第20話 いい趣味でいらっしゃいます♪
カナデがランドルフと対峙する中、クローディアはシンシアと相対していた。
ランドルフへの強化魔法や、カナデへの攻撃魔法を繰り出そうとするシンシアだったが、そのたびにクローディアが妨害魔法を発動させて阻止しているのだった。
「以前より、ずいぶん強い神力を得たようですね。この私の魔法をことごとく妨害するなんて」
妨害魔法は対象者と力量差が大きいと失敗するが、クローディアはそのすべてを成功させていた。
睨みつけてくるシンシアに、クローディアは微笑みで返す。
「はい、たくさん可愛がっていただいておりますから。むしろ、シンシア様はずいぶん減ったような……? 教会へは行っておられないのですか?」
「貴方にあんなこと言われて、行けるわけないでしょう!」
「だからそんなにストレスを抱えたご様子だったのですね。そんなときは、寂しいでしょうが、おひとりでするのも――」
「ストレスは貴方のせいです! よくもこの私をドスケベ呼ばわりしましたね! お陰でミュルズの街で、どんな目で見られたことか!」
「あなたもむっつりをやめてオープンになればいいのです。始めは恥ずかしいですが、だんだん解放感のほうが勝ってきますのよ」
「ラーゼアスの聖女がそんなことできるわけないでしょう! それ以前にドスケベなどではありません!」
クローディアは今日一番の驚きを見せた。
「そんな!? ドスケベ同士、シンシア様とはいいお友達になれると思っておりましたのに」
「どの口が言うのです!」
シンシアはいよいよクローディアに直接攻撃を仕掛ける。危うく回避して、クローディアもロッドを構える。同時に、もう一方の手で用意していた薄い本を掲げる。
「そんなこと言わず、これを受け取って仲直りしてください!」
「なんですか、その本は」
「シンシア様に贈り物です。あなたのことを考えて一生懸命選びました。正直、手放すのは惜しいですが……どうぞお受け取りください!」
懸命に訴えられて、さすがのシンシアも気勢を削がれてしまったようだ。
差し出された本を手に取り、表紙をめくってみる。
「って、エッチな本ではないですか! 貴方、とことんまで私をバカにしているんですね!?」
「待ってください! よく見てください、きっと気に入るはずです!」
「いったいなんだというのです」
シンシアは改めて本に目を落とす。その数秒後、目の色を変えてペラペラと勢いよくページをめくりだす。
「こ、これは!? まさかノーラ・ピグマ先生の……ッ!?」
「はい。シンシア様は幼い少年とお姉さんの絡みがお好きと思いましたので。しかも写本ではなく原本ですわ」
「原本!? 超貴重ではありませんか! えぇ、こんなお宝、本当にもらってよいのです!?」
喜色に染まるシンシアに、クローディアはにんまり笑顔を浮かべる。
「さすがシンシア様、お詳しいですね」
「――はっ!? ち、違います! たまたま知っていただけです! 私のような者がおねショタなんてもの知ってるわけないではないですか! 本当に、偶然知り得ただけなのです!」
「ちなみに、贈り物候補の中には、途中から主導権が少年に移ってしまう本や、少年がお友達をたくさん連れてきてしまう本などもありましたが――」
「は? そんなの認めませんよ。いたいけで無垢な少年を終始リードするのがいいのではないですか」
「さすがシンシア様。いい趣味でいらっしゃいます♪」
「――って、あああ違うのです! 違うったら違うのです! 本当に違うのです!」
「違うのですか? 本当に? では、その本はわたくしもお気に入りですので返していただけますと……」
「だ、ダメです! このようなもの所持することは聖職者たる私が許しません! 私が没収の上、しっかり中身を検分してどう処分するか判断します! ええ、聖職者ですから! 当然の責務です!」
「そうですか。じっくりご堪能くださいね」
「ええ、ありがと――ではなく! あーもうっ! 貴方はどうしてこう私のペースを乱してくるんです!」
むきーっ! と赤面しながら、シンシアは駄々っ子のようにぽかぽかと拳を振るう。しかし、大事に抱えた本を傷つけないよう配慮しているためか、威力はとても弱々しい。
クローディアはどこか楽しそうに拳をかわし、時には受け止める。まるでじゃれているかのようだ。
おれは、そんなシンシアの背後に回り、ぱこんっ、と頭に一撃を加える。
「きゅうっ」
シンシアは失神したが、本は大事に抱えたままだ。
「まあアラン様、そこまですることはありませんでしたのに」
「でも、やっつけられるうちにやっつけておかないとね」
続いて、改めてカナデとランドルフの様子を見遣る。
カナデが魔法を斬れたのは、まだ先程の一回だけ。その後はウォルの援護もあって致命傷は避けているものの、食らい続けてしまっている。
火傷に凍傷。流血も多数ある。このままではカナデの敗北は必至。助太刀不要とは言っていたが、おれも援護に入るべきだろう。
だが当のカナデは、ボロボロの状態でも笑みを絶やさない。
「くくくっ! もう少し、もう少しで掴めますぞ、くくくっ!」
「バカめ……。そこまでして魔法を斬りたいか」
「ええ! またひとつ強くなれますからな! 付き合っていただきますぞ!」
「なにを話しても意味がないわけだ。小娘、お前は狂っている!」
「それのなにが悪い!? 己の目標にさえ狂えぬ者が、いったいなにを為せると言うのです!?」
叫ぶが早いか、一気に接近して斬り込む。
予測していたか、ランドルフは魔法の盾でこれを弾く。
さらに魔力で強化した杖で、カナデのみぞおちに鋭い突きを入れる。いつものカナデなら余裕でかわせるだろうが、ダメージで鈍った動きでは直撃だ。
「く、あっ」
たたらを踏むカナデ。その頭部に杖を向けるランドルフ。
トドメの魔法が放たれる寸前、おれは矢を放った。ランドルフの杖に命中して、狙いを逸らす。
次の瞬間、ウォルがランドルフの足元に粘液を吐いた。粘性の高いそれは床とひっつき、ランドルフをその場に捕える。
そこにギラリと目を光らせてカナデが踏み込む。
「とったぁッ!」
――ギィン!
誰もが決着を確信した見事な一撃だったが、しかし、一瞬早くランドルフの前に出た者の剣で受け止められていた。
セシルだ。カナデはますます口角を歪める。
「ほう、次はセシル殿――がッ!?」
言葉の途中でカナデは前のめりに倒れ伏した。
セシルが素早く剣の柄でカナデを打ち据え、失神させたのだ。
「セシル……お前は、そっち側に決めたってことか?」
「…………」
行動に反して、セシルの表情にはまだ迷いが滲んでいた。
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※
次回、アランとの口論の果てに、セシルが下す決断は!?
『第21話 おれにだってわからねえよ!』
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