素人童貞記
共通の知人X
六月二十七日
大学の帰り、いつものように渋谷駅から横浜駅まで東横線の電車に乗っていたところ、ふと中途の菊名駅に停車中、文庫本から顔を上げると、斜向かいの座席に、初恋の人によく似た女性が座っているのを発見した。
僕と彼女とは地元の小学校の同級で、我々は三年の時と、あと五年と六年の時に同じクラスであった。自分はその三年時に教室で初めて彼女を見た瞬間、彼女のことを好きになり、以降四年間、岡惚れを続けた。
けれど我々の間には別に何の恋の発展もないまま、僕は小学校を卒業し、彼女と別れた。彼女は私立の大学附属の中学校に進学し、自分は地元の中学校にそのまま進学した。
もし今日の女性がその彼女であるならば、我々はおよそ九年振りに再開(?)を果たしたことになるのだが、と言っても無論自分は彼女に声を掛けるなんて、そんな通俗小説に登場する青年気取りの野蛮な行動は起こさなかったので、今日彼女とは何かしら会話等があったわけではなく、だからこの場合、再開と言うのはいささか不適切な表現であろう。
それにそもそも彼女の方では僕の存在など路傍の石くらいにしか捉えていなかったはずで、九年という月日の間に、僕の顔も名前ももうすっかり忘れてしまったに相違ない。
ただ僕としては少し懐かしい思いがした。
途中日ノ出町でラーメンを食べたあと、帰宅して『青春ロック座』の執筆を進める。
これは八月末の織田作之助青春賞に応募するつもりの短編であるが、この調子ではどうも期日までに終わりそうにない。
ただ一昨日、神奈川文芸賞には短編を応募出来たから、仮に『青春ロック座』が間に合わないとしても、今年はまあ良しとしよう。
これから明日のドイツ語の宿題をやって、あとは『破船』でも読んで寝るつもり。
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