day23:ストロー

 大神くんに書いてもらった書類に、言われた資料を同封して裁判所に送った。そしたら裁判所からまた手紙が来た。

 字面からすると相手が裁判をやめたってことだとは思ったけど、私と妹とはそれぞれ意地とドジで裁判になった姉妹であるので、念のためと思い、私は大神くんの事務所に電話した。

 でも、今外出中ですとのこと。戻ったら折り返させると言われたので、私はかかってきたのがわかりやすいよう、スマホをジーンズのお尻ポケットにねじこんだ。


 ところがタイミングというのは合わないもので、折り返しは私が運転している最中にかかってきた。

 我が家の車は年式の割に走行距離が短いお買い得車で、デジタル系の装備はお粗末。運転中にかかってきた電話は、だから、運転しながらは出られず、私は赤信号でようやくお尻のスマホを引っ張り出したが、当然手遅れ。


 私はため息をつくとスマホを助手席に放り投げ、目的地のスーパーの駐車場から改めて電話をした。でもまたも大神くんは不在。弁護士って結構出かける仕事多いんだな、と思いながら折り返しをお願いしようと思ったら、事務の人が「さきほどもお電話いただいていますよね?」と聞いてきた。

「あ、はい、そうです。一度ご相談に伺った……続きでお聞きしたいことがあって」

「ちょっとこちらから連絡とってみます。このあと五、六分くらいお時間ありますか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「すみません。少し待っていてくださいね」

 そう言って事務の人は電話を切ったので、私はハンドルにスマホを立てかけるようにして電話を待った。ほどなく非通知番号から電話がかかってきて、私はちょっと緊張しながら通話ボタンを押した。電話の主は大神くんだった。私は用件を伝えた。

「この間書類書いてもらった裁判さ、裁判所から、取下書っていう書類届いて。どうしたらいいか聞きにいきたいんだけど、また予約取れる?」

「もう今答えていい?」

「え、タダじゃだめでしょ」

「こないだのおまけみたいなものだから、いい」

 そうなんだ、と相づちをうち、私はスマホをスピーカー通話にして写真フォルダを開いた。一応、送られてきたものは写真を撮っている。見ながら聞いたほうがいいと思って。

「これ、放っておいていいのかな?」

 大神くんは私が読み上げた文面を聞き、妹にも来てるかを確認してから、なら、と言ってすらすら返事をした。私はその内容を(たぶん)理解して、答えた。

「じゃあほっとこっと」

「それでも実害はないと思うよ。今回は」

「わかった、ありがとね。出先でしょ? ごめんね」

「いや、お昼並んでるだけだから大丈夫」

 私は「並んでるんだ」と呟きながら顔を上げ、スーパーの建物のほうを見た。あそこに行列あるけど、さすがに違うと思う。

「ドーナツじゃないよね」

「違うよ。カツ丼。駅前の」

「爆盛りのとこじゃん。意外とがっつり系なんだ」

「それでも学生の頃よりは常識的な量だよ。じゃあ切るから」

 私は、うんありがとう、と返しながら通話を終え、スマホを助手席に放り出すと大きなため息をつき、ハンドルの上に伏せた。


 そう言われれば私、中学の同級生と言いながら、彼のこと実はほとんど知らない。見た目でチヤホヤされてたけどいつもしらっとした顔だった彼には、遠くから、なんとなく勝手に、すごくスカスカな印象を持っていた、の、だけど。


 私は、夫が写真を送ってきたこともあるくだんのカツ丼を、約二十年ぶりにそのスカスカ部分に詰め込んで、思わず「だいぶ重いな」、と笑った。

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