


「えへへっ、えへっ。シンシア好きー」


「ええ、私も好きですよ。リュークくん」


 事情を知らないセシルやランドルフは、その様子に怪訝な目を向けていた。


「ずいぶん懐いたものだ。リューク王子、そんなにシンシアが好きですか」


「うんっ。ボク、シンシアと結婚するー」


 ぶほっ、とランドルフはむせた。


「お、王子、それはなりませんぞ。お忘れか、人間と魔族が共存していくためには、人間と魔族は相いれぬ存在で有り続けなければならぬのです」


「えー、そんなのやだよぉ~」


 シンシアはそんなリュークの頭を撫でつつ、困った表情を浮かべた。


 こいつ、後先考えずに手を出したな……。


 シンシアのやらかしをフォローするわけではないが、思うところあって口を出す。


「ランドルフ、おれはそうは思わない。敵であり続ける以外のやり方だってあるはずだ。要は、同胞同士が争わずに済めばいいんだろう? それは、お互いを敵にしなくても、実現できるはずだ」


「ほう、どうやって?」


「それは……」


「アランよ、理想論も結構だがな。できないことを口にするものではない」


 嘆息してランドルフは続ける。


「よしんばできたとしても、お前が思うほど上手くはいくまい」


「モステルの街では上手くいってる。リュークとおれたちだって」


「モステルは特別だ。人間や魔族、魔物モンスターのはぐれ者が集った街だからな。だが大多数はそうはいかん。人間の大多数が信じるラーゼアス教を、魔族は知らぬ。ただでさえ敵対関係にあるのに、さらに文化的な軋轢も生まれれば絶望的だ。リューク王子とシンシアにしても同じだ」


 シンシアはリュークを抱きしめつつ、ランドルフを見上げる。


「宗教や文化は私が啓蒙します。それに私もリュークくんから学びます」


 さらにクローディアも口を挟む。


「シンシア様が、いたいけな少年に啓蒙すると仰ると別の意味に聞こえますね」


 かくんっ、とずっこけかける。


「話の腰を折らないでくれます? せっかく築いた友情を壊したいのです?」


「申し訳ありません。少し和ませよう思ったのですが……」


「和みますかっ? 今ので!? 貴女、私ならいくらでもイジってもいいと思っていません!?」


 怒られてクローディアはしゅんと肩を落とす。


 まあまあ、とセシルがシンシアを宥める。


「でもランドルフ、これについては、ぼくもアランやシンシアに賛成だよ。交流してみたら意外と上手くいくかもしれない。でもまあ、仮定に仮定を重ねた話を今しても仕方ないよ」


「うむ。まずはブルース王子を止めるのが先決だ」


 ランドルフは深々と頷く。


「これより遺跡を攻略する。準備はいいな?」


 セシル、シンシアは頷く。彼らに同行するらしいリュークも同様だ。


 こちらのパーティ――クローディア、カナデ、ウォルもそれぞれの言葉で返事をする。


 しかし。


「こちらはまだ打ち合わせが残ってる。セシルたちは先に行ってくれ。すぐ追いつく」


 おれはそう言って、メンバーを制止した。


 若干呆れた様子で、セシルは苦笑する。


「君らしくないなぁ。わかった、先に行くけど、本当に早く来てよね。君の罠解除技術、頼りにしてるんだから」


 セシルはさほど気にした様子もなく、メンバーを促して遺跡へ入っていく。


 残った3人が、不思議そうにおれを見つめている。カナデが最初に口を開いた。


「アラン殿、打ち合わせならもう済ませたはずですが……」


「ああ、実は考えてたことがあってな。セシルたちは、たぶん反対するだろうから、みんなとだけ話したかったんだ」


 にやり、と笑ってみせる。


「今ある『予定システム』の代案をな」




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次回、その代案を聞いたクローディアたちの反応は?

『第35話 性欲って言うな! せめて愛って言え!』

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