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どれくらい下りたんだろう、到着したエレベーターが開くと広々とした空間が私を迎えた。左右にはソファが置いてあって、自販機も幾つか並んでる。しかも飲み物とスナックの自販機が左右にそれぞれ。全体的に木材で作られたこの空間はいるだけで癒される居心地の好い場所だ。
「ここは主に特殊戦闘部の方の部屋があります。その他の部署の方の部屋もあるんですけど、部署によっては殆ど部屋を使わない人も少なくないので、全員が必ずこの階に戻って来るという訳じゃないんですよね」
「ちなみに他の部署っていうのは何があるんですか?」
「総司令部。作製部。通信部。特殊戦闘部。研究開発部。記録部。外交部。生活部。主な部署はこんな感じですね」
「結構あるんですね」
「そうですね。中には余り関わらない部署もありますし、何となくで覚えていいと思いますよ。それじゃあ美沙さんの部屋はこっちなので」
そして先に歩き出したナナさんに続き、ホテルのようにずらりと並んだ部屋の間を進んでいった。
「基本的に部屋は部署で分けられてますので、周辺には同部署の方の部屋があるって感じですね」
廊下と一定間隔で並ぶドアの代わり映えしない通路を進んでいくと、ナナさんの足が止まり私の部屋に到着したらしい。
「ここが美沙さんのお部屋です。そこに触れると開く仕組みになってます」
言われた通りドアの隣にあったタッチパネルに掌を触れさせてみると閉じたドアが横へ開いた。
一歩中へ入ってみると、予想以上に広く白を基調とした少し良いホテルの一室といった感じ。
「わぁー。ここに住めるんですか?」
思わず感嘆の声が零れる。
「今日からこちらが美沙さんのお部屋ですよ。それと特殊戦闘部の方は新人さんと先輩が同室となる決まりです。部署に馴染むのと色々と教わるのが目的らしいですよ。ちなみに美沙さんと同室の方はレティ・ディギウスさんです。今は少し出てるので会うのは数日後になっちゃいますけど」
「どんな方なんですか?」
「それは会ってのお楽しみということで。それに人から聞くより自分で会って確かめる方が確実ですからね」
レティ・ディギウスさん。まだ見ぬ同居人に少し心躍る。それにこれから一体どんな生活が待っているのか、想像するだけで――すると突如、私は直近の記憶に引っ掛かりを感じた。一人小首を傾げ脳内で記憶を逆再生していく。
それは私がこの部屋に感動した後に聞いたナナさんの言葉。
「あのナナさん」
「なんですか?」
「新人と先輩が同室になるのって――」
「特殊戦闘部だけですよ」
「って言う事は私って……」
「はい。特殊戦闘部への配属ですよ」
人は心の底から信じられない言葉を聞いた時、思考がフリーズしてしまうらしい。まるで難解な専門用語を並べられたかのようにその言葉を理解するのに少なくとも数十秒は掛かった。
「えええぇぇぇー!」
そして沈黙を突き破り叫声を上げた私は襲い掛かる様にナナさんへと近づき両肩に手を伸ばした。少し怯えたように苦笑いを浮かべるナナさんすら気にならない程に頭は埋め尽くされている。
「い、いや。でも私戦うなんて……私。無理ですよ! 無理ムリ絶対に無理です!」
「そう言われても……。そう聞いてるんで」
「誰が決めたんですか!? 誰がそんな無慈悲な事を!」
「基本的にスカウトされる方は殆どが特殊戦闘部ですので。あとは外交部ですかね。その他は昔からミノル族とティクシ族が担ってるので」
「じゃあ私を外交部に!」
「いやぁ私に言われても……。それに美沙さんはサンタさんの推薦なので部署もサンタさんによる決定だと思いますよ。そうだったら異議を申し立てるのは支部長ぐらいしか……。でも流石に承認してる時点で特別な理由がない限りは無理かと」
「そんな……」
絶望に打ちひしがれた私はとうとう崩れ落ちてしまった。へたれ込み最早ただただ床を見つめる事しか出来ないこんな私に一体何が出来るというんだろうか。
「と、兎に角ちゃんと訓練もあるので大丈夫ですよ。それじゃあこれをどうぞ」
そう言ってナナさんはスマホを差し出した。
「機関員に支給されるスマホです。他の機関員との連絡を含め色々と必要になるのでなるべく手元に置いておいてくださいね」
「はぃ」
渋々とスマホを受け取った私は顔を上げる事すら出来ずにいた。
「それと本日の十五時から特殊戦闘部の入隊式がありますので、五階にあります第一訓練室までお願いしますね。支部内のマップはそのスマホにあるので、それを見るか誰かに訊いてみて下さい」
「はぃ」
「それじゃあ何か訊きたい事とかありますか?」
「いぇ」
「もし後で思い付いたら気軽に連絡して下さいね」
「はぃ」
「それでは、ようこそエクスレイへ!」
少し顔を上げ若干の上目遣いで見てみると、ナナさんが人差し指を立て可愛らしいポーズを取っていた。愛らしい笑顔で愛らしい姿のナナさん。気が付けば私はスマホで写真を撮っていた。しかも連写で。
「そんなに連写されるとちょっと……」
無言で撮る私にナナさんは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべるが、むしろそれは逆効果。私の指は画面へより一層くっついた。
「あ、あの……」
その言葉の後、そっと撮り終えスマホを置いた私は正座をすると和を重んじるように丁寧に頭を下げた。
「ご馳走様でした」
「お、お粗末さまでした?」
顔を上げてみれば小首を傾げるナナさん。私は疼く右手を必死で押さえ込んでいた。
「それじゃあ十五時ですからお忘れなく」
「はーい」
そして私はすっかり和みながらナナさんを手を振って見送った。
だけどすぐにさっきの事実が頭を埋め尽くすと、崩れるように地面へと両手を着け顔を俯かせた。まるで悲劇のヒロインの様に惨めに床にへたり込み、顔すらも上げれず今にも倒れそう。そんな状態のまま私は現実を受け入れらずにいた。
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